18話 神竜ツボに入る
「神竜にとって古竜なんてものは信仰の対象でしかない」
あ、そういえばクロちゃんがそんなことを言ってましたね。絶滅した竜の祖だから奉られた的なこと。
「見つかれば神竜のジーさん達が雪崩れ込んでくるだろうからな、できれば穏便に事が進むよう竜王陛下に掛け合ってみるが…」
私はアルノルドの腕からとぉっと飛び降りると、そのまま翼をパタパタさせながら机の前に立ち、床を強く蹴り、翼をさらにバッタバッタ動かし、机の端に手をかけて必死に上がろうともがいた。
ぬぐぉ~っ、唸れ私の上腕二頭筋~!(であってるかはわからないけど)。
短い脚の先をテーブルに乗せ、さらによじ登ろうと四苦八苦。はっと我に返ったアルノルドによって机の上に乗っけられると、額の汗(浮かんではいないが)をぬぐう仕草をしてから改めてお辞儀した。
『リーリアと言います。生まれたてです。エルフに育てられました。現在宿無し、職無し、お金無しです。できればお仕事をしたいのですが相談はグレン様にということでここに来ました』
呆気にとられたグレン様の顔。なんだかこんな顔ばっかり見てますね。確かこの方人間に変化した竜のはずですが、竜って以外と表情豊かなんですねぇ。
「古竜だよな?」
『皆さんにそう言われます。これ以上大きくならないそうです。あとは兎にも勝てない最弱竜だそうです』
「最弱?!ジーさん達は竜の祖は全てを圧倒する能力を持っていたといってたぞ?」
誤報ですかね?私は首を傾げます。
『魔法防御と物理防御は高いそうです。攻撃全般はだめです。非力です。風邪だってひけるか弱さです』
グレン様はしばらく私をじーっと見た後、突然「ぶっ」と吹き出しました。
「そういうことか…」
『どういうことですか?』
首を傾げれば、グレン様は私の頭を撫で繰り回します。髪がなくてよかったです(禿というわけではないですよ!?)頭ぐしゃぐしゃの刑は免れました。
「要は、古竜を知るジーさんのじーさん達は、自分たちの祖先がひ弱だと子供に言えなくて誇張して伝えたってことだ。それが絶滅してるもんだから信仰の対象になったんだな」
大体は想像通りですね。神竜側にしてみれば真実は小説よりも奇なりてことです。
「竜王陛下にはその辺も報告しておこう。うまく取り計らってくれるはずだ。で、アルノルド、お前は古竜と知らず連れてきたわけだが、竜舎で飼うとか、育て方がわからんとか言う話ではないな?」
「えぇ。できれば彼女をウィルシス総隊長から保護していただきたく」
「ウィルシス?会ったのか?」
「いえ、出発前に運命を連れてこいと言われまして」
「ぶふ! 運命! そういやあいつ古竜の血が強かったな! 確かに運命だ!」
何やらものすごくおかしいらしく、グレン様は机をバンバン叩いて腹を抱える笑いっぷりです。
机を叩かれる度にお尻が跳ねてじんじんします。
「と…来たぞ」
『何がですか?』
「お前の運命だそうだ」
扉を示され、くるりとむけば、扉ははずれそうな勢いで開き、これまたゴージャスな美形が部屋に飛び込んできました。
銀髪に真紅の瞳の魔道士風の方です。
グレンさんは彼を見るなり笑いをこらえてプルプルしています。
「報告にこいって言ったのになぜここにいるのかな、アル?」
アルノルドの眉間が寄りました。苦手そうな雰囲気が漂ってきますよ。
「申し訳ございません。最優先事項がありましたので」
「僕の運命より最優先のことはないはずだけどな」
「ぶふぉっ!」
ついにグレン様が噴出しました。
男性は不服そうにグレン様を睨みます。
「そこは何をそんなに受けて…」
ちらりと動いた視線が私を捉えました。
あ、目が合いましたね。手を振っておきましょうか?。
ふりふりふりふり
「や、やめろ! 俺を笑い殺す気かっ!」
グレン様の笑いのツボなんて知りませんよ。とりあえずご挨拶してるだけです。
男性はグレン様に怒るでもなく、ふらふらと寄ってきたかと思うと、腕をフルフルと震わせながら持ち上げ、次の瞬間。
「やっと逢えた、僕の番!」
むぎゅ~ッと抱きしめました。
あ…止まりましたよ、グレン様の笑い。
リーリア『なんだか扱いがひどくないですか?』
アルノルド「・・・・・」




