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91話 滅びと再生

『と、言うことはぁ~、二人とも何にも知らないで親子認定したのね?』


 衝撃のタックルから…いや、事実から戻ってきて、クロちゃんとの出会いのシーンについて話すよう強請(ねだ)られ、話してみれば、今度はお腹を抱えて転げまわるリアーナ、もとい、この世界でのお母さん。

 

 闘技場内に降る古竜爆撃は止まったようなので、国王の命で騎士達と兵士がけが人と赤ん坊を回収。地面に埋まった古竜を引っこ抜いたりと忙しく駆けまわっています。そしてその横で、私達は円陣を組んで座り込み、お話合いです。

 私はウィルシスの膝の上で気持ちよ~く撫でられながら、複雑そうなお父さんクロちゃんと、腹を抱えてコロコロ転がるお母さんリアーナを交互に見ております。


『ところで、そうなると私、純潔の古竜ではないということになりますが』


 母は古竜、父は魔族。ということは、ウィルシスと同じハーフです。

 普通はそう思いますよね?

 

 しかし、ぶっ飛んだ一族は考え方もあり方もやはりぶっ飛んでいるようで、リアーナが笑いから戻ってきて、何の話?とばかりに首を傾げ、きょとんとした表情を浮かべた後にぽむっと手を叩きました。


『親が古竜の姿で生むと、生まれた子は古竜の純血腫、人の姿で生むと混血になるのよ。知らなかった?』


 知るかぁ! というかその考え方はありえないです! 確実に血は混ざっているではありませんか!


「ということは、僕も危うく古竜に生まれるところだったと…」


 ウィルシスがぽつりと呟くのを私は聞き逃しませんでしたよっ。どういう意味ですかっ。


『危うくってなんですかっ、失敬なっ』


 あの説明で納得するのもおかしいですし…。

 しばらく唸ってましたが、もう、いいです、この世界の人々はそれで納得してしまうのならばそう言うものだと諦めます。大体この世界の血液型だって4種類ではとどまらなさそうですしね。

 諦めモードで猫のように丸くなると、何やら視線を感じます。

 ちょっとほっておいてください。私はただ今カルチャーショックとウィルシスによる侮辱を受けてふて寝するところなんです。

 

 そう思ったのに、体はふわりと浮きあがり、そのままギュッと抱きしめられました。

 クロちゃんに…


『なんですか?』


「いや、生きていたのかと思って」


 あぁ、そういえば死んだと思っていたと言ってましたね。

 私の名前を、死んだはずの娘につけるはずだった名前にしたのは、奥さんも子供も失った悲しみから来るものだったのでしょうか。

 実際はどちらも生きてたわけですが…。


 抱きしめ返し、頭をポンポンと叩いてあげました。

 なんだか心がじ~んとします。



「親子の再会は終わったか?」


 誰ですか、感動に水を差すのは。

 

 クロちゃんの膝に降ろされ、声を出した人物を見れば、一人の赤ん坊を前に座った国王でした。




 まず、聞きたいことが山とあるというので、話ができる人を探すことになりました。


 初めは私とリアーナが答える気でいたのですが、国王は私達を見ると早々に話ができる人(古竜)を探してくれと言いましたよ。どういう意味だと思います? 私では話ができんということですかね?


 ぶちぶち言いながらも、辺りできゃわきゃわしている古竜達にアイノスを見なかったか聞いていきます。

 古竜界のインテリ(眼鏡で判断)、緑の古竜アイノスならわかりやすく話してくださるでしょうし、私の知っている古竜と言えばリアーナ、アイノスぐらいですからね。あとは名前知りません。古竜改もお世話?になってますが名前は知りませんから。


 しばらくすると、兵士の一人に抱きかかえられたぐったりするアイノスがやってきました。


 ぐったり?


「道端で気絶して埋まってました」


 兵士が報告してくれます。


『アイノスちゃん高所恐怖症だからぁ~』


 なるほど、とぐったりしている理由を理解しました。

 

 アイノスは兵士の腕から飛び降りると、メガネをクイと上げる仕草をします。…メガネ、なぜか無事です。ナゼ無事?


『私に聞きたいことがあるそうだね』


 そのエラそうな態度はあれですね、恥ずかしさを隠したい一心ですね。緑色なのに顔が赤く染まってますよ。



 さて、質問の内容は 


 赤ん坊達は何なのか


 なぜ滅びを司る竜が自分達を生かしたのか


 古竜と巨大竜の関係は


 大きく分けてそんなところです。闘技場であった出来事は、アイノスが来る前にあらかた説明終わっているので、核心を聞きたいというところですね。

 

 アイノスは、しばらく黙りこみ、くいっと眼鏡を押し上げ、ごくりと喉を鳴らす男達に一言…


『知らん』


 皆の、特に国王の口がカパーッと開いたまま元に戻りません。

 さすがにちょっとまずいと思ったのか、アイノスが付け加えます。


『はっきりとはわからないという意味だ。我等が粛清の民と呼ばれ、粛清の竜を蘇らせることができると知ったのもあの直前。そして、いまではその記憶が薄れつつある』


 なんと! 記憶が消えつつあるようです。


『そういえば、あの時はそうあるのを知ってたけど、今は何がそうあるのかよくわからないわねぇ』


 リアーナも首を傾げます。何がそう(・・)なのか私にもわかりません。巨大竜になれる事ということでいいですかね。

 アイノスが頷いて話を続けます。


『おぼろげな記憶だが、滅びと再生を選ばせたろう? あれは、粛清の竜がすでに本来の役目を失い、多くの力を失った不完全体だからだ』


「不完全? あれで?」


 黙って聞いていた竜王セルヴァレートが目を丸くしますが、私達はどんな竜だったかはしりません。気持ちいい海の中で声を聴いていただけですし。


粛清(・・)と人の言葉を使ってるが、本来のあの竜は本当に破壊しかしない。滅びの竜だ。生きてるもの全て、己を生み出した大地も含めて壊すよう命を刻まれた。大地自身によって。だが、その役目は一度終えている。世界も大地も一度滅んでいる。どういうことかまでは聞かないでくれ。漠然と感じたおぼろげな記憶だ』


 アイノスの言葉に、ふと脳裏に浮かぶ壊れた大地の姿。

 少し怖くなってクロちゃんにしがみ付きましたら、リアーナに『ずるい』と飛びつかれ、すったもんだした挙句、ウィルシスの元に戻りました。


『一度役目を終えているからこそ、選ばせる未来も面白いと感じたのだろう。全てに破壊を与えるのでなければ、滅びも再生も可能なだけの力があるらしい』


「途方もないな。では、この赤ん坊は再生を願った者か…」


 国王がぼそりと呟く。


『赤ん坊は滅びを願った者達だ』


 おや?と皆が不思議そうな表情になります。ここにいるこの赤ん坊は、おそらくダグラスです。大人だった彼が赤ん坊になるのなら、それは再生ではないのでしょうか?

 私がそれを口に出して言うと、アイノスは首を横に振ります。


再び生きる(・・・・・)ことを望んだのはここにいる者達で、滅びを望んだものは、すでにその生を終えた。赤ん坊は、再び生きるのではなく、新しく生きる(・・・・・・)命だ』


 ………目から鱗が落ちました。

注:文字通り目から鱗ではないですよっ ことわざです。

リーリア竜だからややこしい…

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