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79話 大混乱の幕開けです

 アイノスさんが言うには、大戦が始まる頃、人々を纏める為に国が興ったという。そこに魔道王国の血の入った若者を立てることによって、たくさんいる魔道王国の末裔達を抑え、魔穴の出現数を減らし、共に戦うことによって彼等を一つの国の人間であると認識させたのだ。

 だから、今のセルニアには末裔も実は多くいるようである。

 

 そんな風に国に組み込まれていっても、やはりどこかで不満を持つ者達は現れる。それがイルク達なのだろう。


 という歴史は横に置いておいて、と私は両手で何かを横に置く仕草をする。


「ウィルシスが王様、もしくは王様だったというのはありえません」


 騎士の皆さんを脅す、セクハラをする、などとても一国の王様がしていいこととは思え…

 今の王様も似たようなことしてましたーっ


「あれ? 今の王様って誰の子供ですか?」


「知らん」


 アイノスは大戦以降のことはわからないのだそうです。当然ですね、この穴の中にいたのですから。

 ですが、もし…もしもですよ? 今の王様達王族がウィルシスの…


 ウィルシスって奥さんいるんじゃないですかっ!?


 腹が立ってきました。なぜか腹が立ちます。人を好きだと言っておきながら奥さんとの間に可愛い子供がいるではないですかっ(誤解)。王様が孫かひ孫か知りませんが、ここは生涯愛を貫くべきでしょうっっ。


「よしっ、あれを持って帰りましょう!」


 びしぃっと指差した先には薔薇怪獣。それは、私が指をさしたことに気が付いたのか、こちらへくるりと向きを変えて襲いかかって来ました。


「ギュアアアアア!」


 悲鳴を上げつつ私は桜の天辺が突出しているところまで逃げます。

 古竜達が一丸となって、悲鳴を上げつつもそれぞれ薔薇怪獣をひきつけ翻弄させます。しかし、薔薇怪獣は人の心の集まり、この空間では大きくなっても、小さくなることも、疲れることもないのです。


「外と繋がっているのはどこだっ」


 アイノスが隣を走りながら話しかけてきました。

 私は自分の先を指さし、アイノスは私を追い越します。

 え? 男女の違いですか? アイノス速くないですか?


 先を見れば桜の天辺のところに古竜達が集まり、手をつないで輪を作りました。

 

 古竜にできるのは人の魔力を見えるようにするということだけです。魔法は一切使えません。では、あれは何をしているのでしょうか?

 ぽてぽて走っていると、彼らはそのままその場所をクルクルと回り、歌い始めました。


「古竜の白パン穴あきパン」

「向こうが見えちゃう穴あきパン」

「パ~ンじゃないよ、パンツだよ~」

「尻尾も通せる穴あきパン~」


 ずざぁ~っと顔面からこけました。

 お、お遊戯が始まってしまいましたよ?


 

________________


 その頃、空を覆う魔穴の中で間抜けな光景がくり広げられているとは知らない地上の面々は、ピタリと止まった魔穴を見上げ、辺りをきょろきょろと見まわした。

 

 魔穴は明らかに国を飲み込もうとしていた。その証拠に空からゆっくりと降りてきて、慌てて降下した竜も一部を飲み込まれたのだ。だが、それはなぜか、闘技場の舞台の上の樹の一部を飲み込むと、ピタリと動きを止めたのである。


「助かった…?」


 美女冒険者レイナが空を見上げながらぽつりとつぶやけば、しんと静まり返っていたその場に、再び剣の音が響いた。


 ギィィンン!


 その音を皮切りに、戦場は息を吹き返し、魔獣も人も暴れだす。


「レイナ、代わろう」


 レイナの肩を叩き、声をかけてきたのは赤竜隊隊長レイファスである。彼はつい先ほどまで緑竜隊の隊長イルクと戦っていたはずだが、すでにイルクの姿はない。


「緑竜隊のイルクは?」


「逃げた。だが問題ない。逃げる方向に彼女がいたからな」


「彼女?」


「マリアだ」


 緑竜隊副隊長のマリアと騎士達は仲間を殺され、国を危機に落とされて黙っていられるはずもなく、手負いであるとはいえ、必ず一矢報いるはずだ。

 騎士というのは相も変わらず誇り高い生き物のようである。


「じゃああたしは総隊長様の手伝いをしてこようかね」


「奴は強いぞ?」


 レイファスはアルノルドに癒しの魔法をかけながらレイナを見上げる。その眼にはほんの少しレイナを案じるものが浮かんでいた。


「相変わらず隊長は心配性だねぇ。女は非力でも狡賢さはぴか一なんだよ。任せておきな」


 レイナは言うと駆け出し、その背に背負った大剣を引き抜いた。


 

 レイナの駆けた先にいるのは闘技大会の優勝者、いや、失格者というべきだろう。名前はニルグだ。

 魔道士風のローブに身を包んでおきながら、魔法よりも剣が強いという男だ。一度ぶつかっているのでその強さは身に染みているが、一度ぶつかっているからこそ次は負けたくないという気持ちが強い。レイナは根っからの冒険者だ。


 そして、ニルグと相対しているのは、いつものキレがない腑抜けた騎士団総隊長。


 鬼神だなんだと言われるわりに情けないじゃないか。


 レイナは口元に笑みを浮かべると、ニルグの横っ面に思い切り剣を振り抜いた。


 ブォンッ


 大剣が風をまとって唸りを上げ、ニルグとウィルシスがともに飛び退る。


「総隊長さん、随分腑抜けた剣を使うじゃないか。何してんだい?」


 ウィルシスは苦々しげに顔をゆがめた後、敵であるニルグを睨み、そしてその先の上空、空に広がる魔穴を見上げる。

 レイナも大方の出来事はアルノルドの治療をしながら見てきたのでわかる。おそらくあの中に小さな古竜がいる。


「おちびちゃんなら大丈夫さ」


「わかってる」


「じゃあ腑抜けてる場合じゃないだろうよ」


「わかってる!」


 ウィルシスは剣を構え直す。


 小さな古竜が魔穴の中に入った後、魔王も動いていた。だからきっとおちびちゃんは大丈夫だ。根拠はないが、勘は当たる。

 レイナは笑みを浮かべてニルグに向かい、剣を向けると、「あ」という形で口を開けた。


 視線はニルグの後ろを見つめ、ニルグがちらりと背後を確認、次いでウィルシスも異変を感じてニルグの背後、その上空に目をやり、ぎょっと目を見開いた。



「ブルピャアアアアアアアア~!」


 なぜか、巨大な薔薇の蔓に捕えられた白い古竜が、叫び声をあげながら落ちてくる。


「薔薇?」


 誰かが疑問を口にすると同時に巨大なバラはずしんと音を立てて地面に落ち、その後に続いて黒い羽虫が大量に魔穴から飛び出した。

 

 白い古竜はそのままうねる薔薇の蔓に振り回されて悲鳴を上げ、薔薇は一瞬辺りを確認したように止まった後、その蔓を四方八方に振り回して暴れだす!



 大混乱の幕開けである――――

   


 


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