Ⅷ
「そんなことがあったのか」 と、笑いながらカイは言った。
武道場の中央に皆で腰を下ろして、四天王の昔話を聞いていたのだ。
「まさに白鳥卿の命令でしたな。その後、私がこの粗野な人物と友好関係を持つことに、渋々同意させられたのは」 と、鷹卿が愉快そうに言った。
「そうでなければ、俺と、この偉ぶった不愉快な男との友情などは、全くありえませんでしたからな」 と、コンドル卿も笑いながら頷いた。
言っていることは刺々しいが、双方共清々しい表情で話している。その笑い顔を見ていて、カイはあることを思い出した。
夏に、カイが四天王と共に砂漠にいた時のことだ。
敵の策略で、皆がバラバラに引き離されてしまったことがあった。誰が味方か、あるいは敵がいるのかはっきりとせず、皆が少々疑心暗鬼になった。
そんな中、互いへの信頼を全くと言っていいほど失わなかったのが、コンドルと鷹の両卿だった。途中で合流したカイに、もともと仲の悪い者同士が寄り合っているのだから、これ以上失う信頼などあるものかと、二人はあっさり言ってのけた。こんな男は虫が好かないし、こちらが嫌われていることも百も承知だ、と。
仲の良い四天王を羨んでいたカイだったから、その言い草に驚いたものだ。
その時は、それ以上尋ねている余裕がなかったが、今、なるほどと思った。
「だから、砂漠でも、割くほどの仲はもともと無い、と言っていたんだな」 と、カイが納得顔で言う。
「いかにも」と頷いて、鷹卿とコンドル卿は白鳥卿を見た。
「我々三人は、殿下の叔父上には、頭が上がらぬ」
その言葉に、隼卿も、神妙な面持ちで頷いている。
「……折角幸運にも、同じような立場の、同じような興味を持った者同士が集まっているのだから、ただ反目しあっていては勿体無いでしょう?」と、当の白鳥卿は、優しげに言った。「そう思っただけなんですよ、僕は」
それから、嬉しそうにクスクスと笑った。
「……あんたたち、感謝なさいよ。この子がいなければ、きっと今でもいがみ合う馬鹿王子のままよ」
隼卿が、コンドル卿と鷹卿に向かってつくづくと言った。
「お前に言われる筋合いはない」
両卿は口を揃えた。
「……そりゃそうだわ、私も同じ穴の狢だった!」
隼卿が朗らかに答え、四卿は声を合わせて笑った。
笑いが収まると、白鳥卿が静かに、穏やかに、こう付け加えた。
「誰しもが、このような幸運に預かれるわけではないんですから、幸運なものが、その幸運を無駄にしては他の人々に失礼になるのです」
カイには、叔父の言う意味が痛いほどよく分かった。
良い友人を望まない者はない。多分、武術の道を志すものならば尚更だ。だが、心が通い合う友や仲間となる相手に、誰もが巡り会えるとは限らない。例え、巡り会えたとしても、誰もが、その友と切磋琢磨して生きていける環境の中に生まれてくるわけではない。四天王の幸運は奇跡に近い。
それに気づいた時、幼い頃、純粋な憧れだった四天王は、カイにとって羨望の対象となった。そして、それが、夏の冒険の前に、カイが四天王のことを快く思わなくなった理由だった。
カイの場合、同等の立場で渡り合える友人に、そう簡単に出会えるわけではない。前の冒険の旅で、隣国の獣人王との間に芽生えた友情が、最も四天王同士のものと似ているのだろうが、それ以外は、どうしても(一番身分の近いハルでさえも)友人であると同時に臣下でもある、という関係になってしまう。
そういうことを、然程気にしなくても済んだ初等学校時代はよかったが、成人を迎えた今年になって、カイは自分の立場ゆえの孤独を思い知らされた。本格的に皇帝の世継ぎとして教育を受け始めたカイに対し、急に余所余所しくなってしまったかつての武術仲間がどれほどいることか!
そればかりか、進むべき道が別れてたった数ヶ月の間に、かつての仲間内から、カイを陥れようとする者さえ出てきた。ハルですら、そうなってしまったと感じた時期もあった。
……ただ、ハルに関して言えば、真実はそうではなくて、ハルはハル自身の痛みや苦しみと、当時戦っていただけだったのだが。
カイは、ちらとハルを見た。ハルは屈託のない様子で、四卿と笑いあっている。 カイの胸がまた少しだけ傷んだ。
それを振り切るように、すっと立ち上がり、カイは、「鷹卿、一本お願いします」と言った。




