21話 倒れました
結局何の話し合いをしたのかもわからないまま、話は終わり、涙と鼻水でグズグズの私は、ウィルシスに額ちゅーをされてさらに大泣きし、そのままグレンに渡されてえぐえぐと泣き続けました。
その日はまさに泣き寝入りですよ。
翌日、目が覚めると瞼が腫れぼったく、のどがガラガラで頭痛がします。そして起きた場所はなぜかグレンの腹の上。あったかいからいいんですけどもね。
「グレンさん、グレンさん」
「グルルルルルル~」
え? これ、威嚇ですか?
「グレンさん。起きてください」
あ、本格的に喉が痛い。ヒリヒリします。痛みで涙が浮かびます。扁桃腺(あるのか?)が腫れてるような状態です。
ぽろぽろ泣きながらべしべし叩き続けると、ようやくうっすらとグレンが目を開き、続いてぎょっとして一気に上半身を起こしました。おかげで私はゴロンゴロンと転がり、べしゃりとベッドに突っ伏します。
「なんでそんな不細工になってるんだ!?」
なんて失礼な人でしょうか!? でも、今日はあまり怒る気力がわきません。声も出したくありません。
『のどが痛いです』
「のどっ!? とにかく医者っ。て、人間のでいけるか!? 獣医呼ぶか!?」
獣医てどうなの…。
あぁ、突っ込みも弱いですよ…。
グレンは手近のベルを引っ掴むと、滅多に鳴らしたことのないそれをこれでもかと思い切り鳴らし、どこからか侍従らしき人がゆったりと部屋に入ってきた瞬間、朝の挨拶もお辞儀も遮って叫んだ。
「医者を呼べ!」
医者になどかかったことない神竜の焦った叫びに侍従は驚き、足をもつれさせながら部屋を飛び出していった。
もちろんこれが大騒ぎにならないはずはなかった。
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「神竜様がご病気とは真で・・ぐはっ!」
のどの痛みが熱を持ったのか、ぼんや~りと視界で開いた扉を見たが、声がしたはずなのに人がいない。
『グレンさ~ん?』
「ここにおるぞ。少しうるさいのは気にするな、医者以外は排除するだけだからな」
排除ってなんでしょね…?
「さ、お嬢様、口を開けてください」
いつの間にか傍にいたらしい人が顎に手をやり、あんが~と口が開かれる。
「あぁ、腫れてますね。これは痛いでしょう」
「何の病気なんだっ? 風邪か?」
どうやら傍にいるのはお医者さんのようです。まさか私、初めての風邪をひいたのでしょうか。でも、潜伏期間を考えると生まれた瞬間に菌をもらっていることになりますよ? まさかクロちゃんに移された?
それともフィーラでしょうか。魔獣の病気って移るんですかね?
医師は聴診器を置くと、カバンから草をすりつぶして作り出す丸薬をいくつか取り出し、リーリアの体格に合った量にするために刻んでいく。
「グレン、救護室に貴族達がはいりきらなくなったから止めてくれって言われたんだけど?」
いまもドアのところで倒れている男をひょいっと避け、ウィルシスが顔を出す。
「お前はそこから立ち入り禁止だ。病人には安静が必要だからな」
「病人? て、リア!? ちょっと、どういうことだ!? なんでリアが病気」
病人(病竜)に気が付いたウィルシスが近づこうとしたところでグレンの喉から低い威嚇音が出され、ウィルシスはぴたりと足を止めた。
竜の血が濃くても、本物の竜と争えば分が悪いのは目に見えている。特にグレンは戦闘に特化しているのだ。普段温厚でも、戦闘となると鬼神のごとくである。
だが、リーリアが心配なのも確かで、焦るようにその場で足踏みする。
「お二方ともあまり騒がれないように。お嬢様の熱は疲労から来るものでしょう。喉の痛みは推測ですが、初めて声をお出しになったのが昨日で、一晩中泣いていたというので痛めたのでしょう。薬を飲んで安静にしていればすぐ回復しますよ」
声が出ないため、グレンがリーリアから念話で聞き取ったものと、昨日の状況をグレンから聞いて診察を下すと、医師は薬を3日分ほど用意してグレンに一礼後、部屋を出て行った。
ほっと息を吐いた二人の男が、次に騒々しく姿を現した国王陛下その人を、一瞬で沈めたのは言うまでもない…。




