70話 模擬戦開始します
男性のスーツ姿って二割増しにかっこよく見えますよね。この世界だとちょっとコスプレですが騎士の正装万歳ですっ。
ひとしきり悶えた後、私は騎士達の集まる部屋へウィルシスと共に向かい、そこで今朝の魔穴のことを話しました。
一往ここに来るまでに話す内容を整理して、大事だと思われる情報を何とかかき集めての報告です。
「魔穴を食う…」
やはり騎士の方々も唖然としております。想像がつきませんからね。
「次に魔穴が出たら齧ってみます」
味については苦いと言っていましたが、さすがに毒消し草ワカメほどではないと思います。
私の決意に皆さんが「大丈夫か?」という視線を向けてきますが、ここはどーんとまかせていただきましょう。わたくし食べるしかやれることがない古竜ですので!
ちょっと開き直りました。
「魔穴をゴミで塞ぐというのはやってみる価値はあります」
アルノルド、何気に私から目を逸らして話を変えましたよ? どういうことですか?
どや顔で胸を張って皆を見ていた私から、全員が目を逸らしてゴミで塞ぐ方法についての論議を始めました。古竜は穴の中でも頑張っている種族なのに扱いがひどいですっっ・・ううぅ。
ピキャピキャ泣き真似していたら黒竜隊長ヴァンに抱き上げられました。もちろん彼も騎士団の正装ですので二割増し。存分に甘えさせていただきます。
「ところで、リヴ様と言えば総隊長の妹さんですよね。ですが、大戦時にはすでに古竜はいなかったのでは? グレン様もリーリアを初めて見たはずですし」
黒竜隊ケイン君の指摘に騎士達がしばし黙考します。
そういわれるとそうですね。ですが確か竜のお爺ちゃんオルの話では大戦の裏で古竜達の働きがあって過労で消えたと…。いや、私が思うに過労でなくて食いすぎで亡くなったのでは?と…いかんいかん、話がそれました。
「隠れて生きていたと竜の長老が言っていたからな、どこかに存在していたのだろう。それをあのお転婆リヴは知っていたのかもしれないな」
ウィルシスが少し懐かしそうに答えました。
リヴという方ははウィルシスの妹さんでもあったようです。穏やかな表情が仲の良さを示してますね。
それにしても、彼女だけが古竜と接触していた。ということは、ひょっとしたら今も知られていないだけで何処かに古竜は生きているかもしれません。
日本でも絶滅種のナントカは生きていたっとかそういうニュースたまにありましたからね。
まぁ、すでに魔穴の中で生きているようなので絶滅種から絶滅危惧種ぐらいに格上げというところでしょうか。
「もう一人名前が出てたな。情報の提供者」
ヴァンが私の頭をなでなでしながら告げるので、私は手をピッと上げてこたえます。
「リアーナさんです」
「それって魔王の恋人の?」
何気なくウィルシスが答えたことに私は驚きのあまり口をかぱーっと開けて彼を見つめました。
なんてことでしょう。そうです、そういえばクロちゃんの恋人はピンクの古竜のリアーナさんではなかったですか!
ピンクのところしか覚えてなかった私は記憶力のなさにがっかりしてしまいました。元々人の名前って覚えにくい体質(?)でしたけど。
「連れ出せないでしょうかっ」
皆を見回して尋ねれば、騎士達は一様に考え込み、答えが出る様子はありません。
「魔穴に対する認識を変えた方がいいかもしれない。中に入れるならば外にも出られるだろう」
グレンの低い声が締めくくると、計った様に兵士が一人部屋へ現れ、闘技場への移動を促されました。
今はとにかくお祭りに専念しましょう。
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闘技場はものすごい熱気でした。
私はリオン君と青竜隊非番の皆さんと観客席にて応援です。
応援と言えば頭に鉢巻、手には扇子(いつの時代?)、学ランがあれば最高ですが、それは無理だったので、鉢巻をメイドさんに作ってもらい、扇子…は作り方がわからないのでハリセンを二つほど用意しました。
もちろん私のサイズですのでミニです。
騎士団の模擬戦から開始です。
「そういえば、緑竜隊のマリアさんはどうしたのですか?」
先ほどまで集まっていた部屋でも見かけなかったですし、今も舞台そでに姿はありません。
マリアは銀髪の美少女なのでそれなりに目立つはずなのですが…。
「それが、魔穴の調査の続行を隊長のイルクさんに告げてから連絡がないらしいんだ。昨日緑竜隊の仲間が探しに行ったはずだけど」
何か起きたのでしょうか。ひょっとして私と同じで魔穴で会話とかしてたり?
「あ、隊長だ」
リオン君の声に心配はどこへやら、応援モードに入ります。
ここは3・3・7拍子ですかね。これでも小学生時代に運動会の応援団だったのです。やり方は忘れましたが…。
ゲフンゲフン。と、とにかくですね甲子園のテレビなどを思い起こしつつ、ハリセンをフリフリしながら応援します。
☆ ☆
その頃舞台袖では
「なぁ、あれ何の踊りだ?」
ゼノが観客席を指さしアルノルドに尋ねます。その方向には青竜隊の面々と、奇妙な踊りを踊る白い古竜。
アルノルドは首を傾げました。
「アルノルドさん頑張って~っ」
リーリアの声が聞こえてくるので応援しているのだと皆感じてはいるが、その奇妙すぎる見たことのない踊りに首を傾げてしまう。
「あれはおそらく古竜式の勝利せよという呪いの儀式だろう」
アルノルドの肩を背後からポンと叩き、同情の目を向けるのは黒竜隊の隊長ヴァンだ。
「呪い…ですか」
思わず聞き返してしまうと、再びリーリアから声が届く
「ヴァンさんも頑張ってーっ」
ゼノとアルノルドの冷ややか~な視線がヴァンに向くと、彼はふっと笑みを浮かべて告げた。
「俺も呪われたな」
と。
「…あの人、冗談言うんだな」
「え?、あれ本気で言ってるんじゃねぇの?」
青竜隊の二人は共に首を傾げたのだった。




