50話 大戦
クロちゃん、魔王だったんですか…。
パッとあらわれたり、パッと消えたりしていましたから、それなりに力のあるエルフだと思っていたのですが、魔王だとは思いませんでした。
「僕が知ってるのは先王だったから少し悩んだけど、黄金色の瞳の魔族は現在の魔王しか知らない」
「現在の魔王の治世は大戦後からじゃな」
「唯一大戦に異を唱えた王だったかの?」
アルとイルが補足をするようにクロちゃんと思わしき魔王のことを語りだす。でも、私はその大戦とやらを知らないのです。ことあるごとに出てくるようですので、一度調べた方がいいかもしれません。
「それは初耳だな。なぜ魔王が大戦に異を唱えたのだ? あれは魔族と魔獣対人間と竜の戦いだったろう? 一魔族ならば当然魔族側に組み込まれるはずだ。逃れることはできない」
たとえ個人が異を唱えても、周りが力を持って押さえつければ参戦を余儀なくされる。そんな戦争に異を唱え、一人逆らっていたというのでしょうか? 自由な意思が許されている国柄だとしても、大戦なんて言う大きなものに巻かれずに個を保つのは難しすぎます。
「あれは大戦の裏側を知っておる」
オル爺ちゃんがぽつりとつぶやいた言葉は、不思議と部屋の皆の耳によく響き、皆がオル爺ちゃんに目を向けます。
オル爺ちゃんは何処か疲れたように肩を落とし、項垂れて小さくなっていた。
「少し昔話をしようかのぅ」
オル爺ちゃんはそういうとポツリポツリと話し始めた。
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大戦、というのは今から何百年も前の話だ。
オルの話は大戦が起きるより少し前に遡り、そこにはまだ古竜達がいた。
当時、古竜達はのんびりとひっそりと生きていて、姿を知っているのは世界に一握りの者達だけ。古竜の数もほんの少しで、彼らを守るために彼らを知るものはその存在を隠し通してきた。
だが、世界の空は途切れないし、大地もつながっている。たまたまその地を訪れた者から彼等を隠すことはできなかった。
古竜の名はリアーナ。
成人した古竜で、ピンク色の体を持つ愛らしい竜だった。
「リアーナはある日、古竜の里近くで一人の魔族を見かけての、何百年ぶりかに見た異種族に感激してタックルしたそうじゃ」
若い青年魔族は弾丸のように飛んできたリアーナの頭突きで鳩尾を打たれ、昏倒したという。
それが当時の現魔王、クラウスことクロちゃんである。
クラウスは当時世界各地に現れる魔穴を閉じて回っており、その時も魔穴を一つ封じたところだった。 まだ若いクラウスは魔力消費により弱っていたため、頭突き一つで昏倒したのだが、そうと知らないリアーナは、罪悪感から人型の姿に変わると、彼を里へ連れて行き看病をした。
「芽生えるロマンスですねっ! クロちゃんは恋に落ちたのですっ」
キラキラと目を輝かせる私にオルは目を細めて微笑みながら頷く。
「じゃがのぅ、魔穴は世界中に広がり、やがて人々を狂わせたのじゃ」
「狂化か」
きょうか?
「狂い出すのじゃよ。魔穴の風は人々を蝕み、操られるように人も魔も竜も獣も皆争った」
大戦の始まりだとオルが告げ、大戦を知る者達は口を閉ざし、それを知らない者達は目を見開いた。
聞きたいことはあったけれど、オルの話は先へと流れる。
大戦が始まった頃、古竜の里で仲睦まじく暮らしていたリアーナとクラウスの元にも魔穴に狂わされた者達が現れたのだ。
現れたのは人間、彼らは虚ろな目をして魔族をののしり、クラウスに襲いかかった。しかし、長く旅をつづけ経験も豊富、魔力も当時の魔王に引けを取らない、そんなクラウスを倒せるものはいなかった。
そうして倒された者達から、古竜は狂う元となった原因を取り除くことができたという。
「古竜はその能力の低さから役に立つことを求める傾向が強くてな、皆喜んで狂化の浄化を行ったのじゃ」
強化の浄化、古竜にならできる。ふんふんと脳内メモに書き記していきます。
やがて、大戦が広がり始めると、同じように魔穴の発見数も増え、古竜達も皆が故郷を飛び出して浄化を行っていった。しかし、魔穴の発生に対し、浄化のスピードは遅く、大戦は魔穴の発生を加速させ、全てにおいて手遅れの時が目の前に迫っていた。
魔穴を壊し続けてきたクラウスも、浄化にて人々を救ってきた古竜も、争い狂っていく者達を止めることはできず、そうして下した最後の決断が、世界の浄化である。
「世界の浄化?」
「大戦中に発生した白き光とも言われておる」
「「白き光!?」」
グレンとウィルシスが過剰に反応しますが何のことかはわかりません。
オルは深く深くため息を吐くと、リアーナの続きを離します。
「リアーナはの、古竜の皆と共に浄化を行う儀式を行ったのじゃ。それがどんなものかはわしも知らんが、古竜はその時…」
古竜達が行った儀式は成功した。しかし、それがどんなものかを知らなかった古竜を知る者達は皆泣いた。古竜達はその瞬間、その時を持って消滅したのだ。
ただの一匹も残らなかった。
だが、それを知っているのは竜族の5長老のうち、オルだけで、彼はこの場所でそれを言うことはできなかった。
「古竜はのぅ、その時体力をほとんど失っての、皆大戦を終える頃には過労で亡くなってしまった」
「過労死!? 私頑張って体力付けます!」
私は心に誓い、ぐっと拳を振り上げます。
リアーナも同じ時期に亡くなってしまい、その犠牲を知っているからこそその時のことを知っている者達は争いをやめるよう各国で進言したという。
クロちゃんが、好戦的と呼ばれる魔族の中で唯一反対した人物になったのは、愛するリアーナのためだったのですね。
「そういうわけで現魔王は魔穴を憎む側じゃ。たとえ再び狂化した人間が増えても大戦は起こさぬじゃろう」
皆が納得したように肯くと、ついで上がってくる疑問は一つです。
「魔王のことは敵でないということで保留するとして、このリアを治す方法は誰が知ってるんだ?」
おぉう。ちょっとシリアスっぽい話で忘れてましたが、私牛柄でした。
「うむ。そういう現象があったかどうかはわからんでな、魔王なら知っているのではないか?」
「魔王を呼び出す方法なんぞ知らんぞ?」
「ふむぅ、これも保留じゃな」
イル、アル、オル爺ちゃんがそれぞれ答えて出た結論は保留…。
がぁぁぁ~んっ! 私しばらく牛決定です!
クロちゃんカムバァァァ~ック!




