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85話 粛清の時

残酷描写(今回は一部ハードです)あります ご注意ください。

 全員横っ飛びで避けました。


 ですが、薔薇怪獣は地面にぶつかると、そのまま無数の黒い小さな綿毛のようになって空へと舞いあがります。

 それと同時に空を覆っていた魔穴が消え、空が元に戻りました。

 

 青空の下に、舞い上がるまっ黒綿毛。

 綿毛は消えるわけではなく、ふわりふわりと空を舞います。風に乗っているわけでもないようです。


「総隊長!」


 マリアの叫びに皆がその方向へ目を向ければ、ウィルシスが浮浪者男…ニルグという名の男の腕を切り落とし、最後の一振りを振り降ろすところでした。


 ざわり


 全身に怖気が走る。


「ウィ」


 呼ぼうとした瞬間、ウィルシスの横に魔穴が出現し、そこから伸びた杖が彼の剣を止めたように見えました。


 ごぅっ


 激しい風に煽られ、思わず飛んでいきそうになってリオン君にしがみ付くと、空に現れたのは雄大な赤い竜です。

 「グレン様?」と誰かが呟いたが、いつものグレンと雰囲気が違います。

 グレンはそのままウィルシスと魔穴のそばまで降下し、魔穴に向かって牙を剥いた。


「ウィルシス!」


 私が叫ぶと同時にウィルシスは飛び退き、魔穴の中から伸びていた杖と、腕を失ったニルグの体がグレンによって噛み砕かれた。

 ニルグの絶叫に私は耳を塞ぐ。


 ついでべしゃりと何かが落ちる音がして、がたがたと震えながら目をやれば、そこに落ちていたのは血みどろの人間であったろうモノ。あらゆる骨が砕かれ、体がおかしな方向へ折れ曲がり、元の形を保てていなかったのだ。


「見ちゃだめだよリーリア」


 リオン君がかすかに震える声で告げて私の目を掌で覆った。

 これが、本来の竜の姿なのだ。

 神竜と言えども、もともとは獰猛な、世界の頂点に立つ種族。一歩間違えば友人であるはずのウィルシスですら食われていた。

 今、彼の姿すら目に入らぬほどの怒りを宿したグレンは、野生の竜と化している。


「ウィルシス!」


 私はリオン君の腕から飛び降りると、信じられないといった表情のウィルシスの傍に駆け寄って服の袖をクイクイと引っ張った。


「大丈夫ですか?」


 見上げると、彼はいまだ驚きの中にいて目を瞬かせ、私を認識した後、片手で顔を覆って呻いた。


「なんで…」


 皆もグレンを気にかけつつバタバタと駆け寄ってくる。

 ウィルシスはぼそりと呟いた後、しばらくして顔を覆う手を離すと、怒気をあらわにした表情でぽっかり空いた魔穴を睨みつけた。


「なぜ貴様がここにいる! ダグラス!」


 唸る竜と、叫ぶウィルシスに睨まれつつ、魔穴の中から一人の老人が現れる。

 老人、と言っても背筋は伸び、体格もいい。60代の国王よりも年上には見えるけれど、痛めているらしい左足以外に年を感じられるものがない。その足ですら、引きずっているところを見ると、怪我が原因のようであるし…。


「誰?」


『ダグラス・イル・ファーレン。魔道王国ファーレンの王太子だな。大戦の首謀者だ』


 緑の牛柄古竜アイノスが、ぶいーんと耳元で羽音を鳴らせながら答えてくれました。

 大戦自体はよくわかりませんが、首謀者と言えば悪の親玉です。


「懐かしい顔だなウィルシス。弟よ」


 お爺さん自ら説明してくださいましたね。彼はウィルシスのお兄さんだそうです。

 魔穴の中から姿を完全に表すと、グレンの唸りが轟き、ウィルシスの怒りの気配がビシビシと伝わってきます。


「まだリヴィを殺したことを恨んでおるのか。仕方あるまい、あれは粛清の民を隠したのだ」


 ふっと笑うダグラスに、殺気が膨れ上がる。

 兄が妹を殺したのだと皆が理解したところで、レイファスが顔を上げる。


「粛清の民を隠す?」


 粛清の民というのは今回の敵ですね。リヴはその彼等を隠したということでしょうか。

 犯罪を犯させないために? 誰かを傷つけないために?


「ふん、その顔ではいまだ真実には辿り着いてはいまい。『粛清の民』それが魔道王国の民であるとでも思っておるのか?」

 

 レイファスにちらりと目をやったダグラスは、ついで私に目を向ける。


「多くの手駒には王国の末裔こそ粛清の民で、魔穴による粛清が行われると信じさせたがな。だが、大戦の時はそれで失敗した」


 つまり、世の粛清というのは、彼等王国の末裔とその信者によって行われるのではなく、別の何かによって行われるということなのだろうか。


「さぁ、粛清の時は今こそ来たれり」


 いや、まだ、何の謎も解けてませんよオジーちゃん。勝手に暴走しないでほしいのですが?


 ダグラスが両腕を上げると、それまで無秩序に飛んでいた黒い綿毛が渦を巻きながら空へ舞いあがる。それも、黒い粒のようなものを撒きながら。


「ぐっ!」


 突然背後で苦しげな声がして振り返れば、リオン君が胸を抑えて蹲る。


「リオン君!?」


「贄なら山ほどある。さぁ、我等の悲願をかなえよ」


 贄というのは今この黒い粒が舞い降りるセレイルの町全ての人々のことですか!

 大量無差別殺人です!


 慌てる私の前で、リオン君、ゼノ、マリア、ウィルシス、グレンまでもが地面に倒れ伏していく。

 な、なんで私は無事なのですか?


 おたおたする私の肩に、リアーナとアイノスがとまり、発光した。

 みるみる私の目線が低くなり、二人を支えられずにころりと地面に転がりました。


 慌てて体を起こせば、同じサイズの二人と、いつの間に来ていたのか古竜改の4頭。その顔にはひどく悲しげなものが浮かんでいます。


「あの…」


「来たれ粛清の民! 古の竜よ!」


 その言葉にぎょっとした私は、そのまま6頭の竜に連れられて空へと舞いあがった。


明日にしようと思ったけれど、ここまで入れちゃえってことで更新

シリアスです ちょっとシリアス続きます。たぶん?

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