Ⅷ
「……アタシは、それから、ただ無心で、次に地上に戻るときには、アタシはもう成人なんだわ。そこから、アタシの芸術家としての素晴らしい人生が始まるんだわ、とだけ思いながら、必死で神官を目指して飛んだのよ」と、しみじみとピコは言った。
それから、ホウッとため息をついて続けた。「でも、無心は強いわ。気がついてみたら、七位に入賞していたってわけ。それからは、アタシを見る人の目も、またちょっと変わったわね」
感慨深げに茶を啜り、ピコは付け足した。「……ちなみに優勝したのは伯家鷲族の誰かよ」
カイとハルは、顔を見合わせた。
ピコの話の中に、もしかして、と思うことがあったのだ。
「……おい、その賢者の一族の奴っていうのは……」 とカイが尋ねた。
「エエ、そうよ。今は、搭獄にぶち込まれている、あれよ。まったく、人には偉そうに説教たれておいて、自分はバカなことをしやがったのものよねえ」と、ピコはプリプリと答えた。
あれ、というのは、前の内乱の首謀者の一人だ。カイとハルを間接的に冒険旅行へと駆り立てた人物でもある。現在は、搭獄と呼ばれる、高い塔型台地の頂上にある高等牢獄で、ひっそりと終身の刑に服している。
ピコとは初等学校時代の友人だったと聞いてはいたが、カイとハルが、実際にそれらしい思い出話を聞くのは初めてだった。
「……今の素晴らしいアタシと、アタシの今の素晴らしい芸術が存在するのは、実はみんなあれのおかげなのよ。それだけでも、翼族に対して並々ならない貢献をしているのよ。まあ、極刑を免れたのは妥当だったと思うわ」 と、ピコはしみじみと言った。
ピコとその人物の間には、奇妙な、固い友情が存在しているらしかった。ピコだけが時折、搭獄を訪ねることを許されてもいる。
カイもハルも、もともと、その人物が嫌いではなかった。決して悪人ではない。むしろ悲劇の人なのだと知っている。
大人になっていくことが、いつでも、誰にとっても、希望に満ちた始まりというわけではない。今、その人物が一人搭獄の中で何を考えているだろうと思うと、二人の心は痛んだ。ピコも、深いため息をついたりしている。
しんみりした空気が三人を包んだ。
少しして、「アラ、衣装に着替える時間だわ!」 と言って、ピコが立ち上がった。「殿下の空獲りの勝者戴冠を見たいけど、アタシの劇も、その後スグの上演なのよ。殿下の晴れ姿が見られなくて残念だわ!……でも、まあ、きっと本物の戴冠を見るからいいわね!」
ピコは、そう言って、いつものように朗らかに笑った。
「じゃあ、またお会いするわね、殿下、継承君。あんたたちも、そろそろ祭り会場に行った方がいいわよ」
明るい調子で付け加えて、ピコは番屋へと戻っていった。




