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革命のレクイエム  作者: Satoshi
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協定

転校生を職員室に案内して教室に入りいつものように自分の席に向かうとそこにはハルが不機嫌そうな顔をして待っていた。


「遅かったね。転校生の子大丈夫だった?」

「ああ。世間話をちょっとな」

「そっか…あの子可愛かったもんね」


ハルは少しすねたように下を向きながら呟いた。


「何か言ったか?」

「何でもないよ」


そんな空とハルのやりとりをクラスの後ろのほうから見つめる生徒がいた。

入学当初からハルが好きで何かとアプローチしているが、鈍感なハルは気づかない。また何かと近くにいる空が邪魔だった。このクラスは男子が三分の二を占める男所帯のクラスで、ハルは女子の中でも一番人気が高い。ハルと仲が良い空はそのおかげでクラスの男子から目の敵にされている。もちろん空はそんなことこれっぽっちも気にしていないが。基本的に空はいろんなことに関心がなく、自分の大切な人に危害が加わらない限り中立だ。そのかわり大切なものが傷つけられそうになったときには容赦がない。徹底的に相手を叩き潰す。二度とそんな気が起きないように。そう、二度と大切な人を失わないように…


ガラガラ…


「みんな、席について」


担任の先生と一緒に一人の少女が教室に入ってくる。


「今から転校生の紹介をする。さあ、自己紹介をしてくれ」


そういって教壇の前に出てきて、少女はクラス全体を見渡した。


「本日から転校して参りました厳島優雨と申します。皆さん、仲良くしてくださると嬉しいですわ」


頬えむ美少女転校生に男女関わらず誰しもが釘づけになっている。そう、空を除いては。

厳島か…正直に神輿と名乗るわけにはいかなねぇか。

そんな空の考えをよそに、クラスが一瞬の静寂から歓声へと変わるにはそう時間がかからなかった。


「はい、はい、質問。厳島さんは彼氏いるんですか?」

「それ俺も聞きたい!」


何人かの男子生徒からくだらない質問が飛び交う中、笑顔を崩さず対応する優雨。

さすが神輿家のご令嬢。人前に出ることが慣れている。空はそんなことを思いながら一人外を眺めていた。


「はい、静かに。質問は休み時間にしてくれ。そしたら厳島は潮見の隣に座ってくれ」

「はい。わかりました」


笑顔でうなずき空の隣の席に座った。


「これからよろしくお願いしますね」

「…よろしく」

クラスの男子生徒からのうらめしい視線をよそに面倒なことになりそうな気がする空は溜息しか出なかった。



放課後になるとすぐに帰宅する準備をして教室を出て空はいつものところへ向かう。そこには古びた一軒の教会が立っていた。


「おい、エセ神父、いるか?」


空が大きな声で呼びかけると教会の扉が開いた。


「おいおい、エセ神父とは人聞きが悪いね、空君。私にはちゃんとしたエレクノール・ヴィ・ダヴィンチという名前があるんですよ」


教会の扉から出てきた男はいかにも神父みたいな恰好をした銀髪の男だった。


「ふん、言ってろ。どこにそんな物騒な神父がいるんだよ」


神父の腹部にはホルスターがあり銃がささっていた。


「まぁいいでしょう。さて、いつものをやりますか…」


そういった瞬間、神父はホルスターから銃を引き抜き、空に向けて銃を撃つ。空は来ることがわかっていたのかのように銃弾を避けて、素早く神父に向かって接近する。


「成長しましたね。それならこれはどうですか?」


胸元から取り出したのは小型の軽量手榴弾。それを接近してくる空の方向に向かってばらまいた。空はお構いなしに加速し手榴弾が地面に落ちるよりも早く神父に接近して回し蹴りを放つ。神父がそれを躱した瞬間に手榴弾が爆発。その爆煙にまぎれ空は神父の背後をとり銃を頭に突きつける。


「参りました。まさかあの場面で突っ込んでくるとは。相変わらず無茶をしますね」


神父は両手をあげ降参の合図をした。空はそれを見て銃をおろしホルスターにしまった。


「あんたのやりそうなことはもう大体わかってるからな」

「空君が私のところで修業するようになって三年ですか…まだあの時から気持ちは変わってないのですか?」


神父は悲しげな顔をして空に尋ねる。


「ああ。俺は必ずこの腐った世界を終わらせる。そのための力できっと両親が命をかけて俺を隠し続けた意味だろうからな」

「そうですか…」



空が自分の力に気付き始めたのは小学生に上がってからだ。周りの子供たちと比べて運動神経や知力、洞察力が圧倒的に優れていた。同級生の子供たちからは気味悪がられていたが、そんな空を両親は可愛がって育ててくれた。


「空は普通の人よりもすごい力を持っているんだ。だからその力を誰のために、何のために使うべきかよく考えてほしい。まだ父さんの言っている意味がわからないかもしれないが覚えていてほしい。これからたくさんの困難が待っていると思う。だがきっとそんな空を支えてくれる人が現れる。だからどんな絶望でも強く生きなさい」

「空は優しい子、母さんはそんな空を誇りに思う。愛してるわ」


両親が空に残した最後の言葉。この言葉の本当の意味が分かったのは両親がなくなって高崎家に引き取られ、神父に会った時だった。

神父は空の両親からもし自分たちに何かあったときは空の力になって欲しいと言われていたのだった。その時に真実を伝えてほしいとも。

両親の敵を討ちたいと神父に懇願し戦闘術を習おうとした時に、神父から自分の出生について聞いた空は初め受け入れられなかった。当時、ジェネシスの研究員で強化人間の研究をしていた両親が、その時の唯一の成功例だった空を失敗例として記録にのこし引き取って自分の子供として育てていたこと。その研究のデータを奪いにきたメシアの人間に殺されたこと。自分たちの研究を悔いていたこと。この世界を変えたいと願っていたこと。

真実を知った空は両親を憎むことは出来なかった。


「本当の親じゃなくても俺の父さん、母さんには変わりない。こんな化け物の俺を大切に普通の子供のように育ててくれた。もしそのまま研究所に居たら実験体としてひどい扱いを受けていたと思う。だから俺に力をくれ。両親の願いは息子であるこの俺が引き継ぐ」


そして空は普通の生活を犠牲にして力を求め続けるのであった。



翌日、学校が終わりいつものように支度をすませ教室を出ようとすると転校生の優雨が近づいてきた。優雨が動くと周りの視線が集中する。みんなからよく思われていない空からしてみれば居心地が悪いことこのうえない。


「空さん、この後お時間はありますか?良かったら町を案内していただきたいと思いまして。まだ引っ越してきたばかりで、よくわかっておりませんので」

「…わかった」

「ありがとうございます」


いつもの仏頂面で返事をする空に優雨は微笑んだ。その会話を聞いていたクラスメイトたちが騒ぎ始めた。特に男子が。


「なんであいつなんだ?いつも無愛想で嫌味なやつなのに」

「厳島さんも物好きね」


言いたい放題言われているが空はそんなこと気にしない。ハルのほうを見ると視線が一瞬あったがすぐにそっぽを向いた。何か機嫌を損ねるようなことしたか考えていると優雨の帰り支度の準備が終わり声がかかる。


「お待たせしました。それでは行きましょうか」


少しハルのことが気になったが空はそのまま教室を後にした。



校門の外を出ると黒塗りに高級車が停まっており優雨が乗り込んだ。


「空さんもどうぞ」


少し不審に思ったが優雨にすすめられるがまま車に乗り込んだ。車が動き出し学校から離れると優雨が話し始める。


「今日はいきなりのお誘いですみませんでした。正直に申しますと付き合っていただけるとは思いませんでした」

「俺に用があったんだろ。ただの町案内だったら俺じゃなくて構わないからな」

少しきょとんとした顔をした優雨だったがすぐに笑顔になる。

「さすが空さんですね。単刀直入に言うと空さんには私の味方になって頂きたいのです」

「なぜ俺が…」

「アポカリプス計画…」


その単語を聞いた瞬間空の表情が変わり、優雨を睨み付ける。優雨は相変わらず穏やかな表情をしており、まっすぐ空を見つめていた。


「なぜお前がそれを知っている?」


空は腰に隠し持っているナイフに手を添える。

アポカリプス計画。これは強化人間を作るにあたってジェネシスが研究名としてつけていたコードネームだった。その研究員だった空の両親が研究を退いた後、すぐに計画は打ち切りとなった。


「私はこれでもメシアの日本支部代表の一人娘ですよ。調べようと思えばこのくらい簡単です。空さんのご両親が計画の研究員だったことは知っています。とても優秀だったことも。それより研究資料には実験は失敗と記されていましたが、なぜ空さんの両親はメシアの人間に命を狙われて殺されたのでしょうか?本当は成功していてそれを隠蔽していたからではないでしょうか」

「だから俺の両親が殺されたと?」

「ええ。私に協力していただければいろいろな情報を提供できると思います。空さんは知りたくありませんか?人類史上最も神に近づいた人と呼ばれているご両親が辿りついた先を」


空はナイフに添えていた手を戻し笑った。それも盛大に。突然笑い始めた空に優雨は惑いを隠せない。


「なぜ笑うのですが?」

「いや、父さんや母さんがそんな風に呼ばれていたなんて可笑しくて。あの世で二人とも笑ってるだろうな」

「ご両親を馬鹿にするのですか?」


尊敬できる両親が居ることを少し羨ましく思う優雨は少し不機嫌な顔をして空を見つめた。


「馬鹿になんかしてねぇよ。ただ俺にとっては平凡な普通の両親だったからさ。普通の家族となんも変わらない…」


そう話す空は今まで見せたことのない優しい笑顔だった。見惚れていた優雨はすぐに話をもとに戻す。


「それで協力していただけますか?」

「いいぜ。でも条件がある。それが呑めるんだったら協力してもいい」

条件という言葉にすこし身構える優雨に空は苦笑した。

「別に条件といってもお前の身体を差し出せとかじゃないから安心しろ」

「えっ、そんなこと考えてません!」


顔を赤くして俯く優雨をみて空は笑った。


「条件といっても二つだけだ。一つ目は俺の邪魔をしないこと。二つ目は協力関係の間は隠し事はしないこと。この二つを守るなら出来る限り協力はしてやる。どうだ?」


優雨は少し考える素振りをして答えた。


「わかりました。もし私が約束を破った場合はどうなるのですか?」

「そしたらいつも通り俺は消えるだけだ。お前に特にリスクはない筈だが?」


そんな未来を想像したのか少し悲しげに空が微笑んだ。その笑顔をみて優雨は胸が少し締め付けられたが、笑顔で了承した。


「これで私たちは協力関係ですわ。これからは私のことをお前ではなく優雨と呼んでくださいね」


空はうなずき高崎家の近くの公園まで送ってもらった。


「今日はありがとうございました。これからもよろしくお願いしますね」

「ああ。また明日な、優雨」


空は車から降りて家へと向かった。



優雨は車の中で空のことを考えていると、運転をしている優雨の身の回りの世話をしている真矢が話しかけてきた。


「優雨様、あまり危険な真似はよしてくださいよ。ハラハラしました」

「あら、そう?空君は別に危険ではないと思うけど…」


おっとりいう優雨に真矢は溜息をついた。真矢は一瞬だが空から殺気が出ていたのに気づいていた。空は一般の高校生とは違う。それこそあの殺気を出せるのはプロの領域だ。それにあの佇まい、どんな訓練を受けてきたのだろう。それを言うなら優雨様も同じだが。


「とにかく注意はしておいてくださいね」

「わかったわ。真矢は心配性ね」


優雨は苦笑しながら車を降りるときの空を思い出していた。

初めて同年代の男の人に名前で呼ばれたわ…

それに神輿家の一人娘と知って対等の人間として扱ってくれる人はそういない。だからそんなことを気にしない空との時間は心地よかった。

それに空から見たら優雨はメシアの日本支部代表の一人娘で両親の敵のようなものだ。いくら家を出て来ているからと言って出生は変わらない。それでも空は一人の人間として見てくれた。


早く明日にならないかしら…


心のなかで優雨はつぶやいた。

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