14話 目指せ王都
「チェル、遊んでないで準備を」
アルノルドに静かに命じられると、UFOは…じゃなかった、チェルシーは再び元の位置にふわりと舞い降りてゼファーを睨んだ。
「ゼノとゼファーが馬を砦に帰してくるべきよ」
「ちょっと待て、俺がか?」
ゼノはぎょっとして抗議するが、チェルシーに肯かれ、アルノルドに「そうだな」と呟かれると、がっくりと肩を落とした。
飼い竜の不始末は主の責任とかなんとか。軍の規律を破るのはどうとか、厳しい世界ですね。
「二人ほど一緒に連れてくぞ~」
ゼノはなぜか手をわきわき動かして同行させられる騎士を捜し、隊士の皆さんに近づいていくのですが、ものすごく変態チックに見えるのは私だけでしょうか?
隊士の皆さんも「寄るなー」などと騒いでおられるのでやはり変態ですね。
ゼノの起こす騒ぎを完ぺきに無視し、アルノルドさんは私を抱えたまま軽いフットワークでチェルシーの背に乗ります。首の根元辺りが指定席のようです。
ばさばさという翼の音がして周りを見れば、小型の竜がほかの隊士の皆さんをその背につけた鞍に乗せておりました。
『アルノルドさんは鞍はいらないのですか?』
「アタシが落とすわけないじゃない~、精霊種よ」
返事はチェルシーから聞こえました。
振り返ってみればゼファーにも鞍はないようです。
『飛龍と精霊種の違いですか?』
「そう。え~と、そうねぇ、こう覚えればいいわ。念話も会話も成立する竜種は上位種。主に竜族と呼ばれるわ。それに対して念話すら片言でしかできないのが下位種。竜とだけ呼ばれる動物よ。彼らの場合は乗ってる騎士が制御するの、私たちの場合は私達が考えて主に寄り添うの。だから突然落ちた、みたいな時にすぐ対処できるのよ。ま、飛龍にも主が好きで常に気を配ってるのがいるけど、やっぱり知能の違いかしら」
まわりでグギャ~ゲギョ~と飛龍達が声を上げております。私には「ブーブー」というブーイングに聞こえましたよチェルシーさん…。
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ゼノがゼファーに乗り、隊士と盗賊を乗せた飛龍二頭と共に馬を追い立てながら、おそらくは砦があるでしょう方向へと誘導するのを見送った後、私達はアルノルドの号令で、セルニア王国首都セレイルに向かいます。
団体飛行で約1時間ほどの距離にあるそうです。近いのか遠いのかよくわかりませんね。
『アルノルドさん、私バイトがしたいのです。首都には私でもできそうなお仕事ありますか?』
希望がついえたならば再び仕事の女と化すのです。もしかしたら、「竜でも愛してるよハニー」なんて人が現れるかもしれませんのでできるだけ人と接触を持つべきです。
新たな決意を胸に尋ねれば、アルノルドはじぃぃぃっと視線を私の後頭部に向けてきます。
飛行中は怖いので前を向いてますが、この方の視線はビシバシ感じますね。
「…先にグレン様に会ってからにしよう」
今一瞬間がありましたよ!? 仕事なんてできるのか?的な間が!
『こう見えてご飯は作れますよ? 森の薬草も教えてもらったので、森の薬草採取とか、冒険者ギルドなんかの依頼もできますよっ?』
あたふたしながら自己アピールして、ふと考えます。そう、冒険者ギルド!
実際冒険者ギルドがあるのかどうかは謎ですが、ファンタジーの世界にはありのはずです。
あ、そしたらば、冒険者として名を上げるのもありですね。異世界の醍醐味です。いつかは勇者様に…。
なれませんね。よく考えれば私、超低スペックな竜でした。
いやっ! まてまて、待ってください。そういえば私、罠で猪を仕留めております! ここはレベルを下げて職業盗賊でいけるのではっ?
…無理ですね、そういえば逃げ足鈍足でした。
自己ボケ突込みを繰り返し、ずずぅう~んと打ちひしがれると、アルノルドの手が頭を撫でてくれます。
何も言ってないのに優しいですね。
キュルワァと声が出ます。
「冒険者ギルドは無理だろうが、話せるようになれば殿下方の話相手もできるだろう。まだ子供なのだから小さいことから始めればいい。グレン様なら相談に乗ってくれるはずだ」
やはり私の提案した仕事は無理そうなのですね…グスン。
『グレン様って誰ですか?』
仕事の話題は後にしましょう。
「グレン様はセルニア王国の守護竜。この国では唯一の神竜だ」
出ました神竜様!
人型に姿を変えられるという竜族の最上種ですね! 俄然やる気(何のかわかりませんが)が出てきました。
びしりっと指を向かう先へと向けます。
さぁ、皆さん、全速力で目指せ王都はセレイルですよ~!
チェル『全速力で向かうと息ができなくなるわよ?』
リーリア『・・・できるだけ急ぎでお願いします』
チェルのスピードはマッハですかね? 風除けの人間の結界なんてぶち破るスピードです。




