1-3
最悪だと思われた土曜日だったんだが、実は幸運の日だったんだ!
ある日の土曜日だ。別に誰とも遊ぶわけでもなく暇を持て余していた。
「くっ……おりゃ! くそっ! この、この……!」
ネットの無料ゲーで時間を費やしていた。朝っぱらから。いや、マジ暇なんですもん。趣味と呼べるものが俺にはないからさ。
けど、なんとなく興味があるもんは出てきた。
――ゲームとアニメだ。
オタクになっちまうぞって? いやいや、そんな高いレベルまで行かないレベルだぜ、まだ。楽園本は趣味ではないと一度言った。だって、それは男の本能だからだ。本能に逆らってない俺は逆に正しいと思うね。
我慢して生きるより、やりたいと思った時にやる。それが俺のポリシーなんだよ。
興味から趣味へと発展してったらいいじゃないかよ。そう思うんだよね。
「これは神ゲーだな。っとトイレ、トイレ……」
トイレのついでに昼飯も食ってくかな。いつの間にか昼になってるし。
階段を下りて、トイレへと向かった。
そういや、家には今誰がいんだ?
トイレを終えて、昼飯を食ってる時だった。ちなみに昼飯はカップラーメンと簡単なもの。俺の好きな醤油ラーメンだぜ。
食い始める時に、ピンポーンと大っきい音が鳴った。くっそー、せっかくの一口目を邪魔しおって誰だよ、ったく……。
イライラしながら玄関に向かおうと椅子から立ち上がろうとしたとき、
「はーーいっ!!」
二階からでっかい声が聞こえた。そんで階段から急いで降りて玄関へ向かいドアを開けた。これは琴音の声だろう。で、この流れは……おそらく。
「いらっしゃーい。さぁ、上がって上がって~」
「「お邪魔しまーす」」
チッ。うちの女どもは表裏の差が激しいやつらだぜ。つうか、客来るなら一言ぐらい言えよな! 琴音ならまだ俺に報告できんだろうよ。
で、リビングと玄関を行き来する扉が開けっ放しだった。そっから見えたのは琴音が先頭をきって、三名が後ろをついていく。
そんで、琴音と一名はそのまま上に上がっていったが、二名は俺に気づいたらしくあいさつを入れてきた。
「「おじゃまします」」
「お……はい」
あくまで先輩だから「おう」とはさすがに言えなかった。しかも、同じ高校だしな。そんで初対面でもあった。
で、どっちも可愛いじゃねぇか……。頬が熱くなるのを感じた。二人共長髪で一人は黒色に染まり、もう一人は茶髪に染めていた感じだった。軽くしか見てないから、服装はよくわかんなかったけど、どっちも短いスカートだったよ。二人の特徴で言えば、二人は相対的な性格そうだったな。おとなしい子と、やんちゃ混じりな子って感じ(子って言ったらおかしいか)。
でも、俺は顔ばっか見てた。変態かもしれないな、俺。
で、今度は昼飯を食い終わる時だった。シメにスープを飲もうとカップを持ち上げた時、
――ピンポピンポピンポピンポピンポピンポーン
あぁあぁあぁ!!! うっせーうっせーよ!! 出りゃいいんだろ? 二回も食事を邪魔されてイライラしつつ椅子から立ち上がろうとしたとき、
「はーい! ちょっとまってね~」
誰だ、こんなアニメ声優みたいな可愛い声を出すやつは。この家にいたっけ? そんなやつ。
と、思ったときにそんな声を出しながら星乃がリビング前を横切っていった。
いや、おめぇかよ! 裏声使いまくりだな、おい!! ――と、冷静に冷静に……。
「いらっしゃーい。先、上がってて~」
「「は~い」」
そう言った後、星乃がリビングに入ってきた。俺に睨みを一度入れ、お菓子やお茶を用意し始めた。リビング前をまた女の子が通り過ぎていく。一人はそのまま上に上がっていったがもう一人は俺を見ると軽く礼をし、
「おじゃまします」
おいおい、これまた可愛いなぁ……。特に気に入ったのが、長髪なんだよなー。偶然だと思うが、さっきから挨拶してこないやつはショートとポニーテールなんだよ。これはどう考えても長髪がいい子っていう証なんじゃないかな。ただ、あいさつしてないのは気づいてないだけだろうけど……。
と、ずっと女の子たちを凝視していると、星乃が後ろで、
「あぁ、別にこいつになんも言わなくていいよ~? めんどくさいっしょ?」
当然でしょ? と言わんばかりのバカにしたような顔しやがって……!!
てめぇ、何言ってやがんだ。礼儀だろが礼儀! それを家主がさせないようにするってどういうこったよ。
それを聞いた女の子たちは、
「……? ん……うん」
ほらー、困ってんじゃん。困った顔しながら上がってったよ? いいんかよ、こんなん――
ガタン!! バン!! という音と共に俺は視界が動いていくのを実感した。じわっと床に打った肩に痛みが走る。
「っ痛ってええ!!」
これは多分椅子を蹴られたんですね、あはは、あははは……。――全然笑えねぇよ。逆DV? これってそうじゃない!?
「あんた、●●●見るような目であたしたちを見ないでくれる? マジ、ウザイしキモイ」
「んな目で見てねぇよ!? なんてこといいやがんだ! 俺は犯罪者かよ!?」
「次見たらぶっ殺すからね」
あのこ可愛いーなぁって思って何が悪いんだよ!
男子高校生舐めんな!!
俺のコメントには応じず、さっと星乃は二階へと上がってった。
これを見てもらえたらわかると思うが、うちの女どもはすごい。余裕で俺をのけ者扱い。まだ琴音がましに思えるように見えるかもしれねぇが、絡んでこないだけで、別ベクトルの嫌がらせである。勘違いしちゃあいけない。
……チッ。ほんと今日はついてねぇなぁ。
まぁ、うちに誰が来ようと支障はないんだけどな。
別に俺がのけ者にされているというのは今までの経験値から慣れていた。慣れてるってのもマゾみたいで誤解されそうだが、この暮らしを続けてたら怒る気にもなれなくなるんだよ。
ただ一つ、気になることが一つあるとすれば……。
「きゃははは、マジでー?」「マジうざいねそれー」「でしょー?」「それホントー?」
なんで女の悪口を聞かなきゃならんのですか。
待ってくれ、弁明の余地を与えてくれ。
実は、姉の部屋は俺の隣にある。その姉の部屋のとなりが妹だ。壁と壁との間が狭いわけではないんだけど……ほぼ空洞なんだよね。
けど、声なんて聞こえないはずなんだ、普通に喋ってれば。
一方、俺は自分の部屋で無料ゲーの続きをやっている。でも、聞こえてしまうんだよ、奴らの声が。
よし。暇だし盗み聞きでもしときますかな。うひひひひ……。
と、俺はちなみに変態ではないかんな? 聞こえるから仕方なく、だ。
女の悪口なんてろくなことがねぇんだが、それでも気になってしまうのが男の悪いところだよな。
俺はベッドに乗って顔を壁に近づける。耳を壁に押し付けるようにして話を聞いていた。
……今から話してる内容をそんまま伝えちゃうぜ?
……いや、待てよ。悪口言われてる奴の名前は伏せておく必要があるな。プライバシーの問題的に!
そうだな。誰が言ってるか俺が軽く補足しておこう。
「でさー、●●のやつ、女子更衣室覗きやがったんだってー」
……おそらくこいつは挨拶してこなかった先輩だな。さっきの二人が出してた声から想像がつかん声をしている。
「それマジキモい!!」「●●ってそんなやつだったんだー。ドン引きしちゃうね~」
最初が……琴音だな。違うと思うんだけど、ちょっと暴れてる音も聞こえんだけど? 二人目は、茶髪の先輩だね!! 俺の好みだから、どんどん喋ってください。
「●●って誰かと付き合ってなかった?」
黒色長髪の先輩だね! 優しい口調でありがとございまっす! イメージを崩してこなかったぜ、あの先輩。
後半2人は完全に俺のイメージで決めているのだが、俺の予想がすべて合ってたらいいんだけどなぁ。
……期待を裏切らないでよ?
……しっかし、あれだな。●●は嫌われまくりだな。覗きなんて昭和臭い何かを感じてしまうが……。
それを盗み聞きしている俺は本当に罪である。
なんとなく、十分ほど話を盗み聞いてて、悪いと思った俺は途中でやめることにした。
……いや、だって●●の悪口しか言ってないんだもんな! さすがに気分が悪いよ。 俺もあんなこと女に言われてるんだと思うと背筋が凍りつきそうだ……。女は怖い。
でも、あの長髪二人組は悪口っていうか話に乗っかってただけだと思う。だから別に罪はないと思うぜ。
まぁいい、とにかくさっきのことは忘れよう。
俺はそれから椅子に座り、ヘッドホンをつけてオンラインゲームの世界へとダイブインしようとしたのだが。
俺の不運がそこで終わりを迎えることはなかった。そのメッセージを見るまでは。
--助けて
俺のパソコンの右下に突然現れたメッセージ通知。
何事だ、これは。
少し嫌な予感がしつつも、そのメッセージを確認する。
まぁ、俺とパソコンのチャットをする人なんかあいつしかいねぇのはわかっている。星乃だ。
メッセージには送信主、星乃。本文は、助けての一言。意味がわからん。
「ど……どうゆうことだ?」
さっきまでのハイテンションではいられなかったぜ。急に助けて、なんてよ。
わけがわからんが、パソコンでメッセージを送ってくるくらいだ。そこまで緊急の要件ではないだろう。
ーー突然どうした?
俺の返信に気づくだろうか。
つか、このチャット機能、会議をするとかなんとか言ってやるつもりだったのに、趣旨が異なっているんだけど?
俺の返信への返事は30秒足らずでやってきた。
--あのテスト挟んだ紙、見つかりそう
あのテスト……つまり零点をとったテスト?
これだけでは全然状況が掴めねぇよ。生憎、今日は親もいねぇし。何事なんだ、ったく。
--もっと詳しく伝えてくれ
あいつも今は緊急事態だろうし、できるだけ短文で早く返信をした。
--友達にバレそう。あたしの机漁りだした。あたしどこに置いたか忘れた。
外国人並みの片言だな、おい。
なんで友達がおまえの机漁ってんのかが意味わからねぇんだが。
とにかくパッと整理しよう。
星乃の友達がどういうわけか星乃の机から、星乃がどこに隠したかを忘れた零点のテストを探し始めた、と。
なんっつーシュールな状況だよ。
で、何? それをいちいち俺に報告するためにメッセージ送ってきて? ……自分で止めろよ!
おそらく、それは既にやったのだろうな。
じゃなきゃ、俺にメッセージなんて普通送ってこないだろうし。
なんともまぁ、哀れな……。
とはいえ、俺はどうすべきなんだ。
--理解したぜ。で、どうすりゃいい?
これに対して、秒で返信がきた。
--自分で考えろ
「なっ…………!?」
あいつっ…………!! それが人にモノを頼む態度かよ!!
ありえねぇ……この態度明らかに逆だよね? ミスした後輩に先輩がかける言葉だよねこれ!?
でもまぁ……切羽詰まった状況だとすれば、仕方ねぇかもしれない。なんて甘々な兄ちゃんなんだろう。
俺はその場でふと立ち上がり妹の部屋目指して歩いて行った。
俺と妹の部屋までの距離は割とある。
間に琴音の部屋が挟まっているから仕方ないのだが、いざこうして切羽詰まった状況であると無駄に長いと感じることこの上ない。
俺は妹の部屋の前で立ち止まった。
礼儀として一応軽くノックをする。
……………………。
もう一度大きめにノックをする。
……………………。
……いや、出ろよ!!!!
なんで!? あいつ俺にヘルプ頼んどいて!?
こうして助けにきたら「キモい」とかいって出ないの!? あいつ……友達の前じゃ俺と絡んでるの見られたくないってか!?
次はかなり強めにどんどんとノックをした。
「おい、星乃ぉ!!!! 俺、おまえに用があるんだよ!!!! 出てこいよ!!!! なぁ頼むよぉ!!」
絶対あの友達には俺のイメージは、『キモい星乃の兄貴』ということでまかり通るんだろう。
そしたら急に扉が開いた。
「…………なに?」
星乃がすごい不機嫌そうな顔で俺を出迎えた。
違う。不機嫌そうに見えて、これはただの装いだ。 目がかなり焦っている。『やばいから、早く何とかして!!』と目で訴えかけている。
だって普段なら、うるさいと言って閉めるはずだろう。それなのに、俺に何かをさせる権利をくれたのだ。星乃の後ろの方では、星乃の友達が机の前で俺の姿を捉えていた。俺の予想していた状況と完全合致した。なんとかしてやらねば。
「……よ、よぉ。星乃。俺さ、おまえにこの前ノート貸したじゃんかよ……そろそろ返してくんねぇかなぁって」
なんともまぁ、下手くそな嘘である。
というより、この作戦にはかなり嘘が混じっているせいでもし突っ込まれたら反論の余地がない。
あえてここでは述べないでおくが……バレないでほしい。土壇場で思いついた案であるが故の愚策だった。
「……は、はぁ? なんで今なの? 友達来てんじゃん。後にしてよね。マジメーワクだから」
おい、お前それ本気で言ってねぇだろな。割とガチな顔な気がするんだけど。 俺のセリフの嘘の一つを当の妹がバラしてしまうもんだから困りもんである。しかし、俺はここで引き下がるわけにゃいかない。無理矢理冷静な顔を装った。
「いやぁ……ほんっとごめんな? お兄ちゃん、午後からちゃんとお勉強しようって思っていてね? そしたらあのノートが必要なんだよぉ」
「……なにその喋り方、ぉえ。ゲロ出そう」
やっぱおまえそれガチな感想だよなぁ!? マジ引くわ、みたいな顔やめてくんないか? 誰のためにやってると思ってんの!? あとゲロって言い方汚いからやめなさい!
「そ、そういうわけだから、ちょっと部屋入っていいかなぁ?」
「え……う、うん」
さすがの星乃もこの事態を収拾したいがために呼んだわけだ。俺を渋々、部屋の中に入れてくれた。
うわ……星乃の部屋……何年振りだろうか。
星乃の部屋は今時の女子っぽい部屋だ。
全体的にピンク、ピンク、ピンク。
俺の殺風景な部屋とは違って女の子っぽい生活をしといるみたいだ。
姿見、タンス、本棚、大量の化粧品。
語彙力に乏しいが、異常なほど女って感じの部屋だぜ。
星乃の友達は俺を見ると、ポカーンっと口を開けて見つめていた。
「……へへっ、はじめまして……星乃の兄貴やってます……ちょっとそこ探させてもらっていいかな……?」
自分でも思うが、すごい性犯罪者チックな顔つきをしていただろうな。
一人の女の子(さっきの黒髪美少女)は、
「あ……はい、どうぞ」
と机から離れてくれたのだが……もう一人は
「えー、どうしよっかな〜」
とか憎たらしいことを言い出した。
すごい意地悪そうな顔をしていやがった。
なんだこいつぅ……俺様に向かって歯向かうだとこのガキぁ……。
「えっと……ちょっとだけでいいんで……」
「んー、じゃあ1分だけ時間あげるね」
ぶっとばすぞコラ。
何の意地悪プレイしやがんだこのガキ。おまえモテねぇだろ? なぁ? 絶対そうだろ?
「お、おぅ。じゃあ1分だけ時間をくれ」
1分……!? 待て、よく考えてみろ。1分だと!?
どこにあるかもわからねぇ妹のノートを探し出のに1分しか時間くれねぇのかよ!?
とにかくこうしてる間にも時間は過ぎ去っている。よく考えろ。俺がこの部屋に来る前にこいつらは既に探してたんだ。テスト用紙、をあいつらは探してたとすれば、ノートはまず探してないはず。
本立てをひとまずチェックしてみた。
1冊1冊ペラペラとチェックしてみた。ノートの内容はどうでもいい。なんかが挟まってればいいんだ。
まったくねぇなぁ……。
「あと30秒だよ〜ん」
うっせぇ。黙ってろ。
今どきの中学生はプリントを使って授業しねぇのかな……1枚もプリントがなかったし。
あああダメだ。時間時間と言われると、まったく頭が働かん。
ノート……普通棚に置いておくだろう。それなのになかった。なら、次に考えられるとしたら、引き出しの中だが、そんな場違いなモノがあれば、すぐにバレてしまうだろう。
そう思いつつ、すべての引き出しを確認するも、特に怪しいものはなかった。
「あと10秒っ」
マセガキにうざいカウントダウンを始められ、もうどうしようもなかった。
それを伝えるべく、後ろにいた星乃と目を合わせた。
(無理だ……!! わからん!!)
(チッ……なんでこんなに使えないの?)
(場所さえ覚えてりゃこんなことにはならなかったろうが!?)
(忘れちゃったんだから仕方ないじゃん!)
謎のアイコンタクトを交わす俺たち。
それを見ていたマセガキは、にやっと頰を歪ませ、
「愛だ……愛だねぇ〜」
「う……うるさいっての! あんたはいつもいつも〜!!」
星乃はキレて、マセガキとじゃれ始めた。女子中学生のノリには付き合ってらんねぇよ、ったく。
はぁ……どうしたもんか、とふと目を机の横にずらすと、そこには星乃の学校用の手提げ鞄が置いてあった。
ちらっと、そこからは教科書群とノートが覗いていた。
俺はビビッときて、星乃に見えないようにカバンの中を漁り始めた。
と、そしたら。
「あ……あったぜ」
自分の背で隠しながらノートの中身を確認する。白紙のノートの中に不自然に挟まれていた零点のテスト用紙。間違いねぇ、これだ。
まさかの学校のカバンに入っていたのである。
自分の大事な物は常に身につけている、という人がいると聞いていたが……まさか、本当だったとは。
俺はノートを持ってその場を立ち上がる。
任務遂行。このまま帰るだけだ。
それを後ろから見ていた黒髪美少女は……
「それ……お兄さんのノートなんですか……?」
「お、おうよ……」
と、ノートを軽くその子に見せつけてやった。
じーっと、その子はノートを見つめて疑問そうな顔をしていた。内心俺はビクッとしたが、
「……そうなんですね。ちゃんと見つかってよかったです!」
「お、おう……よかったよ」
少しだけ歯切れが悪いが、任務を完了し、俺は部屋を出て行く。
そのとき、マセガキとじゃれていた星乃から一言。
「それ、また貸してよね」
「はいはい」
俺は少しだけ顔が綻んだ妹の顔を見られたような気がした。
で、六時頃。オンラインゲームを終えてヘッドホンを外した。声が聞こえてこない。もう帰っちゃったのだろうか。
俺はリビングに向かった。冷蔵庫からお茶を取り出す……となんだ空かよ。友達に全部出してやったのかね。
だったら、冷蔵庫から出しとけっての。多分、星乃だな?
しゃあねぇ、買いに行くか。
ケータイと財布と鍵(基本装備)を持ち、コンビニに向かい、中に入ると、ちょっとだけ見知った顔ぶれがいた。
「……こんちわ」
それはさっきの先輩らだった。挨拶してこなかった奴と、琴音はいなかった。いい面子だけ残ってるぜ。神様サンキュ。
挨拶と軽く礼をすると、あの人らは手を振って笑ってくれた。あれ? 俺って人気者? と自意識過剰にとっちまったぜ。これが後に、「こういうことかよ……」と思い知らされるんだが。俺と入れ違いに二人はコンビニから出て行った。
奥に進むと、これまた見知った顔がいた。星乃の友達の可愛い子。なんだ、今日は俺は長髪感謝デーに遭遇しているみたいだな。 幸運が俺に降りかかってるみたいだぜ。
「こんばんわ!」
先に挨拶される俺。おっと、見とれてしまって挨拶が遅れちまったぜ。つか、さっき先輩らに「こんにちわ」って言っちまったぜ……。は、恥ずかしい。
「えっと、何か買い物?」
年下には普通に喋っとかんとな。悪印象がついちまうかも。さっきの件で悪印象しかないだろうが。
「あ、はい。お茶、なくなっちゃって……帰りに寄ってこうと」
「へー。実は俺も茶きらしちゃってな」
作り笑いがヘタな俺。その分、綺麗な笑みを浮かべる子だなー、君。
その子はケースを開けて2lペットボトルを取り出した。おっ、そのお茶は。
「あっ、そのお茶なんだね」
「あ、はい。いつもは『濃ーい、お茶』なんですけど、さっき飲んだときこれがおいしくて……」
やっぱり星乃か。星乃、いつもの癖全開だったからなー。俺が飲んでるこのお茶は『鞘鷹』で家ではこれが定番茶と化している。にごりは旨みと言われてるがマジうまいんすよ、これ。
「……あっ、そうだ。いまケータイ持ってますか?」
「…………へっ?」
「わたし、結構メアドをすぐ渡しちゃうんですよね。交換しませんか?」
「あっ、いいよ」
嬉しぃよ、これ! なに、これ? 今日ってなんだかんだ言ってサイコーの日なんじゃねぇの?
赤外線を使い、メアドを交換し終えた。当然、買い物を済まして外でやったけどね。
「あ。届きました。そっちはどうですか」
「お、届いた届いた」
名前は……新芽みく……ちゃんか。
けけっ! 通算、女の子と二人目のメアド交換だぜ。俺は自然と出る笑みを堪えるのに必死だった。ちなみに家族はノーカウントでおねげぇしやす。
「よかったです! えっとじゃあもう帰りますね。さようなら!」
「おう。じゃあな」
まっすぐ行って曲がり角を曲がり、姿が見えなくなった。
……へへっ。嬉しいなぁ。俺は堪えていた笑みをこぼす。
アドレス帳を確認した。しっかりと名前が刻まれていた。嬉しいなぁ、ぐへへ。何度も言うが、俺は変態じゃないぞ。普通の高校二年生だ。
あれ? そういや、知らない名前も……登録されてるんだけど? まぁ、いいや。今日はとにかくいい日だったぜー、ぐへへへ……。
ほんとにやけが止まらないわ。
いつもは一話一話短いんです、僕。けど、この小説だと、大量になっちゃいます。これはいいことなのか、悪いことなのか。よくわからないです(笑)
春休み最後の投稿でした!