28話 森へ
ケガ(流血あり)の表現があります。苦手な方は避けてください
「そいつは怪我してんのか!?」
口の端にパフェのクリームをつけた男が駆けつけてきて男が担いでいる人を床に寝かせます。どうやら怪我は背中と太腿らしく、うつぶせに寝かされました。
背中にカギ裂きがあり、そこから溢れた血がみるみる服を濡らしていきます。
すでに大分出血したのでしょう、けが人の服の背中と左足は赤黒く染まっています。
お…おぉ…貧血する…
赤はだめです。血液検査で採られる自分の血を見ても倒れる私です。人間の赤は駄目なのです。
くらくらしていると、カウンターからキールが飛び出し、抱えた救急箱を持って男達の輪の中に飛び込みました。
「ベアウルフじゃ毒があるな。それにこの出血量じゃ持たねえぞ」
ざわざわと男達の話声がします。
「お前も怪我してんじゃねぇか!」
冒険者の一人が男を抱えてきた方の男の腕を掴んで皆に見せます。その腕にもカギ裂きがありました。すぐに座らされ、止血が施されます。
「医者はっ!?」
「呼びに行った! 誰か癒しの魔法をかけてやれ! 出血が多過ぎだ!」
さすがは冒険者、貧血を起こしてる私と違って、的確にテキパキと動きます。無駄に人が動かないところは連携が取れてますね。けが人を大勢で取り囲まないところもすごいです。手当てできる人が動きやすいですから。
「毒消し持ってるやついねぇか!?」
席に座って見守っている冒険者達に向かって声がかけられますが、皆が首を横に振ります。
「医者の所にあるかもわからない。薬草と毒消しは今どこも品薄なんだ。依頼が大量に出てるのに依頼完了数が少ない」
キールが切羽詰ったように言えば、ガタリと音を立てて立ち上がる冒険者達がいる。
「いくつか心当たりがある。すぐに採ってこよう」
「頼みます。医者が持っていたとしても、ベアウルフが出たなら被害が増えるはずですから」
キールかっこいいですね。さすがギルドの受付です。て、感心してる場合ではありません。そういうことなら私も力になれるはずです。
「私も行きます! 毒消しなら知ってるし、生えそうなところもわかります。人数がいた方がいいでしょう?」
「お願いします。最近の雨不足でいつもの場所のはないかもしれないんです!」
打てば響くキールの言葉に、近くの冒険者が頷きました。
「よし、こいっ」
私はその冒険者の腕に飛び込み、そのまま肩へ、首をまたいで両肩で足を踏ん張り、頭につかまります。最近のトレーニングでちょっとだけへっこんだぽよぽよお腹がつっかえますが、落ちないように頑張りましょう。
「アタシ達はベアウルフの方を警戒してやるよ。存分に探しな」
どこにいたのか、女性の冒険者が屈強な戦士風の男を二人連れて後を追ってきました。
着てらっしゃるのは、まさかのビキニアーマー!? 着る人いるんですね。
小麦色の肌に波打つ金髪。青い瞳は少し吊り気味でいかにも勝気そうな印象。小麦色の肌に青いビキニアーマー。肩当や腰に飾りの布。ブーツなどの装飾品が厭らしさを半減していますし、何よりナイスプロポーション。似合っております。羨ましいです。あ、ビキニアーマーがじゃないですよ、ナイスバディが羨ましいだけですよ。
美人さんは背に大剣を背負っています。それに、男達が「助かる」といったことからも、かなりの腕前なのでしょう。
転生、異世界トリップ、て言ったらこういう最強のお姉さんになるものだと思っていたのですがね…。
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町を抜け、森に入るまで約5分。
冒険者達の多くは異種族の血が入っているらしく、休憩無しでたどり着きました。馬くらいのスピードはあったんじゃないでしょうか。
森にはギルドからの連絡が入ったのか、何人かの冒険者と、魔道士がおりました。
「ベアウルフは?」
美人のお姉さん、レイナが先にいた者に尋ねると、そばにいた魔道士が寄ってくる。
「気配はあるよ~。獲物を狙ってる感じがするね。たぶん、少人数になると危険だよ」
「特定できないのかい?」
「それがね、メーラがたくさんいてわかりにくいんだよ」
ちらりと視線を向けた先に、羊がいた。
なぜ羊…
「おかしいね、ベアウルフの標的になるならメーラの方だろう?」
「群自体が人間の味を覚えたとしたら?」
「…すでに誰か食われてるってことか。巣を叩く必要があるね」
お話が物騒です。
「まぁ、その探索は任せるよ。とりあえずあんたたちは薬草探しに専念しな。アタシらが護衛するからね」
そうと決まればさっそく森の奥へと向かいます。
恐怖と隣り合わせの探索開始です。




