56話 企画提案してみました
さて、最近の問題として魔穴をどうすればよいかというモノがあります。
東の国の内乱はその国の軍隊の派遣により一時的に収まるだろうという見方がされ、ひとまずは収束に向かうとみてよいでしょう。ですが、彼らが不安を抱く魔穴は増え続けているのです。これを減らすかこれに耐える方法を編み出さなくてはなりません。
本日も私は青竜隊の皆とトレーニングしながらお話し中です。
青竜隊の皆さんは指一本で腕立て中。私はそのお手伝いのため、ゼノの背中に乗って腹筋中です。
これがなかなかに難しい。何しろゼノは腕立て中ですので、床が動くようなものです、その上で腹筋というのはいつも以上に筋肉を使うのです。
「竜王様からのお手紙に、悪感情を持つと魔穴が増えるとありました」
「悪感情って、怒りとかか?」
これだけハードな運動中なのに騎士達の声は息切れを起こしたりしないのが不思議です。
「逆が増えれば…キュアッ…魔穴も…ピュリャッ…減るのでは?」
竜の鳴き声で気合を入れつつ腹筋、腹筋。腕立てはできません。お腹がつかえますからね。
「逆…、嬉しいことってことか」
「もしくはこう心が沸き立つような…」
「あ、シウを皆に食べさせたらどう?」
リオン君の提案に騎士達がこの間の食堂を思い出したようです。皆眉間に皺が寄りました。
この間の食堂は青竜隊のまともな人々による制止があったので被害は少なかったですが、思った以上に興奮して派手な喧嘩が起きそうになった場面もあったのです。
医療班の皆さんが興奮を抑える作用のある果実を持ち込み、厨房の皆さんがそれで肉用ソースを作ったので、この国の名物料理になる日は近いですが、ソースの材料がまだ足りませんね。
「国の奴らに鎮静作用ソースなしで食わすわけにはいかんだろ。国中喧嘩だらけだ」
国中喧嘩は嫌ですね…。
ん? 国中喧嘩…
「お祭りならどうですか!?」
ぴょこりと起き上がった瞬間にゼノがぐんっと上に体を持ち上げたので、油断していた私はそのままごろりと地面に落ちましたが、すぐに起き上がって目をキラキラ輝かせます。
「お祭り? 春迎祭とか、豊穣祭ならやるぞ?」
「そんなのじゃなくてですね。どちらかと言えば男臭いお祭りです」
「男臭いって…」
皆がトレーニングを止めて集まってきます。
円状に座り込んでの話し合いなのですが、むわっと漂う男臭と、惜しげもなくさらされた筋肉にげっそりしてしまいます。筋肉見事ですがね…、集まるとむさ苦しいのですよ。
「賭け事好きな人~手を上げてください~」
私の呼びかけに、ぱぱっと手を挙げる人が結構います。皆騎士なので身を崩すような賭け事はしませんが、それなりに好きだと言います。会社帰りのパチンコを楽しむようなものですかね。
「戦闘好きな人~」
これにもちらほら手が上がります。
「ほら」
ゼノを見て訴えると、ゼノは全く分からないようで、きょとんとしていました。
「もう、鈍いですね~」
私に言われたせいか、ひどくショックを受けたようですが無視です。
私は指を一本立てると、びしりとそれを前に突き出しました。
「賭け事のできる興奮するお祭りといえば、闘技大会です!」
「「「闘技大会?」」」
コントですかというほど絶妙なタイミングで全員が首を傾げます。コントなら次の瞬間闘技大会になってますけど、これはコントじゃないですからね。説明が必要です。
「武器、魔法、素手、何でもアリです。団体戦、個人戦とトーナメント方式で勝ち上がって、優勝者には賞金とか、騎士に昇格してもらえるとか、いろいろ特典を付けるのです」
「それは面白そうだな」
皆が自分の夢や希望を膨らませたのでしょう、目がキラキラしてだんだんと興奮してきているのが伝わります。
いろいろ意見を出し合えば、屋台の話や、大道芸の話も出てきました。
「賭け試合の金額は庶民に優しいワンコインがいいですね」
「おしっ、ちょっとこの話を詰めてアルに話を通してもらうか」
ゼノの一声で、騎士達は素早く立ち上がると、トレーニングを一時中断、そのまま素早い動きで各部署へと散らばっていきます。
ほかの部署にも話を通し、必要経費等の計算をしてもらって、万事整えたら王様に進言するようです。
フラストレーションを発散するためにも、ついでに魔獣肉の宣伝をするためにも、この企画はぜひ通さねばなりません。
私は拳を握ると、空に向かって突き出しました。
目指せ一攫千金!
あ…本音が…。




