93話 最弱竜で生きてます
桜の花びらによって魔力が回復、といっても姿を変えられるほどには魔力が回復していなかったようです。その日は古竜軍団と一部赤ちゃんは城の大広間で雑魚寝決定しました。
もともと遊び好きというか、能天気というか、そんな特性の古竜達が集まると、大広間は大騒ぎで、まるで修学旅行の夜のようでしたよ。
ちなみに私はグレンの部屋でぐっすり寝ましたが。
翌朝、古竜達は虫姿に変われるようになり、一部は帰るかと思いきや、皆が古竜爆撃で壊したあれやこれやの瓦礫の撤去を手伝うと言い出し、現在に至ります。
「お役にたててます?」
古竜が持つ瓦礫と言えば子供が持てるような河原の石程度の大きさのものです。ですので、古竜改の皆さんが大きな石を破壊し、それを人海戦術で運んで積み上げている所なのですが、細かくした分人間には運びにくい形となってしまってますね。
「たぶん」
答えるのは黒竜隊ヴァン。
騎士団の指揮は、現在ヴァンが行っています。というのも、赤竜隊隊長レイファスは通常通り王族の警護、緑竜隊は隊長イルク死亡、副隊長マリア負傷で指揮官がおらず、青竜隊はアルノルド負傷、ゼノはおおざっぱすぎて指揮にむかない。あと残ったのは黒竜隊のみ、ということでの現場指揮です。
「あちらにはいかないように…」
古竜に伝えてくれと言いたかったのでしょう、しかし、続きは目の前の光景に止められました。
行くなと言おうとした現場にすでに古竜がわらわらと向かい、そこで働くゼノの竜ゼファーをはじめとする大型竜達にすでに踏まれておりましたから…。
私もヴァンも目を逸らしましたよ。あえて見なかったことにします。
お昼前には緑のインテリ古竜アイノスが現れて説得、半数以上が邪魔なのでお里に帰って頂きました。うん、いい判断です。
お昼からはちょこまかするのが減ったせいか瓦礫の撤去が倍速で進みました。ちなみに古竜達のお仕事は主にその辺りをちょこまかする子供達と遊ぶことになりました。
ですが、その作業が一時中断。
冒険者ギルドから人が走ってきてゴーストが出たというのです!
「お化けです!」
「そう言うことなら古竜の力の見せ所ですね」
くいっと眼鏡を上げたアイノスの目がきらりと光る。
ゴーストというのは文字通りお化けです。ただし、お化けの姿をした魔物です。彼等の弱点は光なのですが、今はお昼なので活動できません。ではなぜ現れたかというと、人に憑りついているのです。
古竜は精神的に強い一族ですので、ゴーストに憑りつかれることはありません。というわけで…
ゴーストバスターズ結成!
わざと憑りつかれやすいように皆さん人型に変わりましたが…髪っ、髪の色が体の色と同じで目立ちすぎです、すぐばれますよっっ。
アイノスが緑、どこからか現れたリアーナがピンク、他にも金、茶、黒、赤、青とカラーバリエーションがすごいです。そして、皆さん美形です。女性は可愛いというべきですね。
…がれきの撤去も人間バージョンでやればよかったのでは?
思わず口にすれば、アイノスがごほんっと視線を逸らして咳払いしました。
忘れてたのですね…。
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人間バージョンによるゴーストバスターズはものすごい注目を浴びました。
何しろ古竜の人間バージョンというのは、美形だらけのこの世界でもひときわ輝くアイドルのような雰囲気を醸し出しているのです。男性はジャニーズ、女性はアイドルと言ったところでしょうか?
ただ一点、違う集団があります。
黒髪の筋肉集団と言えば分るでしょうか。
そう、古竜改の皆さんです。
長身の筋肉ムキムキな4人組は、揃って立つと壁ですね。
「ゴーストの確認がされたのが西区ですので、ギルドメンバーに追い込まれていればこちらの方に来るはずです」
アイノスが冷静に分析し、どこからかぶんどってきた地図を広げます。
ふむふむと地図を見る古竜の中には、すでに他のことに気をとられてふらふらと歩き出すものもいて引率が大変です。
それからの古竜の動きはもう怒涛のようです。
あっちで見たと言われて駆け出し、時に邪魔な壁を古竜改の皆さんが破壊して進み、がれきを増やし。 こっちで見たと言われて走れば、そこでは酔っぱらった古竜が酔拳を披露しているという混乱ぶり。
冒険者と騎士達を巻き込んでの騒動は、いつしか古竜達の取り締まりに成り代わっておりました。
なぜ!?
日も沈むころ、町の噴水のある広場に転がる古竜達…。
いまだかつてないほど走りすぎて体力が切れ、人間バージョンも保てず死屍累々と広場を占拠しております。
「リア、これは何事?」
他の古竜同様潰れていた私は、迎えに来たウィルシスを見上げて寝転がったまま事情説明。
ウィルシスは私を抱き上げ、なるほどと頷くと、非情なセリフを一言。
「ゴーストならとっくに昼過ぎに倒したよ」
それまで呻いていた古竜達ががっくりと気を失った瞬間でした。
余計な混乱を招いたのは古竜達の方でした。
古竜に敵を倒すなんてお仕事できるはずありませんでしたね…
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その日、疲れ切った私は、夢を見ました
『もういいかなぁ』
目の前には、たまにする就職活動でしか着たことのないスーツ姿の鈴木保奈。
『何がですか?』
首を傾げるのはリーリアである私。
『もう、人としての私を終えてもいい?』
おかしなことを言いますね。私は私です。人でも竜でも私ですよ?
保奈はニカッと笑います。そういえばこんな風に笑ってたっけ。
『保奈だけに…』
その先はよく覚えてますよ。よくそういって皆さんにおやじギャグ~って笑われてましたからね。
『『ほなさいなら~』』
ふわりと保奈の姿が消えました。
そして、私は目を覚まします。
「リア?。どうかした?」
パチリと目を覚ました私は、昨日捕まったまま一緒に眠ったウィルシスに涙をぬぐわれながら笑います。
「何でもないですよ」
うん、ここが私の世界です。
ここにいるのが今の私・・リーリアです。
今頃城の広間でも今の私のように激しい筋肉痛に襲われているダメダメな古竜の一族。
それが私の一族ですね。
私、本日も最弱竜で生きてます―――――――
どこまでも混乱を呼び込む古竜達です。
そして地獄の筋肉痛は3日続く・・・
補足:保奈ちゃん登場は魂が定着したということです。
記憶は何百年後くらいには消えます。 赤ちゃんがお腹の中のことを覚えているのと同じような感じですね。




