61話 大人です?
花咲か爺さんならぬ花咲か竜さんになりました。
あの後何度か人型化のトレーニングをしてみたのですが、最初のイメージが定着してしまったようで、グレンの頭にも部屋にも花が咲き乱れました。
「魔力の流れがおかしなことになってるんだろうな」
グレンはすっかり笑いを収め、頭に生えたチューリップを抜き取って、疲れたようにそれを手の中から消し去ってました。
グレンが言うには魔力のあるところに花が生えるのだそうです。
ここに魔力がありますよーという印のようなものを置いているような状態ですね。これも魔法として使っているのではないらしいので、基本は人化と同じなのだそうです。
ちなみに部屋に花があふれたのは、グレンの魔力が漏れ出ているからだそうで、この世界の人間は多かれ少なかれ魔力を持つので、大勢の人が集まる場所でならそれこそ多くの花が咲くだろうということでした。
役に立たん能力ですね…。
「まぁ、とりあえず成人おめでとう」
「成人してるんでしょうか?」
「それはすぐにわかるだろう」
あぁそうですね。こういう時は彼が来ますね。
たぶん、というか予想通りその人は勢いよく扉を開き、花畑の中の私達へと寄ってきました。
「おはようリア。なんで頭に花咲いてるの?」
やめてください。まるで私が痛い人のような言い方ではないですか。
いや、実際痛い人となっておりますが…。
私は頭の上の花をキュポンッと抜くと、ウィルシスにもお花魔法をお見舞いしてやりました。
「ぶふっ」
ウィルシスの頭に咲いたのは真っ赤なバラ。情熱的ですね。
笑い転げているグレンはウィルシスに睨まれました。
「なにこれ?」
「リーリアの魔力操作がそんなことになった。人の漏れ出ている魔力を具現化するようだな。人型になろうとしたらしいが」
「なるほど。ん~?」
ウィルシスは首を傾げると私に触れ、私はシーツの中で人型へと変化した。
「おぉっ。成人っ…?」
とてとてと姿見の前に立ち確認してみました。が、がが~んとショックを受けて口をぱっくり開けます。
この世界の成人と言えば身長170はあるスレンダーでボンキュッボンな美女ばかり、しかし、目の前にいるのは鈴木保奈時代の馴染んだ視線の高さ。つまり、155程度の日本人身長の一般体型。細すぎず太過ぎず。まぁ、アイドルみたいに可愛いですけどね、保奈時代より足も腰も細いですけどね…。
モデルになれるかと思っていたのに…。
「うん、可愛い」
ウィルシスは背後から抱きつくと、艶のある表情で私の頬を撫で、顔を近づけます。
「ぶっ」
スミマセン、なかなかに艶のある展開だったのですが、彼の頭の上に咲くバラを見てしまっては笑いしか浮かびませんでした。
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ひとしきり人型も堪能した後、竜に戻してもらって(この方が楽ですから)、城の前庭広場へと向かいます。
広場を見下ろせるバルコニーから、国王の開崔宣言があるからです。
バルコニーへ行ってもよかったのですが、町に繰り出したいので広場の方に降りました。
広場はすでに町の人々で埋め尽くされ、空を飛龍が飛びます。
飛行ショーが終わると同時に国王による短いスピーチの後、お祭りの開催宣言がされ、花火が上がりました。
「昼から予選と子供大会だったっけ」
「そうなのです。私も参加します」
主催側として、ちゃんとイベントに参加することにしています。お祭りは3日間、初日は大人達の予選と子供達によるペイントボール生き残り大会があります。
子供の大会は、各自魔法ペイントの入ったペイントボールを3つ持ち、会場内で相手に当てて生き残るゲームです。商品は小麦2か月分とお菓子ですので親達も応援に力が入ります。
町では大人も参加できるスタンプラリーを開催中。スタートから3時間内に町に隠れたスタンプ場所を見つけ、全部で15個のスタンプを押すという単純なゲームですが、見つかりにくい場所も多く用意してます。宝探し感覚で参加してもらいます。これは3日間ともやります。スタンプの場所は変わりますけどね。
私はウィルシスに抱っこされながら屋台を見て回ります。ついでに朝ごはんもここで済ませました。朝食はホットドックです。
「そういえば私、今日から大人になりましたが子供大会出てもいいですかね?」
ウィルシスが「ぶふぅっ」とジュースを噴きました。
「今日から大人になったって、誤解されるようなことを…」
何の誤解でしょう?。私が首を傾げると、ウィルシスがチュッと音を立てて頬にキスしました。
ジュースがほっぺに付きましたよ…。
「ウィルシスはキス魔ですね」
「そうでもないよ。リアにだけ」
甘い言葉には騙されませんよ。大人になりましたからね。まぁ。見た目は20前後くらいでしたが、この世界では20歳なら十分大人でしょう。
ちゃあんと大人の応対をして見せますよ。
「君だけなんて言うやつは大抵他に女を作ってるそうですよ?」
知人の受け売りです。まぁ、大抵は旦那さんをネタに冗談で言ってたことですが、中にはホントも混ざっていたかもしれませんねぇ。
「リアはそれでいいの?」
「そう来ましたか…。う~ん、そうですねぇ、やっぱり、一途が好きですよ。ウィルシスは一途ですか?」
大人の女ぶってふふんと微笑みながら答えてみます。
ウィルシスは少し考えた後、真面目な表情で静かに、私だけに聞こえるように告げました。
「リアが好きだよ」
「う、お、あ、うぅぅ」
スミマセン直球過ぎて照れました。
「リア?」
お許しくださいお代官様、無理です。恋愛経験のない女にこの直球は無理です。
私はウィルシスの服に顔をうずめると、そのままゆでだこのように全身真っ赤になりました。
大人の応対って難しいと思う中身42歳でした…。




