拠点
いろいろと家の事情で更新が止まっておりました。
これからは毎週水曜日に一話更新していきますのでよろしくお願いします。
「まだ娘は見つからんのか…」
静まり返った部屋で重厚感がある声が響き渡る。厳格な顔つきで部下を見渡すのは、メシア日本支部現当主、神輿権蔵である。
「はっ、申し訳ございません。痕跡がきれいに消されており、足取りを追うのに手間取っております」
「真矢か…」
優雨の世話係である真矢はもともと権蔵の側近として様々な仕事をさせていた。優雨が女性である真矢に懐いていたことからボディガードも含め、目付け役として付けさせていたが、優雨の味方につき逃走の手伝いをしていることを考えると一筋縄ではいかない。
部下が慌ただしいなか権蔵は静かに周りを見渡しながら言う。
「慌てるな。資金もそう長くはもつまい。いくら真矢とて限界がある。必ず尻尾を現す。その時を見逃すな。解散しろ」
「はっ!」
部下たちは統率された軍隊のような動きでそれぞれ散っていった。
一人になった権蔵は一枚の写真を見ながらつぶやいた。
「母親と同じ道は辿るな、優雨…」
空たち三人は古びた協会の前に来ていた。異様な雰囲気を放つ協会を前に優雨とハルの表情が強張っているのを見て、空は苦笑した。確かに幽霊でも出そうな佇まいだからな…
「そんなに警戒しなくていいぜ。ここの神父は変人だが悪い奴じゃない」
キィィ…入口の扉がゆっくりと開くと神父の格好をした男が出てきた。
「誰が変人ですか。神父を侮辱すると罰があたりますよ」
「エセ神父がよく言うぜ。それに俺は神なんてものを信じちゃいない」
「教会で言う言葉ではありませんね」
神父は苦笑しながら空と一緒にいる二人に目を向けた。
「そちらの可愛いお嬢様方はどちら様ですか?」
突然話をふられたハルは慌てながら答えた。
「わ、わたしは高崎ハルです」
「ああ、あなたがハルさんですか。空くんと一つ屋根の下で同棲している美少女というのは」
顔を赤くし照れながらハルはうつむいた。神父は次に優雨に視線を向ける。
「私は空くんのクラスメイトの神輿優雨と申します」
優雨の自己紹介を聞いた瞬間、神父の表情から笑顔が消えた。その表情の変化を察した優雨はさらに続ける。
「お察しの通りメシア現当主神輿権蔵の娘です」
その瞬間、神父はホルスターから銃を抜き、優雨に殺気と共に銃口を向けた。突然のことにハルは恐怖で固まったが、優雨は向けられた銃口から目を逸らさない。
「エレクノール・ヴィ・ダヴィンチ、優雨は俺の仲間だ」
空は二人の間に割り込み、神父を真直ぐ見つめると、冷静を取り戻し静かに銃をホルスターに戻した。次の瞬間には神父は笑顔を浮かべ優雨に謝罪した。
「取り乱して申し訳ございませんでした、優雨さん。ハルさんも怖い思いをさせて申し訳ございません」
「いえ、私が神輿家の生まれである限り、仕方のないことです」
優雨は安堵の表情を浮かべると自分の手が震えていることに気づく。空はそんな優雨の手をそっと握り耳元で囁いた。ハルは二人をみて複雑な表情をし目を逸らした。三者の状況をを複雑な表情で見つめていた神父は本題に入ろうと口を開く。
「空くん、このお嬢様方をここに連れてきたということは何か理由があるんじゃないのですか?」
「ああ。簡単に言えば優雨を匿ってほしい」
空は今の状況とこれからのことを神父に説明した。少し考え込むように目をつむる神父を優雨は心配そうに見ていた。
「わかりました、良いでしょう。教会ならば手を出しにくいですし、目を付けられにくい。部屋を用意しましょう」
「ありがとうございます!」
「空くん、ちょっと」
その言葉を聞いた優雨は深々と頭を下げた。空は神父と共に教会の中に入り、椅子に腰を掛けた。
「先ほどは取り乱してすみませんでした」
「まったくだと言いたいところだが、俺も初めて会った時は動揺を隠せなかったぜ。殺気もな」
「ほう、それでも空くんの側から離れないのには、匿ってもらう以外にも何か理由があるのではないのですか?」
空は思い出し笑いのように苦笑しながら、それでも嬉しそうに口を開いた。
「優雨は父親も含めこの世界のあり方を変えたいらしい。笑っちゃうだろ」
「壮大な夢物語ですね」
「俺もそう思うさ。それでも自分の運命に正面切って立ち向かってる優雨を見てたら、俺も運命ってやつに立ち向かう覚悟を再認識させられたよ。しかも敵の娘にだ」
「運命ですか…?」
「ああ。人は生まれながらに何かしら背負ってる。個人差はあると思うが、問題はそれに立ち向かう覚悟と勇気があるか、それだけだ」
「変わりましたね…空くん」
「そうか?」
「ええ、変わりましたよ。おっとそろそろ戻りましょうか。お二人が待ってます」
神父は空の心境の変化を嬉しく思うと同時に、これから辿る道の険しさを案じていた。
どうか、この者たちの未来に幸多からんことを…
空とハルは家に戻り、優雨は真矢と連絡をとり荷物を運んでいた。部屋の片づけと荷物の整理が終わり、寝ようとベットに座り込むと、神父とのやり取りを思い出した。
「あの時のダヴィンチさん、すごい怖かった。でも空くんが助けてくれた」
空から優しく握ってもらった手をそっとさすりながら、あの時耳元で囁かれた言葉を思い出していた。
「これからは俺が側にいる」
不思議とその言葉で震えが止まり落ち着いたのだった。頬を赤くしながらベットをごろごろしてると、扉がノックされると同時に、真矢が紅茶を入れて持ってきたのだった。びっくりした優雨はベットから転げ落ちた。
「大丈夫ですか、優雨様!」
「っつ、大丈夫よ。ちょっと腰を打っただけだから」
「でも顔が赤いです。熱があるんじゃないですか?
「これはさっき空くんのこと考えてたからで…あっ」
「・・・・・・・」
「今、何か聞いた?」
「ナニモキイテオリマセン」
「なんで片言なのよ!私はもう寝るから真矢も早く休みなさい」
「はい。わかりました。それでは失礼します」
意味ありげな笑みを浮かべながら部屋を出ていく真矢を見送りながら、入れてくれたハーブティに口を付けた。
「おいしい…」
隠れ家も見つかりいろいろと安心したのか優雨はいつの間にか深い眠りに落ちていた。




