69話 穴が消えました
グレンに奥さんがいました…。もしかしたら子供もいたりするでしょうか、そうすると赤毛の可愛い赤ちゃんが…。
ハッ、まさか赤竜隊のレイファスが!?
マイママに浮気発覚のような気分です。いや、奥さんいていいんですよ、美形ですし、竜ですし、給料いいですし。(ここ重要)
『ねぇ? 聞いてる?』
あ、意識が飛んでおりました。穴の中から声が聞こえます。手をぎゅっと強く握られました。
「なんでしょう、聞いてませんでした」
『もうっ。そこにいるのがリヴちゃんの旦那さんならリヴちゃんはいるの?』
怒られまして、沈むグレンを振り返り、おずおずと尋ねれば、彼は深く息を吐き出した後、唸るように告げました。
「リヴは死んだ」
地雷踏みましたー! 誰かこの気まずい雰囲気どうにかしてください!
私はとりあえず穴の中にその事実を伝えると、ポンポンと手の甲を誰かが叩きます。少し大きめの竜の手なので、握っている人ではないでしょう。
『あぁ、大変っ。もうもたないわっ。いい?よく聞いて。もしも誰かが大きな魔穴を開けたら、ゴミでもなんでもいいから詰めて穴を塞いで』
魔穴ってゴミ詰めて塞がるモノなのですか…。
『リヴちゃんなら歌を知ってるんだけど、もう時間がないからいつも通りこちらから歌ってみる。おかしくなった人達には歌が効くからねっ』
早口で彼女は言うと、ようやく私の手を放してくれました。
私は手を引きつつ穴の中へと声をかけます。
「お名前聞き忘れました。私はリーリアです」
『私はリアーナよっ、またねリーリアちゃんっ』
穴から手を引くと、抜き終わった瞬間にパキンッと音を立てて魔穴がガラスのように砕け、そのまま空気に溶けていきました。
私は痺れかけていた手をぐっぱぐっぱと開いたり閉じたりしてしばらく動かしたあと、軽く手を振って調子を戻しました。
さて、どうしましょうか。後ろの気配がとても怖いのです。触れてはいけないオーラが漂っております。ですが、このまま固まっていても時間は過ぎませんし、今日はグレンも忙しいはずです。まだお祭りは終わっておりません。
「グレンさん。着替えて皆さんのところへ行きましょう。今日は騎士団長達の模擬戦がありますよ」
意を決して振り返り、ぽてぽてとグレンに近づいて彼の膝によじ登りました。
見上げると、随分と青い顔のグレンが泣きそうな表情でくしゃりとほほ笑みました。
大丈夫です。私がいますからね? ちゃんと娘としてお慰めしてあげますよ。グレンはママですのでここは面倒臭いとは言いません。
腕を伸ばし、翼をパタつかせて浮き上がると、きゅっとグレンの首にしがみ付きました。
グレンは何かを堪えるように息を吸い込んだ後、私をぎゅっと強く抱きしめ…
バタン!
「まだ寝てるのグレン!」
あうぅ、いつものようにウィルシスが入ってきました。ですが、私もグレンも動かないでいるのを見た瞬間、つかつかと歩み寄ってばりっと音がしそうな勢いで私とグレンを引きはがします。
「僕の前で抱き合おうなんて。? グレン、どうかしたか?」
何やら苦情を言うつもりだったようですが、グレンの様子に気が付いたのでしょうウィルシスは私を抱っこしたままグレンを覗き込み、その表情を見て目を細めます。
「リーリアに話したのか?」
ウィルシスの話し方が少し乱暴です。いつものような話し方ではありません。もちろん表情もどちらかと言えば冷たく、その瞳の真紅の色が深まってみえます。
グレンは深く深く息を吐き出すと、首を横に振って顔をあげました。
「リヴを知っている古竜らしきものに会って、その名を聞いただけだ」
「古竜らしきもの?」
「姿は見ていない。魔穴の中にいた」
グレンは立ち上がってメイドさんを呼ぶ鈴を鳴らし、すぐにメイドさん達が部屋に入ってきて着替えを手伝い始める。
今日はウィルシス達が王様のそばを離れるため、代わりにグレンが王様のそばに立つことになっているのです。
立場的にはグレンは王様と同等かそれ以上に当たるので護衛をするのはお門違いですが、グレンはそういうことを気にしない性格のようですね。
「リア、何を話したの?」
お、こちらに話が来ました。
改めてウィルシスを見た私は、ウィルシスを見ておや?と首を傾げます。
ウィルシスの腕から降り、ベッドの上に立って振り返ったところで心を打ち抜かれました!
「リア?」
怪訝そうにこちらを見つめるウィルシス。その彼の身を包むものは、初めて見る騎士団の制服です!
そう、私の心が打ち抜かれた理由はこれですよ!
「制服萌え万歳!」
ぷぴっと鼻血が飛び出しました…。




