俺は金持ちだ、しかしバレないように生きてたら全くモテない
西暦2100年。
俺は超金持ちだ。
どれくらい金持ちかと言えば、火星での広大な土地持ち。
小惑星の521個の所有権を持ち、今も採掘中。
火星の土地には6つの街が聳え立ち、不動産収入は月に33白フェニ。
白1フェニは1000億の価値だ。
しかし、月に32白フェニを地球の復興と、土星衛星、マニハミの開発に寄付している。
寄付すればレベルが上がる。
レベルは無限。
一般的に知られているレベルは268。
歴史の教科書に載る人だ。
えーっと、イーロン・マスク?だっけ?その人のレベルが268。
それが知られている最高レベルだ。
しかし、世の中は広い。
目立つのが嫌いな金持ちはいくらでも居る。
俺が知ってるレベルでは360が最高だ。
それが俺の父親。
表歴史の教科書に載せない事も選択出来る。
親父は裏の歴史教科書に載っている。
裏の歴史教科書は、レベル101から閲覧出来る。
内容は話すのは禁じられている。
とまあ、ここまでが前座。
俺のレベルは887レベル。
裏歴史教科書にも載ってない、ゴッドマザーという厳重な紙媒体のファイルに記載されている。
これを閲覧出来る人は、ここに記載されている人物に限る。
その人物は宇宙で84人。
210億人の内、84人。
さあて、そんな俺は、親父の事業を拡大させ、奴隷を雇いまくり、待遇を好条件にし、医薬、医療、悪徳企業の成敗と、なんやかんや。・・12歳の時が活躍のピークだったなあ。
そしてなんやかんやあって、今30歳。
そろそろ結婚したい。
昔に一夫多妻制度は完全廃止された。
理由は、まつわる事件が多いからだ。
それに、レベル制度と財産は別だ。
財産は親から相続出来るが、レベルは相続出来ない。
一夫多妻制度は嫉妬、因縁を多く産み、様々な社会内での弊害が起こったのだ。
当然である。
ゲームのキャラみたいに自由に人を出し入れできる訳ではないのだ。
いつまでもいつまでも、自分を恨む人は同じ街か、隣街に暮らし続ける。
冤罪作り、殺人、強姦に繋がる因縁が多発。
その因果、因縁がとても大切にすべきだと民衆運動が起こり、AIを動かした。
AIが一番偉くなったのは2022年だと聞いてる。
はあ。
だから、たった一人の奥様を見つけたいのだ。
AIに登録すれば、お勧めの相手を探して、求愛も出来る。
しかし、あくまでもお勧めであり、絶対ではない。
神かAIか。
倫理観の問題が発生していて、今も社会問題とはなっているが、まあ、皆既に大いに活用している。
だかなあ・・。
問題が。
親父だ。
親父「お前は男前だ、身長もまあまあだ、しかし、女はからからだ、だから、私とは違い、神ではなく、AIに頼りなさい」
俺「・・はん!嫌だね!あんたに負けるか!俺だって神界から祝福を貰うんだ!絶対負けねえ!!ばあか!」
というのが、16歳の時だ。
今は親父は地球の復興に力を注いでいて、地球で暮らしている。
新種の変わった生物達が繁殖していて、主に生態研究に没頭してる。
地球は今や未開の野生動物らの楽園だ。
しかし、人間にとっては宇宙服がなければ、放射能で被爆してしまう死の星。
放射能除去装置は2075年に設置されたらしいが、未だに全ての土地には設置出来ておらず、設置しようにも、野生の巨体昆虫らに阻まれ、設置出来ない。
俺の事業は主にロボットのデザイン、機能、設計を考え、簡単にデッサンする事。
後は部下がやってくれる。
昔から絵は得意だし、SF映画もよく見てたし。
大事な重役会議で我が企業も方針が固まり、また暇になったから、そろそろと、ここ数週間火星街をぶらぶらしているんだが・・俺はそんな祝福された親父に負けじと現在嫁さんを探しているのだが・・。
俺「はあ・・」 どうやって探せば良いのか・・。
俺「レベルも隠蔽して、887レベルを目立たない67にしてるし・・もう少し増やすかなあ・・いや、親父は68で設定して見つけたらしいしなあ・・絶対に負けるか!!・・とは言うものの・・はあ・・」
というか、気になる人ならいる。
同じ企業内で働く、人工草を植えるロボットを修理してる女の人。
いいじゃん、そう思うだろ?
借金や、身売りしてる人はいわゆる奴隷という身分だ。
勿論、奴隷とはいえ、ちゃんと人間らしい生活は保証され、主人は倫理観、道徳的に危害を加えてはならない。
しかし、結婚となると話は別だ。
結婚をすると・・。
レベルを分け合わなくてはならないからだ。
31歳を過ぎてから結婚すると、だが。
親父は22で結婚したから、分けてない。
しかし、俺は後9カ月で分けなくてはならなくなる。
当然、分けてレベルが落ちたら、ゴッドマザーから除名となり、今の企業の社長という立場も無くなる。
社長の立場は普通はそんな事では無くならないが、俺の会社は特別な括りに入り、その特別枠の会社は、レベルに応じた席が用意される。
だから。
まあ、簡単に言ってしまうと。
俺がその人と結婚した場合、財産は無くならないが、レベルは少なくとも500以下に、影の支配者、84名からの除名、企業の命運を誰かに奪われる。
俺にとって、全てと引き換えだ。
俺にとってはそうなのだ。
はあ・・。
そして足は今日も彼女の方へ向かってしまう俺だ。
ラボ。
〈プシュ、プシュ〉
シエラ42歳「ん?ああ、また来た?ボン」
俺30歳「へへ、また来ちゃいました、シエラさん」
俺はシエラさんが好きで、シエラさんは俺をボンと呼ぶ。
いくら誤魔化しても、金持ちの雰囲気は誤魔化せない、身振り手振りで分かってしまうものだ。
だから俺は敢えて、まあまあの金持ちの息子という事にしてある。
しかし、この時代はレベルが女性に人気であり、金持ちかはあまり関係ない。
大金以外でもレベルは上げられるからだ。
例えば、他人、地域への奉仕活動や、出来る範囲での「寄付割合」。
例えば一億持っている人が5000万寄付するより、1000万持ってる人が999万寄付する方がレベル稼ぎになる。
だから奴隷でありながら、寄付する行為は、かなりレベルが上がる行為なのだ。
ある程度レベルが上がれば奴隷から解放され、社会福祉制度を受けられる。
自分でお店を持ちたいなら、AI銀行か、出資者を簡単に募れるサイトへ無料で登録出来る、そして一気に借金を返し、奴隷から脱却出来るという訳だ。
シエラさんは先祖からの借金で苦労してる人だが、レベルは75。
隠蔽してる俺の67よりかなり上。
しかし、奴隷から抜け出したいという訳でもないようだ。
まあ、働かなければお金が貰えない奴隷身分というやつは、2080年までは当たり前だったらしいし、働けば食いぶちには困らない訳で、別に絶対抜け出したい奴隷が多いという訳でもない。
奴隷から脱却すれば、働かなくても固定金は半月ごとに入るし、働く事自体にポイントがつく。
レベル上げがかなり早くなる。
だが、シエラさんは脱却しようとはしてない。
募れる起業アイデアがないから・・というのもあると思うが、本人はもう歳だし、まあいいかと思っている節がある。
まあ、リタイアは好きな時に出来る。
借金は子孫に引き継がれるが。
この仕組みによら、サボる先祖が多い。
だからこそ、シエラさんも借金を引き継いでいるのだ。
借金がある限り、働かなければお金が貰えない。
お金がなくては水、食料は手に出来ない。
生活に関するエネルギー、プラズマは、全て無料だが、水、食料は有料だからだ。
奴隷は稼げないなら、食べられない、飲めない。
食べられないからリタイアする。
リタイアしたら固定金を貰えるが、不動産を持てないし、投資活動が出来ない。
そして、子孫に借金が受け継がれる。
この仕組みにより、またまだ大勢の人間が、働かなければ食べて行けないようになっている。
子孫の為に働くのだ。
シエラさんには一人の息子が居る。
が、既に巣立ち、今はシエラさんが借金を分けるのを拒否した為に、息子は奴隷ではなく、一般人として、レベルを上げられている。
もし、シエラさんが今死ねば、強制的に借金は息子に譲渡され、息子は一気に奴隷へ堕ちる。
しかし、それまでに息子が金をしこたま貯めれば、話は違うが、女性にモテる為にはレベルが必須であり、この息子もまた、女性にモテる為に必死にレベル上げをしているらしい、そう、寄付だ。
寄付をし続ければ当然金は貯まらない。
全く良く出来た制度である。
当然な事に、奴隷の男性等、いくらレベルが高くとも、女性にはモテない。
奴隷でない男性等、結構居るのだから。
女性もいくらレベルを重視するとはいえ、自慢し合うのが女性の常であり、世の女性達は、レベルと資産を両立している男性がお好みだ。
息子も理解はしている筈だが、噂によれば、毎晩レベルをひけらかして、クラブで女釣りを楽しんでいるという。
資産、レベルはそれぞれ独立ステータスになっており、相手が許可すれば、簡単に閲覧出来る。
労働と、寄付と上手くやれば、かなり早くポイント稼ぎが出来て、レベルも資産も上がる。
レベルが上がれば固定金も上がるからだ。
そのステータスで女釣りをしているのだろう。
親類のステータスまでは閲覧出来ないから。
息子も分かっているのだろう。
一時期の夢だと。
いつか母親が放棄、または、死ねば、自分は奴隷に堕ち、全くモテなくなる事を。
ゆくゆくは同じ奴隷と結婚し、奴隷同士結婚したなら、借金が合算され、また子孫の負担は増える。
そんな方程式に絶望しながら、一時期の夢を味わう。
そんな若者が溢れ変えるこの時代。
因みに。
放棄した後、放棄した者同士が結婚し、子供が生まれた場合。
放棄する前との子供と、放棄した後の子供と借金を分け会う事になる。
どう足掻いても借金からは逃げられない仕組みだ。
子孫の為に少しでも利子、元金を返さなくてはならない。
とはいえ、利子は法律で0.0015までとされている。
返せないわけはないのだ。
返さないのは返さないという事を選択した者の責任であり、報いなのだ。
怠惰。
怠惰の血が混じる。
怠惰の血が混じるのは一般人からすれば、恐怖であり、畏怖の象徴だ。
奴隷イコール、怠惰な者達。または怠惰血縁者。
結婚等許される筈はなく、駆け落ちはしょっちゅう起こる。
貴方となら奴隷に落ちてもー・・、という人もまあ、居なくはないのだ。
しかし、結婚し、借金が振り分けられ、いざ、働かなければ食べて行けない立場になった時。
偉そうに命令され、指図される屈辱。
今までは、断る事が簡単に出来た、働くイコールボランティアだったからだ。
しかし、奴隷に堕ちた今ではボランティアでは無くなった。
その屈辱に耐えられず、離婚。
離婚した女性は親に泣きつき、一気に分けられた借金を親に返済して貰うのだ。
当然である。
駆け落ちし、離婚してきた娘が借金を弁済せず、家に帰ったなら、その家自体に借金が振り分けられるからだ。
この場合、男性側が一番得をした事になる。
男性は結婚して、負債を分け、負担を減らす事が出来たのだから。
また、逆もしかり。
恋愛は自由だが付き合う事になった時点で、役所かAIに報告義務があり、怠れば罪になる。
理由は6年以上付き合えば婚約している事と見なされるからだ。
婚約申請も必要となり、怠れば罪となる。
婚約してから一年以内に結婚しなければ、役所かAIに別れるか、結婚するのか選択を迫られる。
これは俗に言う遊ばれたという被害者を無くす為の法律である。
6年は長過ぎる、3年にすべきだという主張運動が女性議員達の掲げる票獲得のお題目になっており、ニュースでも頻繁に取り上げられている。
まあ、長くなったが、つまりシエラさんは奴隷で、奴隷の男と結婚して、合算された借金を息子に残さない為に、必死に働いているという訳だ。
俺はそんなシエラさんを好きになってしまった。
たまたまお腹が空いている状態で嫁さん探しにブラブラ歩いてたら、良い匂いがしてきた。
こんな場所に店?ってその匂いを辿ったら、このラボの前に着いた。
でも看板も何もないし、何だここ?って見たらカードキーを入れる所が光って、彼女が現れた。
見た目は20代前半。
黒髪のショートで、巨乳で、本当にタイプだった。
可愛い。
見とれてたら。
シエラ「あの?どちら様?ここで何をしてるの?迷ったんですか?」
と言われて、シドロモドロ。
腹が鳴った。
シエラ「クス!・・良かったら、食べて行きます?今は休憩時間で、お昼なんです、私が料理担当何でお粗末なモノですが」
それが出逢い。
それからはその時間に代金を持って食べに行った。
驚いた事がある。
ある程度親身になった後、聞いてみた。
例え、もう一度恋をして、その人が奴隷だったなら、どうするのか?と。
シエラ「結婚するわ、だって、好きになってしまったら、それはきっと、神様の命令だもの」
俺は納得出来ないから食い下がる。
俺「でも、今でさえ・・、また合算されますよ?息子さんには反対する権利がある、押し退ける事は出来ますが、恨まれます、介護はまるっきり息子さんが見る事はないとはいえ、それでも全くという訳にはいかない、息子さんから何らかの報復が考えられます、罪にならない線、ギリギリで報復するでしょう、それでも?」
シエラ「・・はい」
俺「どうして?」
シエラ「・・幸せに死にたいからです、恨まれても良い、私は、今の息子と同じ、一時期の夢を見たいんです」
俺「・・自分勝手だと思いませんか?」
シエラ「・・思うに決まってます、でも、せっかく授かった命を、お金の為に費やすだけというのは・・寂しすぎますから」
俺「・・分からない・・俺には・・分からない、合理的じゃない、奴隷を好きにならずに、一般人かそれ以上の金持ちと結婚すれば良い!貴方の手料理を食べさせれば良い!どんな、貴族もいちころだ!」
シエラ「・・怠惰の血を貰ってくれる一般人なんて居ません、それも貴族なら尚更に、あ!もうこんな時間!仕事に戻らないと!」
俺「・・貴女は怠惰なんかじゃない!!俺が保証します!怠惰なモンか!!」
震える俺に、彼女はありがとうと微笑み、仕事に駆けて行った。
それからは結構通った。
週に3回くらいかな。
彼女には俺は普通より少し上の金持ちの息子だと認識させている。
だからボンなんて呼ばれていて、かなり打ち解けた仲になった。
俺「はい、今日の昼飯代」
シエラ「はいよ、確かに!今日は餃子とオムライスだよーん」
俺「まじで!?やったあ!!」
シエラ「よっしゃ、食べよ食べよ!いったっだきまーす!」
俺「いったっだきまーす!〈パクパク〉ん!んはああん、う、うんめー〈ジイイン〉」
貴族達の料理はどれも高級なモンばかり。
しかし、飽きる。
本当に飽きるのだ。
栄養バランスがどうの、カロリーがどうの、やかましいってんだ!
ケチャップたっぷり、塩たっぷりの料理は美味しい。
俺「動きゃあ問題なしなし!」
シエラ「へー?なあんか幸せ太りしてきたようなあ?」
俺「ふえ!?まじ!?」
シエラ「まじ」
俺「・・シエラさんがいけないんだ!こんな美味しい料理我慢出来る訳ないんだ〈ガツガツ〉」
シエラ「まあまあ、そんな誉めても何も出ないぞよ?・・あ、今日はデザートにプリンを作ったんだった、食べる?」
俺「・・ふっ・・あるだけ頂こう」
シエラ「痩せる気ないよな?ボン」
俺「・・ある」
シエラ「あるならプリンはー・・」
俺「食べる!」
シエラ「・・うむ、正直なやつよの、じゃあ、これ、あんたの家に持ってきな!」
冷蔵ボックスドローン、飛行型。
俺「え?ドローンが必要な位作ったの?何個?」
シエラ「あんたの家族分だよ親父さんは地球で届けられないけど、妹二人と、弟一人、それから歳が離れた兄貴が居るんだろ?」
俺「・・そんなに?代金上乗せで払うよ!」
シエラ「いいんだよ、だいたい普段から貰い過ぎなんだ、・・何であんたがここに通うのか知らないけどさ、まあ、こっちは代金で助かるし、いつも多い代金のお礼だよ、ご家族に宜しくな、じゃあ、私はそろそろ仕事だから、んじゃな」
行ってしまった。
俺「貰ってるのは・・こっちなのに・・」
とぼとぼ無料飛行タクシーで帰宅した。
巨大なドームが見えている。
ドームの天井から300Mはスキャンのレーザーの網があり、そこで認識されたら、天井のゲートが開く。
ドームの中にはもう1つドームの天井があり、そこでもまたスキャン認識、ゲートが開く。
その中には、空があり、空気がある。
巨大な建造物群高さは最高1280M。
最高値段の庭付き地下家に着いた。
金持ち程地下に住める権利がある。
帰宅して、庭で洗濯物取り込み中の使用人の女性のエリーに食べて貰った。
エリー「こんな美味しいプリンは初めて食べました!一体どちらで買われたのですか?」
俺「へー?そうかそうか、そんなに美味しいか?」
エリー「はい!とってもモチモチで、軽いお餅みたいなプリンですね!何故こんなに弾力があるのでしょう?プリンはもっとツルンとしていて、食べた感じがしないモノですが、これならば、しっかり食べた気にさせてくれます!素晴らしい食感で、冷たくて、美味しいですう!」
俺「そうかそうか!はーはっはっは!」 鼻が高い。
エリー「それで?どちらで買われたのですか?」
俺「それはな・・」
エリー「はい!」
俺「教えん!」
エリー「んええ!?」
俺「俺だけの秘密の店なのだよ!はーはっはっは!」 屋敷に走った。
エリー「しょんな・・お休みに買いに行きたいですう!待って下さいいい!ま」
〈バタン〉
俺「ふ、ふふ・・」 重厚な飾りの玄関扉の内側で、嬉しさに震える。
俺「ふんふん、ふーん、ふんふん」 上機嫌に地下エレベーターへ。
地下5階全体が主人公、つまり俺、イチハ・ハンブル・ランスゲバルドの自室となっている。
他は食堂やら、水族館やら、図書館やら、美術館やら、武器歴史館やら、訓練場やら、なんやかんやで地下11階まである。
着替え、またエレベーターへ。
地下一階の食堂のコックに食べさせる。
コック「んん!?こりゃあ・・旨い!?旨い!旨い!旨過ぎる!」
コック見習い達『料理長!我らにも一口!一口!』
俺「そうかそうか、そんなに美味しいかあ」 鼻が高い。
母親にも、弟にも、妹達にも食べさせた。
屋敷の皆が美味しいと食べ終わり、いざ何処で仕入れたと聞いても、俺は決して教えなかった。
怠惰が移る、そんな理由で吐き出されたら、俺はー・・。
ぶん殴ってしまうだろうから。
そして仕入れ先が分からないデザート土産は時々続き、家族を困らせた。
貴族のお抱えコック達にも噂が広がり、レシピを想像し、試作するが、なかなかあの味、食感には届かない。
悔しがるコック達。
コック達にもコミュニティがある。
違う家のコック達にも噂は広がり、ますます噂に。
どうしようも隠せない所まで来た。
さあ。
言いなさい!
弟の誕生日会。
集まった来賓の貴族達。
皆の視線が集まる。
俺はすうっと息を吸い、大声よりのはっきりした声で言い放った。
俺「ああ、これね?これは、身分が、奴隷の女性が作ったモノだよ」
その瞬間。
我先にトイレに走る来賓共。
リモコンでドアを閉じる。
怒り狂う来賓達。
卒倒する母親、妹達。
青ざめる弟。
俺はマイクを持ち叫ぶ。
俺「美味しかった!!」
皆『・・』
俺「美味しかった、お前らが大事に抱えてる、どんな料理人のデザートよりも!」
皆『・・』
俺「誰も・・誰にも再現出来なかった、AIの分析にかけたとこれで、解るのは成分だけ、材料だけだ」
皆『・・』
俺「温度調整をしながらの分量決め、かき混ぜる時間、タイミング、冷やす時間、タイミング、溶かす時間、タイミング」
皆『・・』
俺「お前らには十分レシピ解読の時間はやった」
皆『・・』
俺「でも誰にも解読出来なかった!」
皆『・・』
俺「お前らはあの味に惚れて!抱えの料理人にアレを作れと命じた!」
皆『・・』
俺「結果は?」
皆『・・』
俺「誰にも作れなかった」
皆『・・』
俺「お前らが何百人居ようが、何百年かけようが!達成出来ない事を達成出来る才能があるのに!」
皆『・・』
俺「お前らがあの味の根源を知りたくて、狂おしい程愛したあの味を!何も知らないまま、お前達は葬り去る!葬り去った事にさえ!お前らは気づかない!気づかないまま、あの味を知らないまま!お前達は死んでたんだあ!!」
皆『《ザワザワザワザワ》』
俺「美味しいモノに不味いなんて言えるかあ!!美味しいモノは美味しいんだ!美味しいんだ!美味しいんだあ!!」
貴族の頭が良い人の順から片膝をついて、頭を垂れていく。
俺「・・奴隷が何だよ、卵に奴隷身分があんのか?砂糖や、塩や、氷や、水に奴隷身分があるのかよ?」
皆がほとんど片膝をついている。
弟も片膝をついた。
妹達も片膝をついた。
母親は呆然と見ている。
俺は涙を拭い、続けた。
俺「美味しいモノは美味しい、良いモノは良い、才能は神様の祝福だ、才能を卑下した者は、神を冒涜する者だ、奴隷やらなんやらは全く関係ない!今はレベルがある程度なければ、アイデアや才能を商品にする事は出来ない、が、本当にそれで良いのか?人類の進化のスピードが遅くなるだけではないのか?、レベルゼロからでも、才能を商品に出来る制度が必要だ、・・俺は・・そう思った、お前らはどうだ!?同意する者、起立せよ!」
頭が良い者、度胸がある者らから起立していく。
そして、沸き起こる拍手喝采。
俺「他にもまだまだ未知のデザートを作る才能がゴロゴロ居る、絶対にな、デザートだけじゃないぞ!肉!魚!野菜!まだまだ料理分野だけではない!医療、薬、まだまだまだまだあるだろう、奴隷イコール怠惰ではない、奴隷イコール才能の、いや、埋蔵金の宝庫だぜ・・お前ら」
皆『《ザワザワザワ》お、おお・・、ウオオオオオオオ!!」
母親「全く・・貴方って子は・・本当に・・誰に似たんだか」
抱きしめられた。
弟、妹達からも抱きしめられた。
悪くなかった。
シエラさんにその後、告白した。
身分を隠したまま。
断られた。
俺「ど、どうして!?」
シエラ「貴族達が宿泊する高級リゾートホテルのデザート担当の仕事に、レベルが足りない私でも応募出来るようになったの、突然法律が変わってね、それで、その、受けようと思うの」
俺「う、うん?・・それと断るのと何の関係が?」
シエラ「だって会えなくなるし、借金返済に集中したいし」
俺「俺は!いつまでも待つよ?」
シエラ「だーめ!あんたは、あんたのやるべき事をやりなさい!まだまだあんたには使命があるでしょ?まだまだこの世界を変えて行けるでしょ?救ってよ、やり方が分からないこの世界の人間達に教えてよ、決めなきゃいけない法律を教えてあげて?ね?」
俺「は?はあ?な、何だよそれ?俺はそんな権力なんて
シエラ「教えて貰ったの、あんたの使用人なんでしょ?黒執事のお爺ちゃんが来たのよ」
俺「〈ブチッ〉」
シエラ「でも私、あまり驚かなかったわ、で、執事さんが言ったの、あのお方は貴女を好いておられますが、貴女にはそれを受け入れて欲しいのです、ってね」
俺「え・・」
シエラ「タイプじゃありませんから、お断りします!って」
俺「んえええー!?」
シエラ「ごめんなさいね、私、もっと渋くてダンディーな殿方がタイプなんですのほほほほ」
俺「ええー・・ええー・・ええー・・嘘ー・・へー・・そうナンダ・・ヘー・・」
じゃあ、と。とぼとぼ帰った。
それから結局AIで嫁さん探した。
あっという間に120%相性バッチリな女性が見つかった。
まあ、今は奥さんは妊娠中だ。
照れるな。
親父からは一言嫌みを言われるかなと思っていたが、意外な事に、嫌みどころかおめでとうってさ。
気持ち悪い。
まあ、元気に暮らしてるよ。
奴隷とお金の関係は難しい。
なんせ、本当に堕落する人間もいるからだ。
まあまあ、そんな訳で、これからも、レベル上げに勤しんでいくよ。
じゃあな。
END。
振られた後。
〈プシュ、プシュ〉 ラボ内のシエラの部屋の扉が閉まった。
黒執事「・・ありがとうございます」
シエラ「・・不法侵入がお好きなようね?」
黒執事「すいません、・・それで・・これは謝礼でございます」
シエラ「要りません」
黒執事「しかし」
シエラ「・・これ以上・・私を・・私に失望させないで」
黒執事「・・本当にありがとうございました、それでは、失礼します」 消えた。
〈ピピ〉ドアをロック。
シエラ「・・これで・・これで・・あの方はレベルを下げずに済む・・・・くう・・」 泣き、膝が折れた。
シエラ「・・私は嘘付きです・・私は大嘘付きですうぅ!!」
{「シエラ「結婚するわ、だって、好きになってしまったら、それはきっと、神様の命令だもの」}
シエラ「奴隷同士なら強気な癖に・・・・自分が恨まれるなら強い癖に・・・・大勢の人の未来まで奪う勇気を・・・・勇気と呼んで良いのでしょうかああ・・あ、ああ・・ああああああああああああああああああああああああああああああああ、私は何にも解ってなかったあ!何にも解っていなかったああ!!うわああああああああああああああああああああ」
正しい行い。
合理的な思考。
冷たくて、冷徹で。
それでも、この道が一番愛が溢れる道だと。
願わずにはいられない。
《END》