師匠に会った夜
俺は魔法が使えなかった。
世界でたった一人の魔法の使えない人間だった。 年齢も国籍も関係なく誰もが使える魔法が使えなかった。 産まれてすぐの赤子ですら、魔力を持っている。その魔力すらも、俺にはなかった。
世界初の魔力のない子供として俺はニュースにでた。それから、 外に出るのが怖くなった。
両親も、小学校までは育ててくれたが、散々馬鹿にされてきたストレスだろうか。母が倒れ、父が倒れ、同じ日に死んでしまった。
ある日の夜、ふと目を覚ますと俺の顔を覗き込んでいる男がいた。
「起きたかい、黒菅君?」
「............」
...誰? なんつーか、雰囲気がサーカス団員というか奇術師というか......
「お、なかなか良い洞察力だね。そこまではあってるよ、僕は奇術師」
「っ!?」
心が読まれた!? 読心系の魔力使いなんて世界を見てもそうそういないはずだぞ... いや、そうなるとこの男が誰かってのが絞り込みやすい。というか、もうあの人しか読心術使える人なんか知らないんだが......嘘だろ...?
「そう、僕は《奇々怪々》こと風上 吉野。...目を覚ましてから27秒か、混乱している時間が短かった。なかなかいいね」
金ピカの懐中時計をみながら彼は楽しそうに言った。
「...世界最弱に世界最強がなんのようですか?」
「いや、二つ間違ってるね、それ」
そう言うと彼はグッと俺に顔を近づけて、
「まず、黒菅君。君は世界最弱どころか世界最強にすらなりえる才能がある。ただそれに気づいてないだけでね」
「アンタも超えるってのか...馬鹿馬鹿しい...」
世界最強がそんなこと言いにここまで来たのか?信憑性が皆無だな
「それはないね。ここで間違い二つ目だが、僕は」
「『僕は宇宙最強だ』とか言う気か?」
「............その通りさ」
呆れるとこすらできない... 世界最強がこんな奴だったなんて...
「そこまで言わなくてもいいでしょ!?」
心で思ったことまで答えてくれるとは親切だな、変態
「宇宙最強、なんのようだ?」
「僕は君を宇宙二位にしたい。君の力は誰も気づいていないだけで素晴らしいものだ。僕についてこないかい?」
「アンタの言うことでも信じられないな。俺は産まれた時から魔力がないんだ。アンタも知ってるだろ?」
「確かにそうかもしれないが産まれた時なんか関係ない。それなら僕は透明で産まれた。その時から僕は才能があったんだろうね、ウンウン」
「............」
鬱陶しいなコイツ...
「まあ、君もタイミングが悪かっただけ。君は召喚師だ。ただし、夜限定のね」
彼は満面の笑みでそう言った。
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