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第10話 ダウナー系後輩 6\14(金)

執筆って、結構時間かかるんだなぁ・・・。

みんなすげぇや


「何でそんなとこにいるんだ?」


 俺は何故か屋上の入り口の屋根の上にいる女子生徒に問いかけた。


「午前の授業サボってたら寝ちった」


 悪びれた様子もなくそう言った。サボりの常習犯なのだろうか。本当に言ったとおりなのだろう、彼女の髪には寝癖が付いている。


「君は確か・・・1年の熊谷だったっけ?そんなとこ登っちゃダメだろ」


 俺は先輩らしく熊谷を注意した。しかし彼女は気に留めてないのか、軽い口調で言った。


「真凛って呼んでー。ワタシ、苗字で呼ばれるのキライなんだよねー。ほら、熊谷って名前、チョット怖そうじゃなーい?」


 彼女はそう言ってその場から、軽やかに飛び降りると俺の目の前に華麗に着地した。


 彼女は熊谷真凛。いつも眠そうな目をしており、ダウナー系の話し方が特徴的な1年女子である。俺との面識は無く、廊下で何度かすれ違ったことがある程度だがたまたま名前は覚えていた。

 熊谷が俺の目の前に立つと、目線の高さはほぼ一緒だった。身長は俺と同じか、少し高いくらい。恐らく160cmに届かないほどだろう。不思議なことに、いつも薄羽のとか柚葉とか長身の女の子を見ているからか、自分より背が高いはずなのに熊谷が小さく見える。


「熊谷じゃ嫌なのか」


「もっとかわいー呼び方がいー」


 脱力した声で答える熊谷。

 いくら何でも仲良くもない後輩女子を下の名前で呼ぶのは気が引けた。そのためその場でパッと思いついた仇名をつけた。

 

「クマリンでいい?」


「それでもいーよー」


「いいんかい・・・」


 俺が冗談のつもりで言ったら、熊谷に脱力した声で快諾されてしまった。


「そんじゃーワタシもアンタのこと・・・。ゴメン、名前何だっけ?」


 案の定、熊谷は俺のことを知らなかった。そもそも俺の方が学年が上であるはずなのにタメ語で話かけている時点で予想はついていた。


「瀬尾達彦。2年生だ」


「マ!?先輩だったのー!?小さいから同級生かと思ったー。ゴメンなさいっ」


 予想通りの反応をした熊谷が素直に謝った。

 後輩から同級生に間違えられる事象はよく経験している。身長も小さく顔も童顔なので、中学生に間違えられたことすらある。


「別にいいよ。慣れてるしな」


「やっぱりー?先輩可愛いから仕方ないねー」


 先輩に向かって可愛いとは、コイツには俺を敬うつもりは一切ないらしい。事実、俺が先輩だということを知ってからもタメ語は直っていない。

 

「じゃあータッちゃんって呼ぶねー」


「先輩につける仇名じゃねえよ、それ」


 あまつさえ仇名さえつけられてしまった。何か最近聞いた気がする呼び方である。何処で聞いたっけ。

 俺は脱力しながら、話題を変えるために熊谷の名を呼んだ。


「それで、熊谷は・・・」


「クマリン」


「え、それは冗談のつもりで・・・」


「クマリン」


「さすがに初対面で・・・」


「クマリン」


 クマリン呼びがそんなに気に入ったのだろうか。熊谷は俺の呼び方を訂正してきた。

 話が進まないので仕方なく彼女の望み通りにしてやる。


「それで、クマリンは何で俺に話しかけてきたんだ?」


 やっと本題に入れた。熊谷はさっきまでの俺と薄羽のやりとりを見ていたようだ。薄羽が自分の身長にコンプレックスを持っていることは、言い方は変だが二人だけの秘密である。それも薄羽が他の人に知られるのが嫌だからであって、そのため熊谷にそのことを知られるのはマズい。

 俺の問いに、熊谷は顎に手を当てて思案しながら答えた。


「さっきのあのコ、確か薄羽さんっていったっけ?ワタシと同じクラスなんだけどー、タッちゃんとしゃべってるときの雰囲気がクラスでの様子とだいぶ違うなーって思って」


 タッちゃん呼びが熊谷の中で定着してしまった。もう訂正するのも面倒なのでそのままはなしを続ける。


「どう違うんだ?」


「うーんとねー・・・。薄羽さん、クラスではかなり大人しいコなの。挨拶はするんだけど、あんまり会話には混ざってこないカンジ。だから控えめな性格のコなんだなーって思ってたんだけどー・・・」


 大体想像できる。薄羽は過去のトラウマから、人、特に男性と深くことに恐怖感を抱いている。そのため、あまり積極的に他人と仲良くなろうとはしない。その人と仲良くなれば仲良くなるほど彼女のトラウマが蘇るらしい。ただ薄羽本人は、自分はコミュニケーション障害ではないのでクラスではうまくやっている、と言っていたが。


「クラスで浮いてるのか?」


「浮いてるワケじゃないなー。愛想もいいし、表情も豊かだし、話してみると楽しいよー?けど自分のコトを話したがらないのかなー?ミステリアスというよりは隠し事してるカンジ」


 どうやら薄羽は、自分のコンプレックスを知られたくない故にクラスの生徒とは一定の距離を置いているだろうが、そのことを熊谷に勘付かれていた。熊谷は脱力系な雰囲気に反して察しはいい方なのかもしれない。


「隠し事?」


 俺は何のことかさっぱり分からない、という風に首を傾げる。それも薄羽自身が周りに隠していることが俺のせいでバレてしまうのはバツが悪いからだ。


「タッちゃん知らないのー?カレピなのにー?」


「いつから俺がアイツの彼氏になったんだ。ただの部活の先輩後輩の関係だよ」


「そんな風には見えなかったなー?普通なら後輩の女の子にあんなセクハラしないよー?」


 セクハラとは言い方が悪いが、心当たりはある。恐らく薄羽の足裏をくすぐっているところを見ていたのだろう。


「どっから見てたんだ」


「うーん、タッちゃんが脚フェチって話からかなー?」


「その話は忘れろ」


「それにしても楽しそうだったなー、薄羽さん。まるでカレピにジャレついてるみたいだったよー?」


 熊谷からすると俺たちは仲睦まじく乳繰り合ってたように見えたのだろうか。確かに今日のリハビリはいつもよりスキンシップが多かった。この前カラオケに行くまでの間、俺と手を繋いだときからスキンシップへの抵抗が減ったように思う。


「だから彼氏じゃないって」


「あんなに好き好き言ってたのにー?」


 そのセリフもばっちり聞かれていたのか。今思うとさっきの俺は告白まがいのようなことを口走っていた気がする。


「それは方便だ」


「あんなこと言われて意識しない女の子はいないよー?


「じゃー何であの子はタッちゃんにだけあんなに朗らかな表情をするの?まるで安心しきったような・・・」


 熊谷は少しばかりの逡巡のあと、得心がいったように肯いた。


「あー、そーゆーことー?もしかしてタッちゃん、あの子の隠し事の中身知ってるー?」


 シャーロック・ホームズ顔負けの推理力である。


「・・・何のことかわからないな」


「ウソつくの下手だなー、タッちゃん。顔に書いてあるよー?」


 俺は思わず刑事ドラマのシラを切る犯人みたいな返答をしてしまった。これでは暗にそうです、って言っているようなものだ。


「薄羽さんの隠し事って何なんだろー?タッちゃん知ってるんでしょー?」


 熊谷は俺がチョロいと見たのか、露骨に探りを入れてくる。その態度にイライラしてしまった。


「お前には関係ないだろ?」


 随分冷たい言い回しになってしまった。

 この際薄羽が隠し事していることがバレてしまったのはしょうがないが、その内容は彼女のトラウマに密接に関わるため知られてはいけない。


「そーだねー。けどワタシ、あの子に興味があるの」


 俺の言葉を受けてもなお、熊谷は折れなかった。普段脱力感満載の彼女が、真剣な眼差しで俺を見つめていた。


「タッちゃんと話してるときの薄羽さん。とても可愛いかったー」


 恍惚とした表情で語る熊谷を見て、何やら不穏な雰囲気を感じ取った。この感じ・・・。






「あのコと付き合ってないなら、ワタシが奪っちゃっていい?」







「お前、レズビアンだったのかよっ!?」


「男の子も好きだよー」


「バイじゃねーかっ!!」


「あの子の脚、長くてキレイだよねー」


「まさかの脚フェチ!?同志よ!!」


 


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