41話 お仕置き終了
「東がきな臭いっていうのは?」
話をひと段落終えたからか、ウィルシスが依頼を頼みがてら情報収集のようです。
キールは依頼用の書類作成などをしながら、頭の中を整理しつつ応えているようで、時々間が開きます。
「武器商人の護衛が多くなったって」
『武器、たくさん』
「でも、集めてるのは東の国の中枢ではないって話なんだけど」
『魔獣、たくさん』
「内乱を心配してる人が」
『たくさん出てきた、逃げてきた』
うぅむ。何やら羊さんが私の横で東から逃げたらしきことを言っている。ウィルシスには聞こえていないようなのだけれど、これは言った方がいいのかな? キールの話の内容とは少し違うみたいだし。
「ウィルシス。羊が東から逃げてきたって」
声をかけると、怪訝な表情をされました。ナゼ?
「羊って、メーラのこと?」
そうでした。羊はメーラでしたね。通じてなかったようで、私はウィルシスの質問にコクリと肯きます。
「僕は動物とは意思疎通ができないんだけど、メーラはなんて?」
「武器と魔獣がたくさんだって。魔獣がたくさん出てきたから逃げてきたって」
「「魔穴」ね」
ウィルシスが呟くのと、私の真後ろから女性の声がかかるのが同時で、私は振り返ると目をきらりと輝かせた。
「レイナさんっ!」
昼の光の中で見ると、さらに麗しく見える魅惑のビキニアーマー美女レイナさんが、蒼い目を細めて何やら厳しい表情をしていますね。抱きつこうと思ったのですが、躊躇われて踏みとどまります。
「その声は竜のおちびちゃんだね? そのメーラに聞いてくれるかい? 人間の様子はどうだったかって」
レイナさん、私を声だけでわかったようです。驚きましたが、あまりにも真剣な表情なのでやはり何も言えず、羊の方を向きます。
羊はめぇめぇ言いながらすり寄ってきますので、わしわしと撫でながら念話を続けます。
「変な人間増えた。突然暴れだすって」
ウィルシスとレイナが跳ねるように顔を上げ、ウィルシスは追加で何かを依頼し、レイナはその話に加わりました。
私は蚊帳の外になりながら首を傾げ傾げ二人を見ていたのですが、いつの間にか護衛としてついてきていた黒竜隊副長ケインに抱き上げられておりました。
話は30分ぐらい続いていたようですが、それが終わると、ウィルシスはいつもの飄々とした表情で戻ってきてケインから私を奪い取り、スリスリと頭に擦り寄ります。
「大丈夫ですか?」
表情はいつも通りに見えましたが、少し疲れているように感じましたので聞けば、ウィルシスは私の肩に頭を預けて頷きます。
いったいなんでしょうね? いつか話してもらえるといいですが、私が役に立つ…とは全く思えないのが残念ですね。
「よし、それじゃあご飯食べに行こうか?」
ご飯!ご飯と言えば日本人がこだわることの一つだと思うのです!
「いきます! 美味しいところ知ってるんですか?」
「うん、ケインが」
今まさに視界から消えようとしていた金髪碧眼の青年がピタッと動きを止めました。それと同時に、ギギギと音がしそうなほどゆっくりと顔がこちらを向き、自分を指して首を傾げます。
ウィルシスと私は怪しい動きに顔を見合わせ、同時に彼に向かって頷きました。
「だって、腐ってもケインは若者だろう? 騎士団に張っているんだし、女の子を誘うためのデートスポットくらい知ってるよね?」
「腐ってるのは嫌ですよ?」
「じゃあ一様若者」
私とウィルシスが失礼なことを言っている間、なぜかケインの顔には滝のような汗が流れます。今日はそんなに熱くないはずなのですが?
「よろしく」
「う…ハイ」
総隊長の射るような視線にケインは頷き、自分の知っているところでならととぼとぼと歩き始めました。
なんだかこれから牢屋に入るかのようなとぼとぼぶりに私は一抹の不安を覚えたのですが、ウィルシスは全く気にしていないようです。
そして、三人が向かうのはどう見ても大通りから細い路地を通った裏路地とか、そう呼びそうな場所です。
たどり着いたのは、どう見ても治安が悪そうな薄暗い裏通りの小さなお店です。
怖々店内に入ると、暗~い店内からゾンビのようなウェイターが現れ、思わずあげそうになった悲鳴を何とか飲み込みます。
「ケインも食べるよね?」
「ハ・・イ」
ケインの表情は真っ青です。いったいこのお店はどんな料理が出てくるというのですか!?
料理メニューを見てもわからないので、おススメを頼みました。なぜかウィルシスはお腹いっぱいだそうで二人分です。
どんな恐ろしい料理が出るかとドキドキしていたのですが、出てきた料理は普通の中華でした。
チャーハンと、鳥の空揚げと、餃子ですね。とっても美味しそうです。
まさかこの世界にも中華があると思ってもみなかったので、意気揚々とチャーハンを口に入れ…
ビタッ、と動きが止まりました。
な…なぜっ!? これ、まさか、例の状況再び!?
ちらりとケインを見れば、彼も何かを堪えているようなので、この味はおかしいのかもしれません!
「ウィルシス! これ、甘いです!」
そう、砂糖で焼いたチャーハンに蜂蜜をかけたかのような激甘。喉が焼けそうです!
「そっちは?」
指さされた空揚げ、これは…なぜ!? 苦い!?
餃子ならばと食べた瞬間、非常に後悔しました。
「か、辛い~!!」
スプーンを手にプルプル震えました。こ、氷がほしくなる辛さっ。しかし、この世界に氷はありません。魔法なら出せますが。なので、チャーハンを食べ、甘さからしょっぱさを求め、そして思わず辛さに手を出すという地獄の循環を経て…。
完食してやりましたよ!
「うん、えらいえらい。これでお仕置きは終了だね」
お、お仕置きだったんですか…。私、これが庶民の味かと思いましたよ…。
ぐったりテーブルに突っ伏した私は、ふと同じ状態のケインを見て、彼の完食をねぎらいつつ疑問に思いました。
ケインは一体何をしてお仕置きされたのでしょう??




