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67話 穴から?

 世の中人に知られたくないことってあると思います。

 だからというか、まぁ、ほんとのところを言えば少し気になるけれど、知らなくてもどっちでもいいやと思うのです。

 だって、知ってしまって面倒事に巻き込まれたり、相談事持ち込まれたり、もともとあらゆることが面倒だった元・鈴木保奈としましては、いつだってこれから自分が生きていけるかが問題であって、人には構っていられないのです。

 

 正社員だったら心に余裕が持てるかなぁとか、結婚してたら人を思いやる余裕があるかなぁとか、自分の元々の薄情さを棚にあげて考えたことがありますが、保護されて生きているこの世界でもあまり他人を気にしていないようなのでやはり薄情な面倒くさがりなのでしょうね。


 ウィルシスが魔道王国の末裔かどうか、そんなことをふと思い出して目覚めたお祭り3日目の朝。眠るグレンを叩き起こして聞くかどうかで迷い、悩んだ結果、まぁいいやで終わりました。

 物語の主人公なら話がここで詰まりますね。うん。物語クラッシャーとお呼びください。


 さて、ひとしきりどうでもいいことを考えて今日の予定を思い出します。

 確か本日は騎士団の上官達による模擬戦と、闘技大会個人戦の決勝でしたね。

 

 昨日の準決勝で赤竜隊隊長レイファスの言うとおり例の魔道士風浮浪者が勝ち残りました。もう一人はさわやかな好青年剣士でしたが、浮浪者の方がインパクトが強くてあまり顔を覚えてなかったりします。


「グレンさん、グレンさん、朝ですよ~」


『青いお空で捕まえて~』


 ん?


 おかしいですね、グレンの寝室には私とグレンしかいないはずなのに、声というか、歌らしきものが聞こえました。

 もうメイドさん達が部屋の前まで来ているのでしょうか? 

 いや、でも、メイドさん達が歌いながら部屋にやってくるなんて恥ずかしいことするはずがないですから、どこから?


『お腹いっぱい食べましょう~』


 一体何の歌なのかも気になる歌詞ですね。


『お空のく~もは食べ放題~』


 きょろきょろと周りを見回すと、私の視線はとある一点で止まりました。


 部屋の中に小さな黒い穴があります。

 風が吹いていたりとかはしませんが、あれって…魔穴じゃないですか?


 歌はどうやらそこから響いてくるようで、恐る恐る近づき、耳を傾けます。


『むしゃむしゃむしゃむしゃ食べすぎで~す』


 歌は楽しそうな食べすぎの歌? もしくは食いしん坊の歌と言ったところでしょうか。ついでに少し奥の方でガスゴスガスゴス奇妙な音がしていてかなり怖いです。


 私はべしべしグレンの顔を叩き、グレンは顰め面を浮かべてゆっくりと目を開けました。




「今日は何が起きた?」


 毎日朝にはイベントがあると思っているのでしょうかこの人は…。とはいえ、本日は大イベントですが。


「魔穴が開きました。部屋に」


「何の冗談…」


 寝ぼけ眼をこすりながら体を起こしたグレンは、私の指さす先、部屋の中に出現した小さな穴を見てあんぐりと口を開けます。

 驚きすぎたのでしょう、30秒は固まっていたと思いますよ。


「変な歌が聞こえるんです」


 たっぷり待ってから例の歌について言うと、グレンは私と同じように静かに耳を傾けます。


『今日のご飯は真っ黒け~』

『硬くて苦くて食べほうだ~い』

『バリバリガリガリ食べすぎで~』

『体もお顔も真っ黒け~』


 それはどうなんだと突っ込みを入れたい歌です。そして歌の向こう側ではやはりガスガスゴスゴス不気味な音がするのです。

 グレンは立ち上がると魔穴に近づき、私も怖々彼の足元に纏わりつきながら近づきました。

 

 魔穴というのは人を狂わせると聞きましたが、そのような気配は全くありません。この魔穴はどちらかと言えば青竜隊が話していたホラーな魔穴に近いかもしれませんね。

 ほら、あの悲鳴が聞こえたとか、手が出てきたとかいう。

 それを思い出して私はグレンのズボンを片手でつかみながら試しに魔穴に手を伸ばします。


「……。グレンさん、も少し近づいてください、手が届きません」


 伸ばした手は魔穴に届きませんでした。

 短すぎです!


 ちょっと足を前に出してもらい、魔穴に手を差し出し、その穴の中へと突っ込んでみました。

 小さな白い竜の手は、何の抵抗もなく魔穴の中へと入ります。

 思わず通り抜けてるのではと魔穴の後ろを確認してもらいましたが、通り抜けたわけではなく、ちゃんと魔穴の中に入ったようです。


「何か掴めるか?」


 にぎにぎにぎにぎ

 何かあるかと魔穴の中でつかめるものを探してぐっぱぐっぱと手を握ったり開いたり、ですがあるのはただの空間のようです。


「何もないようですよ」


 ニギニギニギニギ…がしっ


「………」


「どうした?」


 言葉を失い口をハクハク動かし、だらだらと冷や汗を流します。それと同時にグレンのズボンを握っていた手でバシバシとグレンの脚を叩きます。

 

 緊急事態です!


「リーリア?」


 手が、手が!


『だぁれ?』


 穴の中から声が響きました。

 歌ではなく確実にこちらに向かって声をかけております。


 パニックになった私はグレンの脚を連打で叩き、魔穴側の腕を必死に振り回して泣き叫びました。



「キュルピヤァァァァァ~!(誰かがつかんでますよ~!)」



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