26話 高速回転します
大体城の門というものは入門の際が厳しいのであって、帰りはすんなり通れるものなのだ。
ということをはじめて知りました!
てっきり門のところで引き止められるはずと思っていたから、その時に大声を出す準備をしていたのに、全く止まらず、気が付けば騒がしい人の声のする石畳をゴトゴト揺られながら進んでいるではありませんか!
町っ、絶対町に出たと思います!
相手の馬車の人、慌ててたからきっと私を見ずに突っ込んだか、物だと思ったのどちらかだと思います。
おぉぉぉ、グレンママの怒る姿が目に浮かぶのです。決してこれは私のせいではございませんよ~。たぶん。いや、きっと。
それにしてもこの樽、何を入れていたのでしょうか。甘~い匂いがします。お菓子ですかねぇ。底に残ってたりしませんかね?
はっ、イカンですっ。拾い食いはイカンですよ!
なんだかふわふわした気分になってきました。洗濯疲れですかね?
ごとんっ
荷馬車が止まる反動で私はベチンっと顔を樽にぶつけました。結構イタ甘いです。
えぇ、樽を舐めましたが何か?。
「じーちゃー!、おかえりー!」
「おぉっ、ただいまメイ!父ちゃんと兄ちゃん呼んで来い。荷物を降ろせ~ってなぁ」
はぁ~、なんだかほのぼのとしたやり取りが聞こえてきますよ。
タイトル:孫とジジ ジジってなんだ。そこは祖父だろうっ。
ビシッと手の裏で相方さんを叩くような突込みをしてみて、キレが甘いと感じてしまう。こう、突っ込みというのはビシッとですね、ビシッと。
「お帰り父さん」
「お帰り爺ちゃん。荷物降ろすよ。メイ~ッ、転がすの手伝え~」
「は~いっ」
お、荷物が降ろされますね。ごんごん音がします。ついでに私の入ってる樽も降ろされたようで、これなら蓋が開くっ! いざオープンと手を伸ばしたところ、体が横向きに倒れました。
あれ?
ごろんっ
「これちょっと重いねぇ」
「メイはまだ子供だからな、2個目で疲れたか?」
「まだヘーキッ!」
ごろんっ
音とともに私も上へ下へと大忙し。ぐるぐる回る遊園地の乗り物を、安全ベルトなしで味わっております。
ごろんっごろんっ
うえぇぇぇぇ~。き~も~ち~わ~る~い~。
「あっ!」
なんですか、その不吉な叫びご・・・・
「ギュルエェエエエエエエエエエェエエ~!」
超高速回転になりました。気分はハムスター。
おそらく中に私がいるせいで動かしにくかった樽は坂を転がったのでしょう。
私の意識は何回目かの回転中にブラックアウト。
叫び声をあげながら転がった樽に温和な一般家族は脅え、木の根元で止まったその樽を開けたのは、全ての運び込み作業が終わってから怖々だったという。
できれば、早く、助けてほしかった…がくり。
小さな竜は発見時そう言って倒れたそうな。




