30話 出ました!
いいんです。信じてくれなくたって。私はワカメ毒消しの効果を体験しているのです。その自分の体験を信じます。
ぴょ~いとレイナの手から離れてぶよぶよワカメの採取にかかりました。
「あのなぁ、それはどっちかってぇと毒だぞ、毒」
探索隊の一人がせっせとワカメ毒消しを採取する私を止めようと手を伸ばそうとして、ぴたりと止まりました。
「ちょっと皆黙って」
レイナが背に背負った大剣の柄に手をかけると、採取組も警戒して各々武器に手をかけたのです。。
レイナは腰を落とし、左手でシーッと唇に指を当て、息をひそめました。
そういえばいつの間にか羊がいません。念話も飛ばしてみましたが、近くに羊はおろか、夜行性の動物もいないようです。
嫌な予感がひしひしとしますよ。
幸いこのワカメの周囲は少し開けたところになっているので、草叢から何か飛び出してもすぐにわかりますし、森の入り口はそれほど遠くはありません。走れば入り口付近に続々と集まっているだろうギルドの討伐隊と合流できるはずです。
緊張で毒消しを持つ手に力が入ります。すると、場違いな雰囲気を醸し出すワカメはにゅるりと手から飛び出しました。キモチワル~イ。
相変わらずの感触にぞわぞわしながら浅く息をすると、レイナが皆に何か話していますが、声には出していません。読唇術ですね。
会社でも簡単なものなら時々内緒話のように使ってましたので読めると思います。
むむむむむ~
…無理でした。よく考えたら、日本語話してる感覚でしたが、違う言葉を話しているんだと今知りましたよ。
唇の動きが読めません。唇の状態なら読めますよ?。レイナのそれは潤艶チェリーリップです。
読めても何の得にもなりませんね、しかもおやじクサイです。反省します。
ぼけてみても落ち着きません。緊張しています。というか緊張も最高潮です!。茂みの間に光る目を見てしまいました!
「全員逃げろ!」
レイナは剣を抜くなり叫び、空いてる手で私を拾って駆け出します。
その声が合図だったのでしょう、全員各々の武器を抜いた状態で持ち、森の入り口に向かって全力疾走です。
背後からはガサガサと追ってくる音と、唸り声、獣の息遣いが聞こえます。数は一匹ではありません!
ドスッドスッと鈍い音。これは多分ベアウルフの足音です。だんだん近くなっていきます。
私だけは掴まれた状態で後ろが向けるので、少しずつ草が揺れるのが近づいてくるのを目にできるのです。はっきり言って怖いです! まさにパニック映画状態! ファンタジーは好きでもパニックとお化けは嫌いだと声を上げて言いますよ! ここが平穏ならばっ。
今、まさに草の間から熊の顔が姿を現しました! 目と鼻の先です!
「レイナさん! 後ろです!」
「くそっ」
前方を見ればすでに森の入口。どうやらギリギリのところのようです。
ぶんっ
何やら風を切る音が…て、私投げられました! 入り口に向けて飛んで行きます。
えぇ、もちろん翼でではないですよ、ふつ~に(?)投げ飛ばされてぶっ飛んでいくんです。
「ピギュアアアアァァァァ!」
ずざ~っとお尻から着地。少し地面に擦りながら着地しました。
すぐさま振り返れば、レイナが大剣の柄を両手で掴み、飛び掛かってきたベアウルフの口に剣を叩きこんで弾き飛ばすところでした。
あれがベアウルフ!
完全なる熊の頭、オオカミの胴体と尻尾、そして熊の脚。それも全身銀色…頭だけ黒。
おぅ…シュール…
ていうか、ベアウルフって熊のように獰猛なオオカミではないのですか!? なぜ胴体のみ犬科ですか!? そもそも普通の犬はこの世界に存在するのですか~!?
突っ込み満載。しかし、今は逃げることを優先せねばなりません。
立ち上がろうとしましたが、恐怖で腰が抜けております。仕方ないので匍匐前進。少しでも森の入り口へ!
戦闘能力皆無。戦闘経験なし、血にも弱い。できることはこの最強ニガニガワカメ毒消しを町へ運ぶことです。
諺にもあります、餅は餅屋!
それにげろ、です。
ですが、パニック映画ってだんだん状況が悪化するのがセオリーですよね。うん。
草に隠れながら、木と草の途切れる森の入り口まで何とか這ったものの、そこに広がっていたのは、たくさんのベアウルフと、逃げ惑う羊と、戦う冒険者達が入り乱れる戦場でした。
リーリアは囲まれた!
コマンド:逃げる
たたかう
ぼける
もちもの
さぁ、どうしましょう!?




