38話 お披露目しましょう
「残念ながらまだ1930歳の若造だ」
にっこりほほ笑んだの黒髪黒目の少年は、とっても寛容なお方でした。
まぁ、男の人は年を聞かれてもあまり気にしないとも言いますし、この世界では中身がおじいちゃんというのはよくあることなので怒ることでもないのかもしれませんが。
『ごめんなさい。失礼なこと聞きました』
ですが、謝るのはマナーというものです。
子竜のお口は思ったことをするっと口にしてしまう子供仕様ですので、気を付けて生きねばなりませんね。
「わしらはのぅ、本物のオジーちゃんじゃて、オジーちゃんと呼んでくれりゃ―いいよ」
うわっっ。いつの間に傍に来ていたのでしょう。杖を突いたおじいちゃんズが目の前で手をわきわきさせておりました。ちょっと怖いのでウィルシスにしがみつきますと、こちらは上機嫌でおじいちゃんズを避けます。
「それはおまけで付いてきた長老共だ。伝説の古竜を一目見ようと大騒ぎでな。これでも人数を抑えたのだが、まぁ、あまり近づかないでくれ」
「近づくなとは失礼ですぞ竜王っ」
「そうじゃそうじゃ、わしらは純粋に古竜の生態を知るためにじゃなっ」
「小さいのぅ~。人型なのが惜しいわい」
竜王様の呆れ混じりの言葉に、老人達は肩を怒らせて猛抗議する(約一名デレているが)
「リーリア、竜王の言うとおり、そのジーさんどもは放っといていい」
グレンまでもがそう進めれば、再び老人達は騒ぎ始めるが、竜王が一睨みしたところでピタリと治まった。
「名前がまだだった。私は竜王セルヴァレート。セルヴァと呼んでもらえると嬉しい」
『リーリアです。よろしくお願いしますセルヴァ様』
ぺこりとお辞儀すれば、皆が不思議そうな目を向けてくる中、グレンが国王様と目を合わせ、頷くのが見えた。
国王は、老人達が「イルじゃ」「オルじゃ」「アルじゃ」と誰が誰だか見分けのつかない自己紹介をしたあと立ち上がり、リーリアに一番近い少女を促してウィルシスの前に立たせる。
次は彼女の自己紹介らしいと踏んで、私はウィルシスに降ろしてもらうと、にっこり営業スマイルを浮かべて手を差し出した。
「ピーキュピキュ、キュキュキュア(リーリアですよろしくね)」
喋れないのを忘れていました! 引っ込みつかずに出していた手をどうしようかと考えていると、金髪碧眼の少女はその手をじっと見た後、つんっと顎を逸らして居丈高に答える。
「アマーリアよ。少しぐらいなら仲良くしてあげる。でも! グレン様に色目使ったら許さないからねっ!」
睨まれました。
ここにも愛に生きる女子が一人。羨ましいですね、こんな幼い頃から好きな人がいるって、一体脳のどの辺が反応すればそうなるのでしょうね。
思い込めば人を好きになるとか、そういうこともできるんでしょうか?
ちらりと背後のウィルシスを仰ぎ見れば、彼はいつにない穏やかな表情で私を見下ろしておりました。
スミマセン、お爺ちゃんみたい、なんて感じるのは女子力とかいろいろかけてる枯れ枯れ女思考だからでしょうか。
保奈美である時も思ってましたが、なんで一般で言うところのドキドキ~とか、キュンとかしないのでしょう?? 別の種類のドキドキならいくらでもするのですが。
そう、今のように。
「これらはまだ紹介しておらんかったが、第一隊 赤竜隊の隊長レイファス、副長ルノ、第二隊 緑竜隊隊長イルク、副長マリア、3隊はまぁよいな、4隊は黒竜隊 隊長ヴァンと副長ケインだ」
全員美形です。これはドキドキです。眼福です。この城ハーレムですか?ていうくらいの人々が並びます。
赤竜隊レイファスは赤髪に碧眼をした背の高い男性です。髪が長いので貴族でしょう。副長ルノさん、緑竜隊隊長イルクさんは共にこの世界に多い茶髪に茶色い瞳をしています。二人の髪は短いです。見分けはルノさんが堅そうな雰囲気、イルクさんが優しそうな顔立ちというところですかね。
緑竜隊は副長が女性です。銀髪碧眼。マリアという名前に合う、聖母マリアのような雰囲気を持つ方です。後から聞けば、魔道士なのだと言いました。
黒竜隊の隊長さんは他の隊長達より年上のようです。短い黒髪に蒼い瞳をした渋いオジサマです。その渋さがまたグッときますが、今は興奮している場合ではないですね、続けましょう。
黒竜隊の副長ケインは金髪碧眼の少年以上青年未満といった方です。聞けば17歳、最年少の幹部なのだとか。まぁ、マリアさんが18歳、イルクさんが19歳と聞けばありがたみが薄れる最年少だと自分で言っていました。
『どうして今自己紹介ですか? 覚えきれませんよ?』
ついついとグレンの服の裾を引いて尋ねれば、グレンが私を抱き上げようとしてアマーリアに睨まれ、ウィルシスが横から私をさらう。
「アーマリアの誕生パーティーが二日後にある。そこでお披露目をしようという話になった。警備上の問題もあるから、騎士団の幹部との顔合わせは必須だろう?」
また名前を間違えているグレンに、アマーリアが怒るんじゃないかとみれば、なぜかうっとりと彼を見上げていました。
女ですが、女心がわかりません!
と、いかん脱線しました。
『えぇと、私に関係ありますか?』
アマーリアのお披露目なら別に私は何処かのお部屋で大人しくしていればいいと思うのです。と思いのままに告げれば、返ってきたのは予想外、いや、ある意味王道な展開かもしれません。
「リーリアを古竜としてお披露目する」
うむ、王道王道。
うん、うん、と肯いていた私は、はっとします。
しまった! 「うそぉぉぉんん」て、叫び損ねました!
リーリア「覚えられません」
王様「何回でも名前を聞けばいい。わしの名も聞いてもいいぞ」
リーリア「王様の名前は舌を噛みますのでいやです」
王様「皆冷たい…」
王様は名前の件で相変わらず可哀想なようです。




