10話 ごあいさつはお辞儀で
気絶はしてませんよ。でも、リオン少年には申し訳ないことはしました。
乙女の口からは何があったかなんて言えません。たとえ乙女の年齢を過ぎていると突っ込まれようとも言えません!
と、いうことで、戦闘終了後、私は恐怖の赤からは逃げまくり、リオン少年の頭にしがみついて唸る吠えるの威嚇を繰り返し、ようやく騎士団の天幕の一つにて落ち着きました。
「結局俺も水浴びさせられたよ」
リオンがぶちぶちと文句を言いつつ髪をふきふき天幕に入ってきます。
「竜には敬意をってのがうちの隊の身上だからな。しゃあねぇ、しゃあねぇ」
続いて入ってきたのは諸悪の根源。紺色の髪と同じ色の瞳、ひげもじゃで体格の良い熊男。
村で盗賊に挑戦的な態度だったゼノとかいうおじさんです。
「珍しく隊の者が身なりを気にすると思ったら、お前たちが原因か?」
さらに続いて入ってきたのは、長身で長い金髪、瑠璃色の瞳、服を着ていても無駄のない締まった身体つきをしているとわかる偉丈夫。
どストライクど真ん中―!
力強く床を蹴ると、そのまま彼の足元まで飛び、気づかぬ彼に「ピッキャ、キュッピッ」とアピールしてみた。ちなみにセリフにするなら「こっち向いておにーさん」だ。
男は奇妙な音に気が付いて視線を下げ、ぴたりと動きを止めた。
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「おい、氷の隊長がうごかねぇぞ」
「えぇと、驚いてるんですよね。初めて見ました」
外野が何やらひそひそ言っているが、私は彼と見つめあうのに必死です。
最初の数秒はドキドキだったんですが、現在は目を逸らしたら負けだ~っ的心理に陥ってます。なんでしょうこれ。蛇に睨まれた蛙?恐怖は無いですが。
空気が動いたのは、ありとあらゆる緊張を破るかのような
ぐぐぐぅぅぅぅぅ~
私のお腹の音によってでした。
穴っ、穴ください!もうそこから出てこないから!
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野営中のセルニア王国騎士団第3隊、青竜騎士団。
彼等のお夕飯を分けていただきました。満腹です。
彼等騎士団は、隣国の国境に近い砦に短期間の視察を兼ねた訓練に来ている最中で、村の近くを通ったのは、野外訓練の帰りの途中のことだったそうだ。
『偶然てすごいですね』
離れたところで縛られたまま干し肉を分けてもらっている盗賊をちらと見やり、目の前の火へと視線を向けると、頭を優しく撫でられる。
「中央の騎士団の目は、普段地方には向きにくい。偶然でも役に立てたのなら幸いだろう」
『そうですね』
ところで、なぜ私はあの超どストライクの美形隊長さんの脚の上に座って撫でられているのでしょうか??先ほどから隊員の皆さんの視線が痛いのですが。
「アル、全員揃ったぜ」
ひげもじゃのゼノが隊長さんに隊員が揃ったことを報告すると、彼は頷いて私を見下ろした。
「まずは自己紹介だ。私はアルノルド。青竜隊隊長だ」
優しい眼差しと笑顔は女殺しの証ですね。わかります。なぜならここでも元枯れた女が悶絶寸前でございます。
必死に耐えました。いまだかつてない必死さでプルプル震えつつ冷静であるかのように見せましたよ。
「俺はゼノ。青竜隊の副隊長だ。で、めんどいから続けていくぞ?」
声をかけられてちょっとホッとしました。視線をゼノの方へ向けます。
何が面倒なのかと思いきや、ゼノは青竜隊二十数名を一気に紹介し、唯一の見習いであるリオンまでいくと、どうだとばかりに胸を張った。
覚えられません!おいおいでいいでしょうかね?
『リーリアです。生まれて6日目です。よろしくお願いします』
ぺこりと頭を下げて挨拶をしたのは悲しいかな、日本人の性ですね。




