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59話 猫好きです

「ピキュ~ッ。ミギュ~ッ!」


 叫ぶ悲痛な声はもちろん私のモノです。

 現在交戦中。私はゼノの首に捕まり、右へ左へと振り回されております。吹っ飛んでいかないよう必死ですので、騒がしいのは目を瞑っていただきます。


「動きは早くてもよえぇんだよ!」


 ゼノ絶好調。どこかのチンピラのごとく叫びながら敵を昏倒させていきます。できるだけ斬っていないところがすごいですね。


「なんか証拠になりそうなもん出たかっ?」


 暴れるゼノの背後では、積まれた黒子が一人一人往来で服を()ぎ取られ、持ち物チェックを受けています。

 私としては安全なあちら側にいるべきなのでしょうが、花の乙女としましては、さすがに()かれる男達を観察するのは躊躇われたため、ゼノの首にしがみついて絶叫マシン体験中です。


「大したもの持ってませんねぇ。財布もしけたもんです」


 どこの追剥ですかっ! それに、なぜ暗殺家業の方が仕事中に財布携帯しているのですか!?


「こっちも大したもの持ってませんよ」


 新たな声は青竜隊の面々とは違う声です。

 あっちにこっちに振り回されながら視線だけ向けると、暗闇の中から黒子を2・3人引きずって、金髪碧眼の青年黒竜隊副長ケインが姿を現しました。


「なんだ、別のも隠れてんのか」


「たぶん追い詰められた上での強行でしょうね。証拠が出なくてもうちの隊長が出てるんで出所(でどころ)はすぐ抑えられますよ」


 出所って、やばい薬みたいな扱いですねこの黒子さんたち。

 

 ゼノが全く驚いた様子無くケインに応対しているので、今日のこの捕り物は予想の範囲内の出来事だったのでしょう。ケインのほかにも黒を基調にした隊服を着ている人々がちらほら姿を現しましたので、間違いないです。


「キュアオォォォッッ!」


 油断しました。ゼノが剣を大きく振った瞬間、私の手は彼から離れ、ものすごい勢いで後ろへすっとびました。

 

 誰か私を受け止めてーっ


 ぱくっ


「ウキュ?」


 衝撃はありません。ですが、受け止められたというよりは、何かに食われたような感触が・・?


「そいつをかみ砕けっ!」


 黒子の一人がくぐもった声で叫び、私は驚きのあまりなんだかよくわからないものから逃れようと必死で犬掻きします。ですが、両手足に当たるものがなく、力を入れることができません。


 いったい何に食われているんだと目をやれば、すぐ傍につぶらな瞳…。


「にゃんこ! ぐふっ」


 いや、笑ってませんよ? むちぃっと牙で押しつぶされました。

 けがはしていないのですが、押しつぶされる圧力はかかるので苦しいです。


「魔獣を町中で放ちやがって。違法行為だ! きっちり取り締まれよ!」


 ゼノが叫び、騎士達が猫型の魔獣に剣を向けます。

 いかに魔獣と言えど騎士達の手にかかっては私を押しつぶす前に殺されてしまいます。


 私はビタビタと猫の髭の辺りを叩き、離すよう促すのですが、この魔獣は黒子に飼いならされていて反応してくれません。

 

 息ができません~っ


 気分はどら猫に加えられたお魚。

 びっちびっちと暴れます。


「うわぁ…、コーネ使っちゃったよ。もう駄目だね、この人達」

 

 暢気に呟いたのは、いつからいたのかウィルシスです。彼はすたすたと武器も持たずに近づいてくると、構える猫魔獣の前に立ち、手を伸ばしました。


「いいよ、ヴァン」


 その瞬間、どんっとものすごい衝撃がかかりました。

 

 実際攻撃されたのは猫の魔獣のようなのですが咥えられている私にもその衝撃は伝わり、猫の魔獣はそのすぐ後に口をパカリと開け、私は放物線を描きながら腕を伸ばすウィルシスの元へすっぽりと落ちます。

 こうなるように計算されたような攻撃ですね。


 もちろん魔獣を攻撃したのは、猫をこよなく愛する黒竜隊隊長ヴァン。

 攻撃された魔獣は気絶しているだけのようです。


「総隊長。奴らの殲滅許可を」


「えぇっ!?」


「いいよ~。黒幕は生かしといてね」


「了解した」


 私の驚きの声は無視されたっっ。


 その後は黒竜隊の独擅場です。隠密部隊だけあって敵を斬ってるのかただ昏倒させているだけなのかはわからないが、闇の中から「ぎゃっ」とか「うっ」とか声が響いてくる。

 ヴァンに至っては、大好きな猫の形をした魔獣を使っての悪事だったために、いつも以上に力が入っているらしく、副隊長のケインですら彼に近づかないようにしているのが視界に入りました。


「囮にしてごめんね。奴らが動きを見せたからこの機会を使わせてもらった。これで何人かの反竜勢力が捕えられる」


 どうやら私は囮に使われていたようです。まぁ、今回は皆いたので良しとします。

 それよりも…


「大丈夫ですか? 黒竜隊の皆さん」


 闇の中からぽいぽいと暗殺者が投げられてくるのですが、その中になぜか黒竜隊の隊員が混ざっているのです。それに、先ほどから聞こえる悲鳴の中に「俺味方です!」という声が…。


「う~ん。たぶん?」


 ウィルシスは首を傾げました。


 やばいです! なんだかわからないけど黒竜隊の皆さん危険です! 


 に~げ~て~!!



 


ヴァン「コーネ(猫魔獣)を使うとは言語道断!」

ケイン「うわぁぁぁっ、隊長がキレてるっ! 総員退避―!」


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