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革命のレクイエム  作者: Satoshi
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出会い

バン!

部屋の中で一発の銃声が響き渡る。目の前で崩れ落ちる父親の姿を少年は目に焼き付けた。



「やめろー」


ベットから跳ね起き、少年は手を伸ばした。ふとあたりを見回すと落ち着き溜息をついた。


「はぁ、またこの夢か…」


いつものことのように、汗だくになった服を脱ぎ、シャワーを浴びに風呂場に向かう。少年が風呂場に入ろうとすると、中から叫び声が聞こえた。


「どうした?」


慌てて少年がドアを開けると裸で角を指さして涙目で叫んでいる少女がいた。


「あそこに蜘蛛がいるの!」


少年は冷静に蜘蛛を小窓から逃がしてあげた。


「もう大丈夫だ。だから泣くな、ハル」

「ありがとう、空……?」


ハルは自分の今の姿を見て、顔を真っ赤にし湯船に飛び込んだ。


「なっ、なんであんたがいんのよ。この変態!」

「なんでって言われてもなぁ…シャワー浴びようと風呂場まで来たら、いきなり誰かさんの叫び声が聞こえたからな。まぁ何もなくて良かったよ」


そう言う仏頂面の空を見て、ハルは何かあきらめたように溜息をついた。


「はぁ…わかったから風呂場から出て行ってもらえる?」

「了解。リビングに居るから出たら声かけてくれ」


空が出ていったドアを見つめて、ハルは悲しそうにつぶやいた。


「また、あの夢を見たのかな?」



空がリビングに向かうとそこにはハルのお母さんが朝食の準備をしていた。


「おはようございます、夏菜子さん」

「あら、おはよう。空くん。今日は早いのね」

「ええ、ちょっと目覚めが悪くて、シャワーを浴びようとしたんですけど…」

「あぁ、そしたらハルが居たのね。朝食はもう少しかかるからテレビでも見てゆっくりしてたら?」

「ありがとうございます」


ソファーに腰を掛け、テレビをつけニュースを見てると臨時速報が流れた。反政府組織「メシア」が政府高官を殺害したらしい。この世界は今二分されている。

世界政府機関である「ジェネシス」と反政府組織の「メシア」の二大勢力であり、全人類はどちらにつくか選択を迫られる。どちらにつくのが正しいのか、どちらが目指す世界が平和なのか、その答えを各々が考え、そして答えを導き出さなければならない。

そしてふざけた規約のもとにそれは強制的に行われていく。


世界統一規約第一条:「満十八歳になったら、必ずどちらかの組織に組しなければならない」


従わないものは世界から追放される。なんともわかりやすいのだろう。弱者は強者に従わなければならず、強者は自分の保身と新たな脅威を抑止するために人を取り込む。本当に腐った世界だ。そして何より腐っているのはこの世界の住人たちだ。言われるがまま自分の意思とは関係なしに、いやむしろ自分の意思でどちらかを選んだと錯覚させられている者たち。それは人間ではなく家畜だ。


「そんな恐い顔してどうしたの?」


お風呂からあがったハルが心配そうな顔をして話しかけてきた。


「いや、なんでもねぇよ。ちょっと考え事をしてただけ。シャワー浴びてくるわ」


咄嗟に笑顔を作り、立ち去る空をハルは心配そうに眺めていた。


「空がうちにきてもう三年か…」


潮見空が高崎家に来てから三年がたつ。両親が反政府組織「メシア」に殺された空を世界政府機関「ジェネシス」の高官で空の父と親交があった高崎家が引き取ったのだ。初めは暗く誰とも話そうとしなかった。今でも仏頂面はかわらないが、最近笑顔を見せることも増えてきた。ただ、時々見せる暗い冷たい表情が不安にさせる。私たちの前からふっといなくなってしまうのではないか、そんな悪い予感を振り払い、ハルは朝食の準備を手伝うのであった。



「行ってきます!」


二人とも今年の春から家から近い清涼高校に入学し、一学期も終盤を迎えていた。


「危ない!」


校門から学校に入ろうしたところにかなりのスピードで黒の高級車が突っ込んできたので、空はハルを自分のところに引き寄せた。


「ありがとう、空」


頬を赤くして照れているハルをよそに空は突っ込んできた車を睨み付けていると、車は空たちの目の前で停車し、そこから一人の少女が降りてきた。

シーン……

あたりの空気が一瞬固まったかのように静まり返った。車から降りてきたその少女に周りにいた誰もが見惚れていたのだ。黒いロングヘアーを風でなびかせながら、颯爽と歩くその姿はまるで女神かのように輝いていた。あたりが静まりかえる中、空だけが冷静に分析していた。今まで学校で見たことのない少女だったため転校生なのだろうと考えていると、空をみて少女が話しかけてきた。


「すみません。私、今日からこちらに通学することになったのですけれども、職員室の場所を教えていただけますか?」


空は一瞬驚き不審気な表情を浮かべたが、すぐに了承した。


「…いいぜ。ハルは先に教室に行ってな」

「わかった…」


まだぼぉとしているハルを置いて、職員室まで案内するため歩いると、転校生の少女が申し訳なさそうに話しかけてきた。


「すみません。わざわざ案内してもらってしまって。潮見空さん」

「…何のようだ?」

「あら、あまり驚かないですね」


表情ひとつ変えない仏頂面な空をみて驚いた。


「別に大したことじゃねぇよ。この時期の転校生、黒塗りの高級車、そしてあんたのたたずまいをみて、只者じゃないことはすぐにわかる。なんの目的でこの高校に転校してきたかまではわからんが」

「さすがですね。空さんには案内していただいているお礼を兼ねて先に自己紹介を。私の名前は神輿(みこし)優雨(ゆう)です」


その名前を聞いた瞬間、空の表情が変わりあたりの温度が数温下がったのかと錯覚させるようなオーラを発せられる。空はすぐに我に返り殺気を消した。


「あら、これでもあまり驚かないですね」


少しからかうような笑みを浮かべる優雨に空は元の仏頂面に戻り答える。


「人をおちょくるのはいい性格とは言えないな。あの神輿一族のお嬢様がなんでこんな平凡な高校に?」


神輿一族、それは反政府組織「メシア」の日本支部を代々率いている一族である。現当主である神輿権蔵は歴代一の切れ者とされており、世界政府機関「ジェネシス」に押され劣勢であった状況を、均衡状態まで押し戻した強者である。

そして空にとっては父の敵でもある。空の父は殺される前までは「ジェネシス」の高官で参謀を務めていたが、部下の裏切りにあい潜伏場所がばれた。そして両親を目の前で殺されたが、なぜか空だけが生かされたのだった。神輿権蔵の気まぐれであったのか定かではないが、あの時の目だけは忘れない。それはまるで哀れな家畜を見るかのようだった。

だが彼女を恨むのはお門違いだ。彼女自身に罪はない。

少し考える素振りをした優雨は笑顔で答える。


「それなら簡単ですわ。私、父と離縁して逃亡しておりますの!」

「は…?」


さすがの空もこれには驚きを隠せない。


「私は父の考えた方が好きじゃありませんの。力だけがすべてだと思っている…それは間違っています」

「あんたは馬鹿か。それはあんたの父さんだけじゃなくこの世界のあり方が問題なだけだ。強者が絶対でジェネシスであろうとメシアであろうと大差ねぇよ」


呆れたように溜息をつく空。そんなこと小学生でもわかる。


「それでも私は認めるわけにはいかないのです。父の考え方、この世界のあり方を」


真剣な眼差しで強く自分の意思を語る優雨をみて、空は眩しいものを見るように目を細めたが、すぐに暗いものへと変わる。世界の裏側を何も知らないからこそ言える幻想だ。


「あんたは幸せだな…用件はそんだけか?職員室はそこだぜ」

「はい、まずは挨拶をと思いまして。ここまで案内してくださってありがとうございます。空さん、私が神輿の人間だということは内緒にしてくださいね。それではまた後ほど」


神輿家のご令嬢は何を目的で俺に近づいてきたんだ…

優雨とわかれた空は険しい表情を浮かべながら教室に向かうのだった。


この二人の出会いが世界を大きく揺るがすことをまだ誰も知らない。




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