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82話 彼等の決着 ※

残酷描写一部あり マリア視点です

「射よ 氷の矢!」


 辺り一面の空気が冷たくなるような冷気と共に、氷でできた鋭い切っ先を持つ塊が、男めがけて飛んでいく。

 男は避けることなく両手に剣を構えると、そのまま氷の矢を叩き折った。


「何年君の上にいると思っているんですか、マリア」


 緑竜隊副長マリアは、銀の髪が乱れるのも気に留めず、その両の碧眼で、飄々とした態度の男、元緑竜隊隊長イルクを睨んだ。

 イルクは、少し伸びた前髪をかきあげ、にこりとほほ笑むと、その両手に握る剣をマリアと、己の部下であった騎士達に向ける。


「邪魔ですねぇ。ただでさえ計画があの古竜のおかげで崩れたのです、これ以上の邪魔はさせませんよ」


 綺麗な顔立ちだが、この国の国民である茶色い髪と瞳のごく普通の青年だ。それが…マリアのように魔道王国の色合いを持つわけでもないこの国の国民が、国を守る立場でありながら国に牙を剥いた。

 

 今だから言えるが、マリアは元々孤児である。ゆえに、幼い頃は口さがない大人たちによって魔道王国の末裔だからと罵詈雑言を受けるのは日常茶飯事、その様子を見た子供達まで真似するようになり、果ては悪人の娘だと言われて襲われたこともある。

 

 国王に魔力を見いだされなければ今頃は死んでいたかもしれない。

 遥か過去の先祖だろう者達の罪を着せられ、生き続けなければならなかったかもしれなかった。そんな自分ならば魔穴の存在を知り、それを操ろうと思ったかもしれない。

 

 だが、目の前にいるのはこの国の国民と呼ばれて誇れる容姿を持つ青年だ。その青年が粛清の民と名乗り、同じ姿の国民達に手をかけた。そして、マリアを受け入れてくれた仲間達まで手にかけた。

 

 王の剣としても、一人の人間としても許せない。


 マリアは腰の細剣を引き抜くと、自分を支えてくれていた騎士に礼を言い、イルクに剣を向ける。


 悲鳴と轟音鳴り響く闘技場から一歩入った闘技場の外廊に、今いるのは彼等だけ。時折闘技場の方から魔獣の姿が見えるが、それらは青竜隊がここへ近づけさせなかった。


「イルク・ノーウェン。ここで終わらせます」


「できるわけないでしょう、あなたごときに」


 マリアは一歩踏み出すと、いまだ癒えきらぬ体で軽やかに舞う。

 マリアの持ち味は速さと軽さ。

 「剣を打ち合うのではなく、常に流しながら相手を翻弄し、隙をついて仕留めよ」とは、いつだったか手合せしてくれた黒竜隊隊長ヴァンの言葉だ。

 

 天使のような容姿でにこやかにほほ笑み、慎ましく隊長より前に出ることのないマリアだが、その心根は誰より男らしい。負けず嫌い、勝負好き、危険も賭けもそれなりに好き。だが、表には出さない。

 目立たずひっそり、しかし必要な時には隊長並みに動けるように、そのために緑竜隊の訓練とは別に時々黒竜隊に隠密の技を習っていた。

 だから、手負いと言われようとも負ける気はない。


 敵に譲るな、隙を見せた時こそ敵の喉を食いちぎれ。


 マリアはヴァンの言葉を思い出しつつイルクの素早い剣を躱す。

 速さに長けるマリアだからこそイルク相手に長くもつ。

 イルクは強い。舞う様に躱すマリアと違い、人が自然と踏んでしまう体のリズムを狂わせる剣の振り方をして翻弄してくる。一瞬でも気を抜けば命取りだ。


 まるでダンスでも踊っているかのような二人の剣舞を見ながら、緑竜隊の騎士達の手にジワリと汗が浮かぶ。

 

 一瞬、ほんの一瞬が二人の明暗を分ける。


 長引けばマリアに分が悪いのは見えていた。だが、チャンスはすぐにやってきた。


 どぉぉぉん!


 何かが落ちるような音と共に地面が揺れ、はっとした二人が剣を振る。

 

 先に届いたのは…


 ギィィン!


 鈍い音と共にマリアの手から剣が離れた。


「マリア様!」


 剣を拾いに行く暇などイルクは与えない。一方の剣でマリアの剣をはじいた後、その軌跡を追ってもう一方の剣がマリアの首を狙った。


 グシュッ!


 肉を裂く鈍い音が響き、マリアの瞳は驚愕に見開かれる。





「てめーみたいな屑にうちの天使様をやらせるかよ」





「「「ジェフ!」」」


 緑竜隊の騎士達の声が重なる。


「きさ…ま」


 胸を背後から貫かれ、ごぼりと血を吐いたイルクは、先日崖から落ちたはずの男の顔を睨んだ後、床に倒れ事切れた。


「ジェフ?、ジェフッ、よく無事でっ!」


 マリアはぼろぼろと涙をこぼして、緑竜隊の隊員の一人、マリアと共に調査隊に加わり、初めに崖から落とされた男を見つめた。

 ジェフは体中傷だらけ、服も手足も顔も泥だらけ、満身創痍でふらふらとよろめいている。

 それでも、驚く緑竜隊の仲間にニカッと笑みを浮かべて言った。


「崖から落ちても這い上がれ、てのがうちの騎士団でしょ。俺役に立ちました?」


 マリアがジェフに飛びつき、緑竜隊の騎士達が彼を囲む。


 茶髪に茶色の瞳、マリアが羨むセルニア人特有の色を持つちょっととぼけたような顔立ちのこの男が、この数年後に緑竜隊元副隊長、天使と呼ばれるマリアを娶り、その翌年に緑竜隊隊長に就任するのはまだもう少し先の話である。

マリアの憎しみの剣は届かず ジェフの守りの剣は届きました


崖から落ちて死ぬだけのはずだったジェフがなぜこんな大活躍!? 

誰?と思われた方は65話『胎動』を覗いてください 

隊員としか紹介されてないジェフは一瞬で崖から落ちてますから

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