60話 花咲いた
黒竜隊の大活躍により過激な反竜派である伯爵、子爵、男爵、それから数人の商人があの夜の内に捕えられました。ついでになぜか伯爵家は一晩で崩壊したそうです。
没落したのではなく、文字通り崩壊。
一体何やったんでしょう、あの黒竜隊の隊長…。
そんな騒ぎがひと段落して数日後、ようやく迎えた闘技大会当日です!
この世界の人々は朝が早いので、早いうちから各隊の飛竜による飛行ショーが行われました。
続いて行われたゼファーのようなバハムートクラスの竜の飛行は圧巻です。各隊に一頭ずついる巨大な竜が4頭、つかず離れず宙返りをしたりと見ている者を湧き立たせました。
チェルシーのような速さに特化した竜も飛びましたよ。3頭いるんですね。
彼女達のショーはまさに…未確認飛行物体でした。
その後音だけの花火が上がり、お祭りの始まりを告げました。
町の至る所に屋台が並び、食べ歩きマップも作成。もちろんシウの肉料理も一日の数量限定で並んでいます。
この日のために準備してきた宿屋はすでに満員。その予想もして民宿という形で開いてもらった臨時宿屋もたくさんの客が入っているようです。
そんなわくわくの朝、時は少しだけ巻き戻り、早朝のグレンの寝室――――
パキリッ メキッ メキメキメキッ
奇妙な音に、夕べ遅くまで興奮して眠れなかった私は重い瞼を開けます。
いつも通りグレンはベッドの真ん中で眠り、私は猫のようにグレンの横に寄り添うようにして眠っていたのですが、妙な違和感があります。
「??」
グレンは夕べ私に付き合っていたのでまだ眠っていますね。ですが、なんでしょう? そのグレンの姿がピンボケしたように私の目に映っています。
「ん~?」
ピンボケしているのは私の周りに何か透明のケースのようなものがあるからですね。
眠った後にいたずらでケースに入れられたのでしょうかね?
ケースは丁度私の背中の辺りが開いているようなので、よいしょと体を起こしてそこからするりと抜けました。
一気に視界がクリアになります。
一体何のケースに入れられていたのかと全身抜け出してから見下ろせば、そこにあるのはプラスチックに似た素材の…
「ピギュアアアアア~!」
朝から絶叫!
「またか! こんどはなんだ!?」
グレンが飛び起き、私はグレンにプラスチックに似た素材のそれを指さしました。
「ん?…リーリアが…分裂した?」
「しませんっ。これなんですか!?」
私が指差したのは、プラスチック素材のようなモノでできた私です。もっと正確に言うなら、セミの抜け殻のような私自身の抜け殻でした。しかも牛柄。
よくよく見れば牛柄だった私の体は元の真っ白に戻っていますね。
「…脱皮か?」
グレンが首を傾げます。
「竜って脱皮するんですか?」
「蛇のような体の龍がいるだろ、あれは脱皮して成龍になる」
緑竜隊の隊長が龍の主です。ラーメンのどんぶりに描かれているやつですね。もちろん本物はとっても威厳あるお姿でした。竜族の中でも大変珍しい種なのだそうです。
「じゃあ、私大人になったんですね?」
見た目は元の白になっただけで変化があまり見られません。
一様飛んでみました。
パタパタパタ…
「! 大変です! こんなに飛んでますよ!」
地上30センチです! 飛躍的進歩!
「それは飛んだに入るのか・・・」
グレンの呟きにはギラリと睨みをきかせ、黙らせました。この進歩を笑うやつは許しませんよっ。
「人型にはなれるか?」
布団のシーツをかぶせられ、ぽとりとベッドの上に落ちると、私は首を傾げます。そもそも変化の魔法というのはどういうものかがわかりません。
人型への変化は呼吸法を変えるのと同じようなもので、明確に魔力を操る魔法を使うわけではありません。私はイメージ的に魔法を使っていると言いますが、グレン達が実際に私に施しているのは、もともと私の中にある魔力の流れ方を少し変えるのだそうです。
が、これを操れと言われてもよくわからないのですよね。
「むむむ~」
体の中にある何かを変える。イメージから入ります。
体の中にある…種にしてみましょう、これが…ぱっかり開いて目が出て、花が咲くっ
ぼふんっ
妙な音と共に煙が出ました。
「おっ」
グレンの声に、まさか人型に変われたのかと顔を上げて目を輝かせれば、目が合ったグレンが「ぶはっ」と噴出しました。
「なんですかっ?」
手足に変化がないので失敗したようですが、なにかが発生しています。
部屋にある姿見の前までシーツを引きずりながら向かうと、そこに映ったのは、いつもの愛らしい小さな竜…の頭に花。
花?
「頭に花咲いたぁ~!?」
「ぶはっ!」
グレンが堪え切れず腹を抱えて笑い出しました。
私の頭には巨大なガーベラのような花が1輪咲いてました。
・・・・・・頭に花が咲くほど浮かれてたってことですか~?




