33話 古竜捜索中
リーリアが樽に入ってからのグレンたちのお話
「リアは居る?」
ひょっこりとグレンの部屋に顔を出せば、眉間に皺を寄せた男が手元の資料から目を離した顔を上げる。
神竜・グレン
本来ならば神竜クラスの竜族は人の住む場所に居を構えたりしない。特に王城なんてものはもってのほかだ。彼らの力は人の国のパワーバランスを崩し、あるべき歴史を捻じ曲げるとも言われている。
そんな竜がセルニア王国には居る。
竜族はバランスが崩れることに対抗するための力として、数か国に神竜を置いたこともあったが、神竜自体が人に耐え切れず、よほどの物好きが今現在人と共存をしている。グレンはそんな一人だ。
「あまり追いかけすぎると嫌われるぞ。えぇと、すとーかーとかいうんだそうだ」
「どこの言葉さ。それより随分難しい顔してたね。雨不足が農地でも枯らしたのかい?」
グレンの仕事はこの国の環境に目を配ること。単純でいて意外と重要なこの仕事は竜族には合っている。
時々魔法で風や雨を起こしたりもする。今回はまだ出動していなかったので特に問題はなかったと認識していたのだが、違うのだろうか。
「いや、おかしな現象が続いているらしくてな」
ピラリと資料を向けられ、受け取って目を通す。
ふぅん…各地での魔獣の暴走、相次ぐ魔族の目撃の報告が頻繁になってきていると…。
「二つが関連しているかはわからない、か。関連してるよねぇ?」
「だろうな」
「神竜並みに表に出てこない種族だ、はっきりと動くまで尻尾は掴めないだろう。警戒はしても今は打つ手なし、と。大丈夫。今はあの子もいるし、あの時の二の舞にはさせないよ」
声自体は穏やかだが、ウィルシスの瞳が冷たく光っているのをグレンは見逃さない。そして、グレンもまたその瞳に冷たいものを宿した。
「と、暗い話はやめっ。リアを探しに来たんだよ。あの子ちゃんと城にいる?」
「は?」
何のことだといったきょとんとした表情を見てグレンは居場所を知らないのだと悟る。
ウィルシスの勘はなかなか鋭い。今は何かもやもやした嫌な感じがずっと付きまとい、思い浮かぶのがリーリアなのだ。きっと何か起きている。
どんどんどんどんどんどんっ
「入ります」
ノックの連打の後、入室の確認をせずにアルノルドが入ってくる。珍しく焦っているようで、いつもの神竜に対する必要以上の礼儀正しさがどこかへ行ってしまっている。
「リーリアが消えました」
「はぁっ?」
ほらね、何か起きてる。グレンの呆気にとられた表情を横目にウィルシスは首を竦めた。
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「洗濯物を干している時に馬車の事故があって、皆が散乱した荷物などを拾う手伝いを。そこにいたはずなのですが、馬車の車輪を直した頃にはすでにお姿がありませんでした」
とは洗濯侍女ローナの証言だ。
確かにその場にいた者達は何度かうろつく白い竜を見ている。だが、皆馬車の車輪をはめなおす手伝い中に消えたと告げる。
「もう一台の方かな?」
自分で乗って行ったか、浚われたか。前者ならばきついお仕置き。後者ならば犯人を地獄にたたき落とすつもりだ。
ウィルシスもグレンも不機嫌そうに青竜隊の情報を待つ。
「付いてったのかもしれないですねぇ。御者はワインを降ろす馴染みのジーさんだそうですよ」
ゼノの報告に頭の中でお仕置き方法がいくつも浮かぶ。
青竜隊とグレン、ウィルシスはすぐに町へと降り、くだんの老人の家を訪ねたが、彼女はギルドに行ったと言われ、ちょうどその頃城に白い竜が樽に入っていたとの報告があった。
では次はギルドに迎えに、と行ってみれば、ギルドはけが人とベアウルフの出現で騒然としており、けが人に治療魔法を施したり、ベアウルフ情報を聞かされたり、白い竜についての情報を聞き出すのに随分と時間がかかった。
空はあっという間に闇に染まる。
「アルノルド。団員連れて後からおいで」
どの道ベアウルフなんて厄介なものを片づけなくてはならないのだ。ギルドメンバーが片づけていたとしても、リーリアと戯れるまでに聞き込みやら後片付けやら、そんなことをしていたらきっとストレスで森ごと壊してしまいそうだ。それならば騎士を連れて行った方がいいだろう。
「言われなくても行きます。グレン様、できるだけ抑えてもらえますか」
「これの暴走をか!?…まぁ、うん、ちょっとやばそうだからしようか」
何かを感じ取ったのか、傍で失礼なことを言う部下と友人にはそのうちお礼をしないとねぇ。
ウィルシスは空に飛びあがり、一瞬燃え上がる炎の後に姿を現した巨大で優美な紅の竜の背に向かって飛び上がると、その背に乗ってにやりと微笑んだ。
「んじゃああっちだね」
森のどこにいるというのはわからないはずだろうに、確信があるようで、飛べとばかりに方向を指し示すウィルシス。
グレンはこの男に執着された白い竜を思い浮かべて深いため息をついた。
こんな悪魔につかまるんじゃないぞ…
と祈りながら。




