1話「日常と非日常」
あなたは「小説の中に入ってみたい」「小説の内容が現実になったら」
などと考えたことがあるだろうか?
誰しもが憧れる主人公的存在。
そんな存在を疑似的に体験できるとしたら。
『小説の内容を体験できる』
研究され始めた当初は出来るわけがない。金の無駄遣い。などと叩かれていた。
研究も行き詰まり、ほとんどの人が諦めた。
が、ある一人の研究者が疑似体験できるようになる仕組みを発見した。
意識を特殊な電波を使って電子空間へ送ることに成功したのである。
それは世紀の大発見であった。
すぐに準備は進められた。
そして初となる疑似体験の実験が秘密裏に行われた。
その時は仕組みを発見した研究員が自ら実験体となった。
皆が固唾をのんで見守っている中、研究員は意識を電子空間へと移した。
電子空間へ移されている間は無防備になってしまうので、かなりの数の警備員が配置された。
そして実験は成功。無事に意識も戻っていた。
疑似体験を終えた研究員は一言。
---夢のようだった---
すぐに研究員らは発表し、翌日の新聞の一面を飾るビッグニュースとなった。
本の内容を体験できる。それは本当に夢のようであった。
しかし、まだ研究すべきところが多々あった。
例えば、電子空間で起きた痛みなどを感じてしまう。
痛みの大きさによってはショック死の可能性もあった。
そういった幾つもの壁を突破するのに2年。
実際に一般人が使えるようになったのは発表後から5年後であった。
本の内容を体験できるシステムはかなり人気があった。
その名もSDS。ストーリーダイブシミュレーションと呼ばれている。
やり方は面倒だが、覚えれば簡単である。
まずは体験したい作品をサイトから『クリエイション・タブレット』という機械にダウンロードする。
そしてそのタブレットをSDSシステム専用の機械に取り付ける。
この機械は値段は高いが一般人でも買うことができる。
買えない人のために政府が建てた『SDSセンター』と呼ばれる建物にも置いてある。
数は限られているので予約がいっぱいである。
その機械の見た目はガ〇ンダムの戦〇の絆。あの感じだ。
中はそんなに広くもないが狭くもない。
そして本当にSDSを行うかどうかの最終確認をして電子空間に入り込む。
電子空間に入ることによって自分だけの物語を体験できるのである。
電子書籍と連動させることによって、本の内容を自分が体験したことに書き換えることが出来た。
これで正真正銘、自分だけのオリジナルストーリーが出来上がる。
まさに夢のような、誰でも主人公になれるシステムは瞬く間に世間に浸透していったのである。
「なぁ!?お前のあの話今どんな感じになってる?」
「俺のバッドエンドだわ・・・・」
「俺は全員で八ッピーエンドになったけど」
「「何ぃ!?」」
といったように同じ話でも人によって違う過程や結末になるので
それもまた一つの楽しみ方であった。
ただ、浸透していった。といってもすぐに機械を作ることは出来ないので一部の地域だけだが。
また、その夢を楽しめないこともあった。
確かにその本の中に入って自分の好きなことができる。
ある作品のキャラクターに恋愛感情などを抱いている人たちは
その作品の中でそのキャラといちゃいちゃしたいと考えていた。
だが疑似体験と言ってもその中のキャラにも感情はある。
そして、作品に忠実であるがためにその作品でほかのキャラに恋愛感情を持っているならその感情も再現される。
つまり、恋愛は出来ないのである。
だが例外として、そのキャラが作品の途中で恋愛感情を持つことになっているとしよう。
そのシーンの前にそのキャラが自分に好意を向けるようにすればいいのである。
しかしそれに気づく人はいなかった・・・
そしてSDS導入後から1年後。
ここはSDSが導入された数少ない町のうちの一つ、近衛町。
導入されているだけでも希少なのだが、
この町ではその中でもごく少数の『SDS開発訓練学校』という専門学校がある。
より多くの人が安全に楽しめるよう、日々専門的な知識を学ぶ学校である。
そこに通う一人の生徒、児玉蒼。今日もいつもの日常が始まる・・・
「やばい、遅刻するぅぅぅぅぅ」
少女マンガのようなセリフを呟く僕。
普通にネタだが今日は洒落になっていない。
今日は実習訓練がある日である。大体遅刻したものが一番先にやらされる。
そんなに成績がよくない自分にとっては一番手などありえないのだ。
「あと少し!!間に合えっ・・・」
「はい蒼遅刻なー」
担任の教師の無慈悲な宣告が下される。
「何だとぉぉぉぉ」
結局遅刻しました。
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いつもの授業の開始を知らせる鐘が鳴る。
「じゃぁ前にも言った通り実習訓練やるぞー」
教室の中で波紋が広がるようにざわめいていく
実習訓練は緊張はもちろんするが楽しみな訓練である。
今回の物語は何なのか、誰もが気になっている。
「それじゃぁ今回の実習訓練に使う物語は・・・」
告げられた作品名に僕たちは少しだけ驚いた。