32話 ダブルパンチ決定
リーリアが苦手としておりますので必死に避けてますが血の描写ありです。
誰か、私を褒めて下さい…。
まさかの参戦、まさかの噛まれ、まさかの宙飛び。それら全ての体験中にワカメを手放さなかったことを!
そして現在、べちゃりと赤い血溜りの上に落ち、衝撃で外れた熊頭は見ないように立ち上がります。
「けが人を確保しつつ仕留めろ!」
「「おう!」」
揃う声にうつろ~に目をやれば、そこには愛しい私のダーリンが!
バチリと目が開き、輝きが増します!
「アルノルド隊ちょぉぉぉぉ!」
ぽてぽてぽてぽてぽて
駆け寄ると、アルノルドは私の体が汚れていようと気にせず抱き上げ、ポンポンと背を叩いてくれる。そうそう、この気遣いですよ。ラブです。
「気配を追って探しに来た僕に対してそれはないんじゃないかな、リア?」
私を助けたウィルシスは瞳だけぎらぎらと怒らせて微笑みながら振り返る。
忘れてませんよ。ヒーローのように現れて恐怖の助け方をしたのですから。…ちょっとそっちは見たくないだけです。それにストーカー宣言はやめてください。怖いですよっっ。気配ってなんですかっ?。
「あ、隊長。森の中で美女が一人で戦ってるんです。レイナさんていうんです」
ここは話題を変えておきます。怖い人は見てはいけません。
「レイナ?」
「「レイナさん、今行きま~す!」」
隊長が何か答えるより早く騎士数名が私の指し示す方向へと走って行ってしまいました。知り合いですかね?
「リアは後でお仕置き」
うがっ。変態さん(ウィルシス)を無視していたら恐怖のオーラを漂わせながらおっそろしいことを言いましたよ。これって冗談ですよね?
アルノルドを見上げれば、なんだか同情するような目を向けられました・・・。
とりあえず騎士団が出てきてくれたのです、私も安心して町へと向かうことにしましょう。あ、その前に、と振り返れば、ベアウルフを紙のように一刀両断していくウィルシスを見てしまいました。
お、お礼は後にしますっっ!(言う気はありました!)
赤い景色から目を離し、アルノルドの腕から降りて森の外側に集まっている羊に近づいていきます。その姿を見てアルノルドは大丈夫だと感じたのでしょう、剣を抜いてベアウルフ掃討に加わっていきました。
逃走中はあれほどバラバラと動いていた羊が、今はもうその場にうずくまって眠っています。ですが、彼等にも責任がありますからね、手伝っていただきますよ。
『起きてください!』
大声を想像して念話を飛ばせば羊たちがびくっと顔を上げ、きょろきょろと辺りを見ます。
『ナニ? ナニ?』
困惑する羊達を叩き起こし、その中の一頭によじ登ります。もわもわの羊毛が眠気を誘いますがまだ眠れません! 行きますよ!
『皆、町まで全力疾走です!』
ピュィィィィィィィィィ~!
私の上げた細高い咆哮は羊達に活を入れます。ついでに上空にも届いたようです。
『リーリア、何する気だ?』
私の声が聞こえたのでしょう、月明かりを再び遮って影が念話を送りながら上空でホバリングしていました。暗くて姿は見えませんがグレンママですね。竜の姿を後でじっくりたっぷり見せてもらわねば。
心に誓い、羊達はゆっくりと加速し始めました。
『町に戻って毒消し草を渡しに行きます! グレンママ、門を開けてもらってください!』
『誰がママだ!』
おう、しまった。心で言い続けていたことが口に出てしまいましたよ。
『まぁ、いい。そういうことなら門は開けてやる。ただし、後で説教だ』
お仕置きとお説教のダブルパンチですか!? 私生きていられますか!?
戦闘時とは別の緊張に冷や汗をだらだらとこぼしながら揺られ、羊達はトップスピードへ。
羊は40キロ出るってほんとですかね?




