47話 役目
竜王様視点です
短い
古竜はやはり弱かった。
竜王セルヴァレートは体力測定が終わった後、興奮ではしゃぐ3老人が腰を痛めたこともあって、彼等に手を貸しつつリーリア達よりも早くに自分の部屋に戻っていた。
なぜか腰を痛めた3老人までついてきたが…。
「ナゼ部屋に戻らんのだお前達は?」
不機嫌に尋ねてしまうのは仕方がない。なにしろこの老人達はどうでもいいことですら延々と繰り返すように話し、夜が更けるまでセルヴァを開放しないことなどザラだからだ。
「いやぁ、この結果を分かち合いたいと思いましてな」
「わしら大興奮ですわ」
「古竜の素晴らしさはここに極まると言えますな」
結果を早々に引き出さねば今夜もなかなか眠らせてもらえそうにない。
覚悟を決めたセルヴァは椅子に腰かけ、なぜかソファにぎっちりと座った3老人を見やった。
「貧弱なのがわかって満足か?」
「貧弱ではありませんぞ」
「体力、持久力共に子供以下なのですぞ」
「あそこまで弱いのは体力なども日常生活に支障がない程度に抑えて、魔力の蓄積に回しておるからでしょうなぁ」
うんうんと肯いてもっとも真面らしいことを言ったのはオルである。彼は国にも残してきた長老も含めて、最も真面目で思慮深くもある。ただ、やはり5つ子の一人だけあって、ふざけるときは同じテンションでふざけるのだが。
「言うてしまっては面白くないぞオル」
「そうじゃ~」
「ほっほっほ」
三人とも笑ってはいるが、目は理性的な光を宿している。こういう時は大抵ふざけているように見えて、セルヴァやほかの若い竜達を試している時なのだ。
セルヴァは三人の試すような、期待しているかのようなわくわくした目を避け、ため息を吐いた。
「古竜の文献は全部読み終わったわけではない。だが、先人いわく、その体には大きな使命を背負っているとされるのだったな?」
古竜が見つかったというグレンからの手紙を受け取ったときから5長老に手渡された古竜の資料は薄い本一冊。しかし、それは竜族でも扱うことがほとんどない古代語で書かれていた。多少古代語をかじっているとはいえ、癖もあるその字を読むのは簡単なことではなかったのだ。
「内包された魔力は時として魔を封じ、闇を消す」
イルの低い声が紡がれる。
話し方ががらりと変わった3老人は、いつものふざけた爺さんではなく、今はその本来の役割、歴史の紡ぎ手の役割ををこなしているのだろう。
「滅び行く大地に蔓延せし闇。彼らはその魔力を持ってその全てを消し去ったとされる」
「役目を持ち、自由の羽をもがれし古の竜は間もなく滅び行くであろう」
最後にオルの語った言葉は意外と有名で、古竜を研究する者達ならば知っている。
古竜は自由を奪われると死に至る、と。だが、よくよく聞けば気になる点があることに気が付くはずである。
セルヴァは三人の口を閉ざさせるように手を上げて止め、尋ねた。
「古竜の役目とはなんだ?」
三人の老人はその言葉ににやりと笑みを浮かべ、答えを告げる。
その答えは、まるで今の時期、この世界に古竜が生まれた理由を示すかのようで、セルヴァレートは苦々しげに唇をかんだ。
できることなら…。
古竜お披露目パーティーの際、騎士達を逃れてパーティーの会場を騒がせながら駆けていく古竜を見ながら、セルヴァレートはできるならこの間抜けな竜がそんな役目を負わされることがないよう祈った。
だが、祈りをあざ笑うかのように、生ぬるい風が会場の窓を震わすと、3老人は静かにセルヴァレートの背後に控えた。
『世界を飲み込む闇の穴。その全てを消し去るとき、古の竜は長き眠りにつく』
文献にも乗らない口伝のみで伝えられる一説は、できることなら外れてくれとセルヴァレートは祈らずにはいられない。
「…あんな間抜けな竜に世界を押し付けないでやってほしい」
祈りのような命令に、三老人は深く頭を垂れるのだった。




