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92話 大団円

 一度その生を失っても、同じ個としての心があるのならばそれは再生を意味し、全く別の個として生まれるのならば、それは一度滅んでいるという考え方のようです。

 私の場合は再生に当てはまるかもしれませんが、別の体なので転生になるのですね。


「そういうことなら、この赤ん坊達は以前と同じではないということだな」


 国王がちらりと険しい表情のグレンを見た後、アイノスに視線を戻しました。


『これから育っていく者達が同じではありえない』


 過去と全く同じ環境はないですからね。育ち方も考え方もがらりと変わっていくことでしょう。


『そういうことなら、この子私がもらっていいかしら~』


 暢気な声に皆がばっと視線を集中させた。

 もちろん声の主はリアーナだ。彼女は小さな赤ん坊を小さな体であやしながら嬉しそうにしている。


『リーリアちゃんは育ててあげられなかったもの。それならこの子をもらってもいいでしょう?』


 まるで猫の子をもらうかのようにあっけらかんと言い放つリアーナは、強請るような視線をクロちゃんに向ける。

 そこはやはり夫であるクロちゃん次第ということなのですね。

 

「好きにしろ」


 クロちゃん優しい! ていうか、そんなあっさり決めていいものなのでしょうか!

と、ここで新たな問題に気が付きました。


『世界中にこういった赤ちゃんと、この国に家を無くした古竜がいますが、どうするのですか?』


 国王は初めからその問題に気づいていたのでしょう、大きくため息をつくなりちらちらと竜王セルヴァレート、クロちゃん、ウィルシスに視線を向けます。

 セルヴァレートは闘技場内でキャワキャワと動き回った後、自分達の近くに集合し始めている古竜達を見て片手をあげました。


「竜王の名において、古の竜達の今後は保証しよう」


 キュワキュワと古竜達が喜ぶ声にセルヴァがほほ笑む。が


「これだけいれば爺さん達も満足するだろう」


 ぽつりとつぶやいたその言葉を私は聞いてしまいましたよ! 黒い! 黒いです竜王!

 

 次にくるりとクロちゃんを見れば、クロちゃんは私を手招き、パタパタと飛び寄る私を抱えてリアーナと赤ん坊に視線を当てます。


「魔族は一切関わらぬ。これらはもらっていくが」


 家族限定ということですね。しかし、私は素早くウィルシスに取り返され、魔王対元国王の図ができあがりました。

 やめてーっ、私のために争わないでーっと言いたいところですが、クロちゃんは本当の父親ですのでできませんね。残念です。


『クロちゃん、私この国でのんびり生きていきますよ。あ、でも時々遊びに行きたいので連れに来てください』


 ぽそっと「親離れ…」という声が聞こえたので慌てて後の言葉を付け加えました。意外とクロちゃん家族に激甘なのですね。


 国王は魔族側からも何らかの支援を期待したようですが、もともと動いていたのはクロちゃんだけのようなので魔族としては動けないようです。がっくりと肩を落とし、一番の問題へと目を向けました。


「だぁ~、あ~」


 赤ん坊ですね。親がいるかどうかも分からない赤ん坊。彼らを育てるにはそれなりの施設がいります。そうなると、孤児院を増設しなければならなくなりますが、今のところ国内で赤ん坊になった数が把握できておりませんので、恐ろしい数になった場合の対処を考えねばならないようです。

 

 頭が痛いとばかりに頭を抱えた国王の傍に、なぜか古竜達が集まってきます。

 よくみれば、国王の周りを取り囲むのは魔穴にいたのとは違う古竜達のようです。

 

 そのうち、一頭が国王の膝をポンとたたき、国王は顔を上げてぎょっとしました。

 まぁ、悩んでうつむいている間に古竜に取り囲まれれば驚きますね。


「な、なんだ?」


 古竜達は皆一斉に胸を逸らし、胸かお腹かわからない場所をどんっと叩きます。


『赤ちゃんは任せて~』


『子供大好き』


『私達で育てるわ』


 目が点です。子供のような体格の古竜に赤ん坊は任せろと言われてしまいました。そして、彼等は懇願するかのようにひしっと国王を見つめます。

 古竜の子供好きは血だと思います。かくいう私もちょっとうずうずしますからね。


「う…まぁ、それは、ありがたい。子供と古竜の人数を把握してからできるだけ預かってもらうという形で考えよう」


 キャワキャワと集まる古竜達が明るい未来に喜びの声を上げます。その声がかなり多かったので見回せば、闘技場内に古竜が溢れておりました。


 いつの間に…


 なんだか幼稚園児大集合のような様相の闘技場内で、古竜に取り囲まれた人間達は笑みを浮かべます。

 絶滅どころか、国中に散らばり、ひそかに生きていた古竜、彼らが一堂に会し、楽しそうに話す姿は笑いを誘ったようですね。


 かくいう私もほっこりして笑みを浮かべると、ふわりと目の前に雪が…

 

『雪、じゃない、桜の花びらですね』


 ウィルシスに抱っこされ、手を伸ばして桜の花びらをキャッチします。


 驚いた人々は皆立ち上がり、私の目線も高くなりました。


 空からはひらひらと大量の桜の花びらが降ってきて、古竜達の失った魔力を回復させて消えていくようです。

 国中に降る桜は幻想的で、私は空を見上げると、自然と声を上げていました。


「キュルワァァァァ~~~~~!」


 最初の咆哮に、古竜達が続き


「「「キュルルワァァァ~~~~!!」」

 

 大合唱。


 最後には犬の咆哮のように負けじと声を張り上げるものだから、うるさいと叩かれました。


 ヒドイ…

 

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