25話 お仕事してたら?
数週間が過ぎました。
とりあえずよく見知った人に預けようということで私が入隊したのはアルノルド率いる青竜隊。お仕事はリオン君以下の見習い作業です。
初めはアルノルドも隊の皆も戸惑い、時々グレンが来ては緊張し、ウィルシスが来ては悲鳴を上げる日々を送っておりましたが、最近はそれにも慣れたようです。今では自分達から手合せを願い出るようになっています。
さて、私の仕事ですが、これはなかなかに大変です。
まずは掃除。隊舎、寄宿舎、竜舎をリオン君や当番の人とまわってピカピカに磨き上げねばなりません。
以前は部屋にこの世界のエロ本が隠してあったりして、思わずまじまじと見てしまいましたが。うん、大したことありませんでした。春画みたいな物です。私から見ればただのエロい芸術品です。
その後、平然とエロ本を見る竜の話が隊員に伝わったらしく、巧妙に隠されてしまいました。今は見る影もありません。すごいですね、どこに隠したのか気になります。
その後はお洗濯です。
男の人ですよね~。くっさい洗濯物が山盛り。
リオン君や当番の人ですら洗たくは一か月に一度くらいでしかしなかったため、一番下の方に埋もれた洗濯物にはカビが生えるという恐ろしい事態が起きておりました。今でもぞぞっとします。
洗濯は、実をいうと専門の侍女がいるのです。ですが、騎士の洗濯物は多いため、お手伝いするのが普通です。
足で踏み踏みして洗い、尻尾でバチバチ叩いてから絞ってもらい、干します。叩く工程は洗濯侍女も木の平ぺったい物で叩いているのですが、生地が痛まないか心配です。
さぁ、干しに行くとしましょう。
洗濯物の入った桶(洗面器大)を頭に乗せ、手で支えながら翼の特訓です。重しがある状態で頑ること2週間。上空5センチが7センチになりました。うん、ビミョーな伸び数ですね。
「リーリア様はこういったお仕事はお嫌ではないのですか?」
すっかり仲良くなった洗濯仲間、くりっくりの赤っぽい茶色の髪に、青い瞳をしたそばかす顔がチャーミングなローナが、洗い物を広げながら尋ねます。
「う~ん。体だけは丈夫で、手が荒れることもないですから大丈夫ですよ。基本動くことは好きですしね」
あの数時間突っ立っているだけのデパートのレジとは違います。あれははっきり言って過酷です。社員も嫌がる過酷さです。あんな突っ立っているだけで愛想ふりまいて、自分のミスでもないのに苦情の最初のはけ口となる。それこそ食品レジになれば一人でポツリ。会話すらせず何時間もあの狭い場所に突っ立っているのです…と、いかんいかん、ついついあの頃のストレスが噴出しました。
「人間よく動くことが大事です。うん」
「竜族なのに変なの」
「そういえばそうでしたね」
次から次へと洗濯物を手渡します。
私の身長では渡すだけがお仕事です。広げたら洗い直しになってしまいますので。
早くもっと飛べるようにならないとだめですね。現在の目標は2メートルです。
ガラガラゴトゴト
「そういえば最近裏門がにぎやかですね。何かあるのですか?」
いまも聞こえてくる荷馬車の行き交う音に耳をぴくぴくさせていると、ローナは頷きます。
「王女様の誕生パーティーがあるの。だから食品なんかは裏門に、貴族達からのプレゼントは表に届くのよ」
なるほど、それで毎日のようにガラガラと荷馬車が行き交うのですね。
「きっとその日は私達もちょっとだけ美味しいものを食べられるわ。お酒も貰えるしね」
うきうきと話すローナにつられてご機嫌に尻尾をふりふり振ると、ローナは最後の洗い物を広げようとして手を止めました。
「危ない!」
え!? 私…じゃないようですね。
その声にびっくりして彼女の視線を先を見れば、幌のかかった荷馬車同士が交差する際、片方の車輪が外れ、もう一方の荷馬車へとのしかかりました。
「大変!」
ローナが走り出すと同時に私も走り寄り、ほかにも事故の瞬間を見ていた下男や兵士が寄ってきます。
幸いぶつかって壊れたのは荷馬車の幌と一部の積み荷だけで、人に怪我はなかったようです。
それにしても、荷物がぐちゃぐちゃですね。いくつか樽が転がってます。
「す、すんませんっ」
ぶつかった方の荷馬車の御者が相手の荷物を慌てて積みなおしているのを私も手伝ってやります。
ひょいっ(掴みあげられた)ポイっ(樽に入れられた) バコッ(蓋をしめられた) ごとんっ(なんか上に置かれたっ!?)
「すんませんでしたっっ」
外で聞こえる御者の声。
いや…ちょっと…
私はモノではありませんよー!?
だぁ~れぇ~かぁぁぁぁ~!!




