29話 そのワカメ食べれます!
ギルドから飛び出してきた者達と、何らかの連絡方法で集まった人達、総勢30人ほどだったでしょうか、その人々が森の入り口で毒消し探索隊、護衛隊、ベアウルフ探索隊と分けられ、現在美女冒険者レイナさんと戦士風の男一人を護衛とした総勢5名の探索隊に入って森を進みます。
これは…ホラー映画の追い立てられる役側ですね。
近くで木がガサッとか、鳥がバサバサッとか、そんな音がするたび、びくぅっとしてつかまっている男の人の栗毛をギュギュっと掴んでしまいます。
「毛が抜けるから引っ張るな」
禿るのを気にしているようです。まだ大丈夫そうですよ。つむじあたりも正常です。彼の年がわからないので断言はできませんが。
「めぇ~っ」
再びびくりっ。
なぜだかここにも羊がいます。あ、メーラというんでしたね。そちらを見下ろせば、レイナが「あぁ」と声を上げ、説明してくれます。
「ベアウルフの気配が近ければメーラも逃げてるから、いる場所はまだ安全ってことなのさ」
なるほど。安全標識代わりというわけですね。
ザクザクと草を踏みしだいて進めば、つかまっている男の人、名前はなんでしたかね?、あ、聞いてないですね(ひどい)。彼が立ち止まりました。
「いつもならこの辺りに生えてるが、やっぱりないか…?」
予想では開けた場所に群生しているのかと思ったのですが、全くの逆。開けているどころか草が生え放題で毒消し草を探すのはホネです。通りで私のような役に立たなさそうなのでも来いと言われるわけですね。
私も草の中を探す為に地面に降りて探索です。
「め、めぇ~」
羊が探索中の人間達を邪魔そうにしながら動き回ります。その口は、草を食んでいたのかもぐもぐと動き、その草がはみ出しています。暢気なものですね。
「あ~!?」
毒消し探索隊の中の一人がなぜか羊を指さします。もちろんその羊は驚いて逃げてしまいましたよ。一体なんだというのでしょう?。
「あいつラオバの葉を食ってた!」
「は!?」
「なにっ!?」
全員が反応したということは、ラオバというのが毒消しの名前ですね。で、それを食っていたと…。
「そういや魔道士がメーラが多いと言ってたね」
レイナさんがぽつりと思い出したように言えば、合点がいったとばかりに男達が騒ぎます。
「薬草と毒消し草がここ最近減ってたんだよ!、店のはめちゃめちゃ高いか屑草ばっかで雨不足による減少にしてはおかしいと思ってたら!」
「あいつら食ってやがったのか!」
「そういわれれば最近やけにメーラが多いと思ってた」
あぁ…この世界にも害獣と化した獣が。まぁ、この世界は緑がいっぱいなので困るほどではないですが、今現在は害獣扱いです。なにしろ、町に近い人の入れる採取場はこの森だけ、森のさらに奥は、下手をすれば帰るのに苦労するような天然迷路です。行ってすぐ帰る短時間採取はできません。それに、今はそれを必要とする最大の理由、ベアウルフがうろついているのです。行けるはずありません。
羊よ、なんてタイミングが悪いのだ。なぜ今なのだ。そんな雰囲気が大いに漂ってきます。
「めぇ~」
くっ、奴は素知らぬふりですよ。
ん? あれ? そういえば…。
「メーラって、あんな苦い草食べられるんですか?」
スープ鍋に3滴垂らすだけで極ニガスープと化すあの草です。すり潰した原液は魔獣も泣いて逃げ出すものでした。そんな草を食べられるということは、羊は味覚がおかしいということになります。
唸りながら考え、返事を待ちますが、返事がありませんね。
ひょいっとレイナが私を摘み上げます。
「あのぉ~?」
「あ、あぁ、悪い、どこにいるか見えんかった」
どうやら草に埋もれていたらしく、レイナがつまみ上げたことで探索隊が反応しました。声がどこから聞こえたのか不思議で探していたようです。失礼ですねっっ。
「毒消し草の味は腐ってなければ別におかしな味ではないぞ」
と、いうことは、私の探している万能激ニガ毒消しならばあるかもしれないということになりませんか!?
ついにお役立ちの時が来ました!
そして、いきなりですが、今思い出しました、私の特技!
『羊さん、激ニガな触りたくもない草の場所を教えてください』
動物への念話です。これは動物にならばイメージとして伝えることができます。
残念ながら正規の毒消しラオバは見たことがないので伝えられませんが。
『知ってる~、こっち~』
羊も念話を返してきます。彼等動物には量れるほどの魔力はありませんが、念話だけは片言でも返すことができるのです。もちろん触れる必要もありません。
めぇめぇと話すように先を歩く羊についていくようレイナに言うと、半信半疑で探索隊も続きます。殿は名前も知らない戦士風の人です。
ガサガサ歩くこと2分ほど。以外に近くにあんまり見たくない草がこんもりと生えておりました。
『クサイ』
羊にはこれが臭うというのですが、私にはわかりません。
見た目は海藻です。ワカメっぽいです。色は紫で触るとぶよぶよしているのです。はっきり言って人が口にするものではありません。
きっとエルフの料理人だけが究極の味を求めてこれを口にし、どうにか食べられないかと研究した末に発見した毒消しなのでしょう。あくまで想像ですが。
「竜のお嬢ちゃん」
「万能毒消しですよ」
じゃじゃ~んと腕を広げてそれを指し示せば、全員から帰ってくる冷たい視線。
なんですか? その素人め的な冷たい視線は。
「万能毒消しです!」
大事なことですからね、聞こえなかったかもしれないですからね、もう一度言いましたよ。大きな声で!。
「さぁ、ラオバを探そう!」
思いっきりスルーされました…。
補足:団体さんその他もろもろ、名前が出ませんがわざとです。
世の中たくさんの人と行動するとき、名前を覚えきらないのであえて聞かない時もあると思います。次会う機会があるなら聞こう。リーリアの認識もそんな感じです。
ギルドの人同士はある程度相手を知ってますので呼ぶことあります。でもその名は覚えなくても大丈夫です。




