12話 衝撃の新事実!?
野営地での翌朝。まだ夜も明けきらぬ時間帯。リオン君と一緒に床についた私は人の足音にぱっちりと目を覚ましました。
「あ~、だれか結界張っとけ~」
気だるげなゼノの声が命じるのと同時にテントから這い出れば、突如突風に見舞われ、そのままテント内に転がり戻り、さらにはテントを支えるロープが外れて私とリオン君は崩れたテントにもみくちゃにされました。
「まだ起きるには早いだろゼノ!」
「またお前んとこか!」
「はた迷惑な主従め!」
なにやら外は同じような目にあった騎士達の苦情が飛び交っております。
私とリオン君はテントを体からどけて何とか起き上がり、リオン君は大きなため息を、私は口をあんぐりとあけて目の前に降り立つ巨体を見ておりました。
バ、バハムートが降臨した。
数々のゲームやらに登場するような巨大で威圧的な黒に近い紺色の竜。その体躯は私のぽよぽよお腹と比べるべくもなく引き締まり、鋭い爪、尖った牙、天を指す角など、まさに竜の中の竜的な姿をしておりました。
『迎えに来てやったにひどい扱いだの』
念話がこの場にいる全員に響きます。
「おぉ、悪いな。他の奴らは?」
ゼノがご主人らしいですね。彼は背後の苦情と罵声をスルーしてにこやかに手を挙げて挨拶しています。
『チェルシーが夜明け過ぎぐらいに着くように調整しとったのぉ』
「さすがチェルシーちゃんっ」
「俺らの女神っ」
「それに引き替えバカゼファー」
「アホゼファー」
…なんだか、見た目は最高なのですが、残念な竜のようです。
ゼファーと呼ばれた竜は皆の非難を受け、しょんぼりと項垂れております。なんだかちょびっとだけ可哀想ですね。
『ちゃんと御免なさいすれば許してくれますよ』
ぽむぽむと私の全長よりも大きな手を叩くと、ゼファーはグフゥ~と鼻息を吐いてぎょろりとその眼をこちらに向けてきました。
黙っているとまさに竜。怖いですね。
『あ~。嬢ちゃんは何ぞ?』
『竜です』
『形はのぅ。ちと小さすぎやせんか』
確かに家一軒分は軽く超えるゼファーに比べたらバスケットボールサイズはその足でプチリといけそうな大きさですね。
してはいけませんよ?
『古竜です』
『小さいからそれはわかるがのぉ。栄養不足か?』
なんでしょうね、騎士と竜は似るんですかね。まぁ、栄養不足を言ったのはゼノでなくリオン君でしたが。
『リーリアと言います』
『わしゃあゼファーじゃ』
じっと見つめあい、会話する私達を、騎士達はテントを片づけたりしながらちらちらとみています。
手伝いたいのですが、テントを片づけようとすれば巻き込まれ、鍋などを運ぼうとすればいつの間にか鍋の中に入れられて運ばれていたのであきらめました。
私も残念竜の仲間入りです。
『ゼファーさんは人型になれますか?』
キラキラお目目で尋ねると、ゼファーは「あ~」と空気を震わす声を上げ、うるさいと騎士達に怒られました。
私のせいですね、すみません。
『んむぅ、嬢ちゃんや、人型になれる竜は神竜だけなのよ。世界で唯一、神竜種だけが人型を取ることができる。わしや、嬢ちゃんは神竜種じゃあないからのぉ、できんのぉ』
実に残念そうに言われ、私は口を開けたまま固まってしまいました。
夢いっぱい希望いっぱいのバラ色生活はどこへ!
私の頭の中の逆ハーレムその他もろもろ恋のハリケーン大作戦がガラガラと音を立てて崩れました…。




