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5話 名付けられました

 憧れの竜の中でも最弱。そのことにショックは受けましたが、よくよく考えれば中身は大したことない人生を歩んできた42歳のおばちゃん。今更高スペックになってもきっとおたつくだけなので良しとします。

 立ち直りが早いのはいつものこと。悩むだけ人生(竜生?)もったいないです。


『あ、そういえば自己紹介がまだでしたね、私は』


「リーリア」


『はい?』


 何を突然言い出すのかと首を傾げると、クロフさんは手で招くような仕草をした。

 ふわりと私の体が浮かび上がり、驚いて犬掻きします。空中で必死の犬掻き。これも野生の条件反射でしょうか。

 わたわたしながらもクロフさんの前のテーブルに座ることができてほっと一安心。


「お前の名前だ。生まれたばかりだから名はないだろう?愛玩竜でも生きていけるよう加護も与えてやる」


 加護はありがたいです。が、なんでしょう、愛玩竜って、やはり最弱竜は愛玩用でしょうか。いやいや、しかしですね、いつかは大人になって巨大になって人ぐらい乗せて運べる竜になる予定ですよ。今は愛玩でもいずれは姿だけで人を怖がらせる竜になりますよ。

 という考えはどうやら口に出ていたみたいです。クロフさんはテーブルの上の宙に円を描き、何やらつぶやきました。

 描かれた円は柔らかな金色の縁取りを作った後、その内側に鏡を作り出し、テーブルの上を写し出します。


『おぉっ。これはまさにっ』


 写っていたのは鏡にがぶり寄る真っ白の竜。愛玩と言われるだけあってその姿はぬいぐるみの竜を彷彿とさせます。大きさはバスケットボールぐらいですかね。短い手足と幼児体型なお腹がまた愛らしく、撫で繰り回したいと思えますが、自分ではできませんね。残念。

 目の色はなんと、クロフさんと同じですね。黄金色。耳は三角、これも似てますね。あがっと口を開けば、それなりに牙も生えております。牙の先は丸みを帯びておりますが…。


「古竜は成竜となってもその大きさのままだ」


 おぅ…ショック再び。


『ところで、こ竜って子供の竜って意味じゃ』

「古の竜だ。死滅した…と思われていたが」


 古竜でしたか。

 なんだかすれ違いを感じて聞いてみれば案の定。

 クロフさんいわく、古竜というのは種族名らしい。あまりに弱くて自由を奪われると繁殖力が激減するというおかしな体質で、愛玩用として乱獲されたために今ではもう絶滅している種族なのだとか。

 繁殖力も弱いってどこまで貧弱。

 そんな古竜だが、全ての竜の祖に当たるそうで、竜族の中では神に近い存在なのだとか。

 絶滅したからよけいに信仰の対象になったのですね。


 まじまじと鏡を見ていたら、あることに気が付きました。

 私、翼があるじゃないですか!

 意識すれば蝙蝠のような薄い膜を持つ翼は広がり、パタパタと動きます。


『飛べますよね』

「まぁ、ある程度ならな」

『練習します。ところでおとーちゃま。お腹がすきました』


 野生の赤ん坊というのは素直ですね。思ってもみないことが口からするりと飛び出します。理性的に構えていないと、体の年齢に引っ張られるようです。

 ちなみに、おとーちゃんをちゃまにしたのは、クロフさんがエラそうだからでしょう。逆らってはいけないと心が訴えるのです。これも野生の勘ですね、たぶん。


 クロフさんは盛大にため息をつくと、剣を手に取り、立ち上がりました。


「狩りの仕方はフィーラにでも学べ。それ以外は教えてやる」


 フィーラというと…あぁ、例の赤い鳥の頭をした巨大な銀毛の犬ですね。


『かわいい名前ですね』


 見た目がちょっとキモいのですが。


「名前ではない。あれの種族名だ。名は…あまり魔力に差があると呼ぶわけにはいかないのだ。リーリアにも真名がある。魔力は大きいので呼ぶことは可能だが、真名は個を縛ることもある。他人にはあまり呼ばせるな」


 ふむふむと私は肯く。要するにあれだ。


 異世界の鉄則1:真名は特別なものにしか教えてはなりません


 ですね。了解です。

 こう見えても42歳。いろんな小説を読みかじっております。そしてお仕事もいろいろ経験しております。順応性はぴか一ですよ。お任せください。

 なんて一人で肯いていたら、いつの間にか翼の付け根あたりをつかまれて運ばれておりました。

 どうやら翼の付け根は感覚が鈍いようですね。気を付けます。


「フィーラ、狩りを教えてやれ」


 クロフさんは言うなり外で待機していたフィーラに向けて私を投げ、フィーラはそれを嬉々として嘴でくわえると、尻尾を振り振り森へと走るのでした。




 て…私このままですかぁぁぁぁ~!? 

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