87話 眠りの中で
短いです
これは古竜の体に流れる記憶です。
古竜のアイノス、リアーナ、古竜改の皆さんと共に空へ舞いあがり、高所にて恐怖体験をさせてもらいましたが、私の周りにたくさんの古竜達が、それも魔穴にいた古竜以外の古竜も集まってくると、下が見えなくなりましたのでちょっと安心しました。
落ち着いてくると、なぜか母親のお腹の中にいるような暖かな何かに包まれ、とろりと瞼が落ちてきます。
はっ、イカンです、ここで寝たら私トマトになりますっ。
あ、でも、卵から落ちた時も結構な高さでしたので無事に済みますかね?
とろとろとろり
目を閉じてしまうと、もうそこは揺蕩う海の中。
海の中で見たのはとっても綺麗な世界。
緑の森と青い空と広がる草原、きらめく海、透き通る湖、聳える雄大な山々。
吹き抜ける風も、流れる水もどこまでも澄んでいて、まさに地上の楽園…。
の、はずなんですけど。
その世界には動物も人も竜も虫も、動くものがいません。
『つまらない』
地球のように破壊しまくって、「地平線なんて見たことないですよ、ビルなら山盛りです」な世界も嫌ですが。自然だらけで他がいない世界も面白くはありません。
『ここなら誰も傷つかない』
さて、誰が語りかけているのかはしりませんが、古竜歴1年未満、人間歴42年の私に反論する権利があるなら言わせてもらいましょう。
『娯楽がありません!』
『即物的な…』
『何もカジノが欲しいとは言っておりませんよ。にゃんこに触れたりわんこと戯れたり、もふもふわーるどが足らないと言っているのです。』
ここにあるのは植物だけ、それはそれで楽園かもしれませんが、虫もいないのでは植物すらやがて枯れ果てるのではないでしょうか。
『生態系にはお役目があると思います。』
虫嫌いですけど。ゴキは見たくありませんけど。
弱肉強食は大事ですね。
食って食われての世界を目の前で見たいとは思いませんが。
『人間の役目はなんだという? あれらは多くを壊し、おのが同族を殺す醜き者ぞ。』
人間のお役目ですか。それは考えたことなかったですね。なにしろ42年間生きていくことしか考えたことなかったですから。
まぁ、自然破壊はしまくってましたよね。戦争もよく起きてましたし。
自然もよく人間なんて生かしてるなぁと思ったことなら多々あります。たいてい自然破壊のドキュメントをせんべい齧りつつ見てた時ですね。
『いらぬか?』
『それは私の決めることじゃないですよ。』
『ナゼ?』
『人間だって自然に生かされてますから自然が生きてていーよって言う間は生きてていいと思うのです。』
自然無くして人間も動物も虫も生きられませんからね。
『ならば、人間にも役目があるのだろう?』
そんなの自然じゃないからワカリマセン。といったらなんだか「あぁん?」とすごまれそうな雰囲気です。相手の顔は見えてませんけどね?
私は無い知恵を絞りだしてとりあえず答えます。
『じゃあ、自然見守り隊』
壊す人もいますし、そちらの方がスピードが早いのですが、直す人もいます。少しずつ木を植えて、手を加えて、動物や植物が生きられるように。
『傲慢だな』
『やりたいことやってるだけで傲慢とは言わないです。自然を守りたい人はきちんと守ってますという心の問題です』
気分的に両手を腰に当ててふんっとふんぞり返ってやります。
声の人はかすかに笑ったようにも感じました。
『では、やはり人間は生きるべきか?』
私はにっこり微笑んで言ってやりますとも。
『そんなのどっちでもいいです』
決めるのは人それぞれですし、私、今は古竜ですしねっ(薄情)。
どや顔できっぱり言ってやりましたよ。
今度こそ声の人は大笑いしたのでした。
リーリア「生き死に決めるときは全員に聞いてからにしてください!」
ごもっとも…




