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86話 求める者

ダグラス・イル・ファーレン――――

 かつて栄えた魔道王国で、己の魔力に心酔し、奢り高ぶる愚かな魔道士達ばかりを見てきた。


『古竜? あぁ、あの魔力の欠片もない屑竜。それの子か』


『大した魔力のない子供が王族になど相応しくない』


『そこらの浮浪者よりも魔力が低いかもなぁ』


 古竜を愛したはずの父ですら家族を守らなかった。いや、そこに元々愛があったのかすら不明だ。

 

 次第にエスカレートする迫害の日々に、光明を見出したのは魔穴という名の心を封じ込める技の開発を聞いた時だ。

 公務を適当にこなし、研究者達と共に研究に明け暮れた。己の子供も妻もいたが、それすらどうでもよかった。

 どうせいてもいなくてもいい王族だ。研究に没頭しても何ら問題はなく、ある日初めて魔穴を生み出した時は研究者達と共に涙した。


 初めての実験は自分に仕える騎士だった。彼に向けて魔穴を放てば、彼の魔力が目に見えて安定し、母に対して迫害の言葉を浴びせることが減った。

 

 これなら迫害の心をも封じられる!


 騎士が日に日に穏やかな性格に変わり、家族に優しくなるにつれ、喜ぶ自分。しかし、母はそれに対し警告をしてきた。


『心を封じればやがてそれは個を失います。その力は禁忌。古竜の血を持つものが禁忌に触れてはいけません』


 なんの力もない古竜の血がなんだというのか。母の忠告などすべて無視して研究を進め、やがてその研究は王国の虐げられている者達に広まり、国は変わるはずだった。

 

 ダグラスは研究の結果を嬉々として父や諸侯に報告し、迫害のない、平等な国のあり方を望んだ。しかし、彼等はそれを一笑に付すと、王子であるダグラス、妻と子、幼い弟と妹、母を遠い離宮に監禁し、貧困、迫害、差別に苦しむ民を虐殺していったのだ。


 ダグラスは怒りに吠え、直ちに研究者と民を募り、反乱を起こした。


 自然の禁忌


 大量の贄


 求める声


 王族を殺し、自ら王となるために王太子を名乗り、母達を迎えに行ったその時、王国上空には黒い影が集い、それは集まって巨大な影を広げた。

 王国上空にはばたく巨大な影は、遠く離れたダグラスにも見えた。


 それは、粛清の民と呼ばれる世界創生時代の竜の欠片を持つ者達の真の姿。

 

 その役目は全ての浄化 


 あってはならぬものを滅ぼす力。

 ここであってならなかったのは自然の禁忌。

 心を封じるのは自然にあってはならないことだった。


 大量の贄が、求める声が、彼ら古竜の血を目覚めさせ、行き過ぎた人間達を滅ぼした。

 

 魔道王国ファーレンは、一夜と言わず一瞬で灰となった。

 世界が灰にならなかったのは、魔穴内で蓄積された生んだ心の集合体、『核』を、母をはじめとする古竜達が食っていたからだ。それさえあればあの影は理性を失い世界を滅ぼしたはずだと研究づけられた。


 ならば、食いきらぬほどに心を集めればいい。

 古竜を徹底管理し、魔穴に近づけないよう手配もしよう。

 幸い古竜がその『役目』を思い出すのはその時だけのようだ。

 ならば、その時が来るまで動かぬよう少しずつ魔穴を使えばいい。幸い自分には長い寿命がある。

 

 王国を覚えている古竜達は全て殺した。

 

 だが、あともう少しというところで、国でのことを覚えているはずのないリヴィの先導により古竜達が、それも、古竜をまとめる王の血筋を持つ古竜達が魔穴に飛び込み姿を消した。


『ダグラスお兄様はウィル兄様を羨んでいるだけです!』


 魔道王国の残された民が魔穴を使って国の再興を望んでいるとしったウィルシスは国を興した。国を与えられ、穏やかな暮らしを見せられた民の何人かは弟の思惑通り自分の元を離れた。

 

 だが、それは奴らが腑抜けているだけだっ! ウィルシスだからついていったわけではない! 

 私がウィルシスを羨む? 奴の何をだ?


 苛立つままに邪魔をした妹を手にかけ、そこに駆けつけたウィルシスによって深手を負った。


 しばらくは身をひそめねばならない。だが、必ず好機は到来する。

 

 宗教に目を付けたのは幸いだ。ここに集うのは私の思うとおりに動く手駒達。彼等は魔穴が迫害、差別などといったものから自分達を開放してくれると信じ、動き出した。

 今度は失敗しない。

 そう、まるで自分の背を押すように、王の血筋の古竜、それも王たり得る古竜が現れたのだから。


__________________


「は、はははははははは!」


 ダグラスは笑いながら空を見上げていた。

 空には舞う綿毛と、少しずつ増え続ける黒い羽虫の姿が見える。否、羽虫ではない。あれこそ大戦でリヴィの余計な知恵により逃した古竜の王の血筋の民だ。


 大戦の時は失敗したのだ。魔穴こそが正義と唱える魔道王国の者達が数を打ち過ぎたために、リヴの提案で古竜が魔穴内に留まるなどということになった。

 世界の浄化には彼等こそが要だというのに、だ。

 だが、今回はあのどこからか現れた古竜、それも黄金色の瞳を宿す王竜によって失った古竜の民が戻ってきた。魔穴の核と共に。


 舞台は整ったのだ。全ては成るべくして成った! 


 目の前で膝を折る騎士達、竜、弟…

 ふと弟を見て思い出す。懐かしい魔道王国。滅びた国。我ら兄弟を王族とは認め無かった忌々しき王国。

 だから滅んだのだ。そして、そこで初めて見たのだ、神のごとき始まりの竜。粛清の民の姿を。


「グ…」


 竜の姿で黒い粒を多く吸い込んだであろうグレンが人の姿に変わる。

 憎しみに彩られた瞳は昔の自分を見ているようだ。

 王を、側妃達を、その子供達全てを殺して王太子の座を手に入れたあの頃の自分を。


「憎かろう神竜。しかし、それも全て終わる。憎しみなどとは無縁の世界が生まれる。人を迫害せぬ、誰もが平等の世界だ。人種も国も性別も、あらゆるものを差別せぬ世界。我らが悲願はそこにある」


「綺麗ごとを抜かすな…。そのために自由を奪われたものはどうなるっ。失われた命は…? 命は…戻りはしない!」


 人の姿でありながら竜のごとき爪を持ち、その爪でもってダグラスの喉を掻き切った。

  

 元々ダグラスも降り注ぐ黒い粒に侵され、すでに動くことかなわぬ身だった。ゆえに、強靭な力を持つグレンの爪を受けるしかなかったが、倒れる寸前に見上げた空に、巨大な影を見て、満足そうに事切れた。



  

 


 


 

本当はいい人だったかもしれない

どこかで狂ってしまったダグラスのお話


リーリア「ぽっと出の大ボスが1ページとるとは何事ですか!」


うん、ぽっと出だねぇ… 

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