39話 体力測定!?
できればアマーリアの誕生会の隅っこでパタパタするくらいが良いです。そう告げましたら全員に却下されました。
アマーリアが主役なのです、そんな日に得体のしれないちっさい竜がどや顔でお披露目なんて最悪です。それなのに、アマーリアまでもがお披露目を推奨するとはどういうことなのでしょう?
「なぁにそのお顔、私が気にすると思ってるの? お誕生日パーティーなんて毎年行われるのよ、それにお目当てはワタクシの夫に自分の息子を推薦すること。子供だから最後までパーティーにはいないけど、それでもずっと笑顔を張り付けて言うのよ、ようこそお越しくださいました、お会いできて嬉しゅうございますって。脂ぎった息子が手を取って口づけるのを我慢しなきゃならないワタクシの気持ちがわかって!?」
スミマセン、ワカリマセン。
世のお姫様たちはこんな幼い頃からいろいろと強いられるのですね。なんだか涙がほろり。
ちなみに、その熱い訴えを聞いた王様達男性陣は、皆様あっちへこっちへと視線を彷徨わせております。動きがとても不審ですね。アマーリアの訴えを知っていてあえて無視する大人の事情とかいうつもりですかね。
「ですから、主役が二分するのは大歓迎ですわ」
とても幼い子供とは思えないお言葉に私は拍手を送りました。これが帝王学とかそういった種類の教育なのでしょうかね、私が彼女くらいのときは、外で鬼ごっこやらカクレンボしてしたり、木登りして服を泥だらけにしてましたよ。
「と、とにかく、そういうわけで騎士達の顔は覚えてくれ。竜王には申し訳ないが、この国にも反竜勢力はおりますのでな」
「えぇ、わかっています。この国は竜にもっとも友好的な国です。祖王からの竜への親愛にはとても感謝しております」
ちらりとウィルシスを見た後、竜王は締めくくった。
竜の血が混じっている人々が頑張ってるとか、そういう意味の視線ですかね?
「と、まぁ、その話は終わりじゃな? それならばそろそろわしらの出番じゃ~!」
「お姫様と古竜殿はお付き合いいただきますぞ」
「うむうむ。体力測定じゃな~」
えぇと、イル、アル、オルじーちゃんでしたか、三人がわきわきと手を動かしながら近づいてきます。
「体力測定っ!?」
私はなじみの深~い嫌~な単語に驚いてウィルシスにしがみつきました。
「古竜がどれほど非力か調べてみようってことになってね。一番年の近いお姫様と比べてみることにしたんだよ」
私はちらりとアマーリアに視線を落とします。アマーリアはいまの私より身長ありますよ。明らかに年上です(肉体的には)。
「アマーリアはいくつですか?」
「8歳になるわ」
「明らかに負けると思いますが?」
どう見ても見た目は4歳ほど歳の差があります。大人の4歳ならそれほど大きくは違いがありませんが、子供の4歳は大きく違うと思われます。
「竜族は人間よりも丈夫で体力もある。これくらいの年齢差がちょうどいいだろうと思ったのだが?同じ竜では、おそらく測定にもならんだろうというので人間にしたのだ」
明らかに竜より劣る人間ならば古竜と言えども勝てるだろうということでしょうか。
しぶしぶながらも私はそれを受け入れることにしました。
今思えば、あのおもちゃの車、チョロ丸に負けた夢はこれを暗示していたのではないかと思うのです。
『第一のコース、リーリア~。第二のコース、アマーリア~』
キュ~キュ~ッ!と気合を入れてその場でクルクル回ります。
アマーリアと私はすでに衣装を動きやすいものに着替えました。アマーリアは上品なシャツにジャケット、タイトなズボンといった乗馬服。私は町の子供が着るようなズボンにしてもらいました。
アマーリアのような乗馬服でもよいのですが、ズボンなどがピッタリしていて動きにくかったので、急遽用意してもらったものです。
日本のように白線の引いた運動場はありませんので、木から木の間を走ることになります。
まずは短距離ですね。
「位置について」
よく考えたら日本とは違いました、この後「用意、スタート」とくるかと思いきや、パンッと手を叩くだけのスタートで、少々おたつきました。
ゴールは大体200メートルくらい先でしょうか、ちょっと中途半端な距離に感じますが、アマーリアに負けじと走ります。
が、順調に100メートルほど超えた所で、視線がぐんっと小さくなり、ウィルシスから「あ」という声が漏れ、あの夢のごとく、私の次に出した足はぽてっと地面に降りて、もうその後は言わずもがな、そこからはアマーリア独走です。
ぽてっぽてっぽてっぽてっ
前よりかは早くなった気もしますが!
ぽてっぽてっぽてっ
やはりゴールは遠かった…。
ゴールすると同時にぼてりと転びました。
「…人型の方が早かったんじゃない?」
私もそう思います。ひょっとして、この竜の姿だと人間よりも劣るのではないでしょうか?それならば人型の方がある程度生活するための力を得られるのでは?
「ふぅむ、竜というのは、本来本体の方の姿で生活する方がより力を発揮するものじゃからして、ちょっとこのまま次行ってみようかのぅ?」
お爺ちゃんズは言うなりひょいっと小さなダンベルを取り出します。あんまりひょいひょい手元で動かすので、ペットボトルほどの重さかと思い、気楽にそれを受け取って危うく怪我をするところでした。
「重いわ!」
「おぉ~もぉ~いぃ~」
アマーリアも私も両手で持っていますが、アマーリアは何回か持ち上がり、私は一度だけそれを持ち上げたところで、潰れました。
なぜかダンベルが重量挙げになった瞬間でしたよ…。
その後、持久走やら、反復横跳び、果ては握力測定まで、ありとあらゆる測定を終える頃には、日はとっぷりと暮れ、アマーリアは早々に退散。私はその場でぐてんぐてんになり、ウィルシスに回収され、メイドさん達に体を洗われ、再びウィルシスに抱き込まれて眠る日となりました。
翌日、筋肉痛になったのは言うまでもない…。
リーリア「こ、これでお仕置き終了ですね?」
ウィルシス「僕は今日何もしてないよ? 長老にとられたからね。人化も解けちゃったし」
リーリア「そんなの認めません!」
どうなることやら??




