31話 参戦
残酷描写あり…です(たぶん残酷)。戦闘シーンです。
苦手な方は避けて下さい
ここを逃れねば町に運び込まれた人達が危険です。私はこのワカメを運ばねばなりませんが、ここにいる人達にも分けねばなりません。何故なら、ベアウルフの爪には毒があるからです。
ベアウルフの攻撃方法は咬みつく、飛びつく、跳ね飛ばす、圧し掛かる、爪で裂くといった5つです。二本足でも立てるのは熊と同じようで、立てば両手で攻撃もできますし、咬みつくのも当然できるのです。
体重も重いのでしょう、勢いがあまりなくても男達があっさりと弾き飛ばされます。一頭に対し3人でかかってやっと倒せるといったところです。
背後に残してきたレイナが気になります。彼女は獣人の血が入っているので普通よりも強いということですが、何頭にも襲われたらと思うとぞっとします。
「誰か援護頼む!」
「なんでこんなにいやがるんだ!」
「そっちいったぞ!」
怒声、罵声、咆哮、悲鳴。飛び散る赤と剣と牙のぶつかり合う音。
恐怖です。歯の根がかみ合いません。先ほどからカチカチと鳴り響いているのは自分の歯のようです。 目を瞑って逃避したいです。ですが、私とてこの世界の一員。隠れてるばかりいられません!。さぁ、私の戦闘開始です!!
震えて思うように動かない手足を必死に前へ前へと動かし、小さく千切ったワカメを手に、ベアウルフの目をかいくぐりつつ、倒れるけが人に近づいて、手にしたワカメをきゅっと握りつぶし、汁を傷口に付けます。
「うわぁぁぁ!」
気絶していた人が飛び上がって目が覚めるほど沁みたようですが、気を失っていては食い殺されてしまいますので逆に良かったと思いましょうね。苦情は受け付けませんよ。
ソロソロと次へ向かいます。ついでに途中で助けた人にワカメの切れ端を渡し、汁一滴で毒消し効果があることを伝えておきます。傷口に塗る場合は薄くでいいとも伝えておきます。まぁ、あの叫びでしたらそんなに塗ったくろうとは思わないでしょうが。
こうしておくことで戦いの後にでもワカメを採取して治療することができるようになるはずです。
これは即効性ですので体験していただければ効果を疑いはしないでしょう。
「ぎゃあああ!」
「何しやがる!」
「いぃぃぃってぇぇえぇ!」
なぜでしょう…、治療されている人達の声の方が戦いの声より大きい上に、なぜか怒鳴られるのですが…。
阿鼻叫喚の治療現場で殺気が私に向けられてませんかね・・?。
やることができると人間動けるようになるものですね。慣れもあるかもしれませんが、震えが治まりました。これならここを抜けてワカメを町へ届けられます。
手近な冒険者の傷にぺたりとワカメ汁を塗り付けて目を覚まさせると、男は目に涙を浮かべつつもすぐに辺りを見回し、はっとした様子で体の周りの地面をぺたぺたと手さぐりします。
嫌な予感に、そろそろと男の視線の先を見れば、目と鼻の先にベアウルフがいました!
彼の探し物は剣です! ですがそれは数歩先に落ちていて間に合いません!
絶体絶命!
ぎゅうっと目を瞑りました。それと同時にむんずっと尻尾に違和感を覚え…
「うわぁああぁぁぁ!」
「ピギュアアアアア~!」
尻尾を掴まれた私は棍棒のごとく振り回され、まさかの参戦です!
ベチンバチンッとベアウルフの頭にボディーアタックです。ただ振り回されてるだけとも言いますが…。
丈夫ですからね、痛くはありません。ですが、疲労が半端ないです。そして心が折れそうです。
がぶりっ
おぉぉぉぉぉ! こ、今度は食われました!
ですが噛みきれないようです。ゴムのようにムニムニとものすごい圧されるのですが傷一つ付きません。あ、男が私を放って逃げてしまいました。ひどいです!
「グルルルルルッ」
ふぉぉぉぉぉっ、今度はベアウルフが私を噛んだまま右へ左へ上へ下へと頭を振ります。
これは酔う! 吐く! リバース再びですよ!
もう駄目かもっというところまで追いつめられたその時、突然ピタリとベアウルフ達の動きが止まりました。
う…うぅ…グロッキーです…
月明かりに大きな影が走ったかと思うと、ベアウルフがびくりと一瞬震え、そして次の瞬間!
「人の番に手を出すのはやめてもらおうか」
底冷えするような冷たい低い声の宣言と共に鈍い音が響き、私はベアウルフの頭を体に付けたまま、宙へと舞ったのです。
ぎ…
ぎやぁぁぁぁぁぁ~!!




