3話 第一美形発見です
ムンニ~ッと伸びる頬を引っ張って、夢でないことを再確認しました。
よくよく考えたら先程全身を打っていたので確認するまでもないことでした。
これってあれですよ、仕事が終わったら一日の楽しみとして読んでいたあれ。数々の小説達の代表作異世界トリップ転生付きですよ!
むふぅっと鼻息荒く拳を振り上げてみる。もちろん勝利のポーズのつもりである。
40代。現実しか見れないお年頃、なんて誰が言ったですか。老後が恐ろしい私にはこういった夢の世界も支えだったんですよ。
なぁんて、そんなのは現実に起きてないから楽しめるんですよ。
私はため息を一つ吐いて辺りを見回してみた。
森です。
私の名前じゃないですよ。周りが森ってことです。日本じゃ滅多にお目にかかれませんね。結構深い森だと思います。明るめの木漏れ日が射しているので朝か昼かどちらかだと思いますが薄暗くて判断できません。
とりあえず森を抜けることを前提に歩くことにします。目指せ川。
いちばん近い山の方向を思い出し、それに背を向けつつ歩き出します。
川に出れば下流に向かって歩くのです。さすれば人里があるはず。
ぽてぽて
ぽてぽてぽて
ぽてぽてぽてぽて
今気が付きました!
私、二本足で歩いています。
どうでもいい情報ですね…そして足おっそいですね…。
ぽてぽて
ぽてぽ・・・ぽてっぽてっぽてっ
走ってみました。しかし速くはありません。何しろ幼児体型のようなお腹が邪魔ですから。手脚は短いですしね。
ぽてっぽてっ
ひょいっ
バタバタバタ…
おや?
夢中になって走っていたつもりが、なぜか手足が宙をかいているという事態に動きを止めて首を横に傾ける。
「鈍いな」
背後から降ってきた声は低くて甘いバリトンボイス。思わず背筋がぞくぞくしてしまった。
私はゆっくり振り向…けないので、どうやら首根っこをつかんでいるらしき人が体を反転させることでその人物と対面を果たした。
第一美形発見!
いや、ここは村人というべきかもだけど、村人には見えません。
彼は全身黒づくめで、腰には物騒な剣が。そんな冒険者張りの村人って見たことないですしね。
私は掴まれたまま、彼を上から下までじ~っとみます。何しろ初めての「人」ですし。
しかし、ここで私は首を横に傾げた。「人」なんだろうか?と。
彼の顔形は人と変わりません。美形なのを除けば。長いさらっさらのCMに出られそうな艶やかな黒髪は腰まであり、それが似合っているところがすごいんですが、そこは横に置いといて、その髪から出ている耳です。尖っています。これはこの世界の標準でしょうか。私としてはあの種族だと思うのですが。美形ですし。聞いてみるべきですね。
『おとーちゃんですか?』
なぜか口から出た質問は違うものとなっておりました。
ナゼ??