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エピローグ ~伝説の樹の下で~



「好きですっ! こな雪のことが、大好きですっ!!」

 前半は勢いに任せて力一杯、後半は溢れ出す想いを乗せてさらに強く、僕は叫んだ。

「俺は 大 嫌 い だ」

「相変わらずひどい!」

 なんという絶望的な展開!

 ついに僕の101回目のプロポーズまで失敗に終わってしまった!

「つーか、101回もプロポーズしてんじゃねぇっ!!」

 僕の嫁がなんか言ってる。

 ……ふう。まったく、ほんとこな雪は素直じゃないな~。

「そっか……そうだよね……。もっと暗くて静かな場所じゃないと、こな雪もその『ツンデレ』という名の鎧を脱ぐことができないよね……」

「ああ……そうだな……。できればもっと暗く、静かで、人目に付かない場所へ連れて行ってくれ。そしたら、安心してお前を殺せるから」

「こなツンデレがヤンデレへ進化しようとしている!?」

 は、早くBボタンを押さないとっ!!

「あ、いました! ゆーと先輩~! 夏原先輩~!」

 トテトテと日向ちゃんがこちらへ走ってきている。

 後ろには灯の姿も。

 新しい相談者でも来たのかな?

「くっ……。そうだぜ、俺……! いつまで経っても、待ってるだけじゃ前には進めない……勇気を出すんだ、俺!!」

 隣でこな雪がぶつぶつと独り言を言っていた。

 なんだろう? ついに僕の嫁になる決心がついたのかな?

「ひっ、日向さんっ!」

 日向ちゃんが僕達の所まで来ると、こな雪が目をぎゅっと瞑って声を上げた。

「はい。なんですか?」

「お、俺……俺と、その……っ! つ、つつつつつ……」

「つ? なんでしょうか?」

「~~~~~……っ!! 俺と、付き合ってくださいーーーーー!!」

 目を閉じたまま頭を下げ、右手を差し出すこな雪。

「夏原先輩……」

 正面の日向ちゃんが、優しくこな雪の体を起こす。

 そして、恐る恐る目を開いたこな雪に……満面の笑みで返事をした。

「その言葉は、ゆーと先輩に言ってあげてください」

「……うわーんっ!!」

 マジ泣きだった。

 美少女とはいえ、生物学上は男子高校生に分類される人間が、全力で男泣きしている。

「あ。ゆーと先輩。そういえば、そろそろひなは死んじゃうかもです。今度、日曜に新しくオープンするカフェのケーキをいっぱい食べないと、死んじゃうかもです」

「死んじゃうのは僕だぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!」

 死因・栄養失調で!!

「……ゆめんちゅ、マジ殺す……!!」

「なんで!? ただでさえ死にそうなのに、なんで何もしてないこな雪からも、殺意を向けられてるの!?」

 悲しすぎるわっ!

「……夢人。あ、あたしもそろそろ、し、死にたいっていうか……」

「髪弄びながらディープな発言すんのやめてくれる!? なに赤面してんの!? 灯もそんなに僕を殺したいの!? うわーん! 僕達の友情はどこへーっ!!」

 後からやって来た灯も、そんなセリフを吐く。

「夢人先輩、私も殺s――死にたい、です」

「嘘つけっっっっっ!!」

 いつから居たのか、桜の樹から下りて来た刀子ちゃんに全力でツッコむ。

 これほど『死にたい』宣言の似合わない人間も珍しい。

「ゆめんちゅ先輩、わたしも死にたいです! だから、わたしと灯先輩のデート費用をくださいっ!」

「最早、僕自身すらいらないだと!?」

 由梨ちゃんが灯の腕に抱きつきながら(純白)、僕に脅威の要求を告げる。

 僕のお金なのに、僕は遊べない&食べれないって一体……。

「夢人のアニキ。死にたいくらい、あなたの傍にいたいです」

「……うん。嬉しいんだけど、ぜひ『友達として』、一緒にいてもらえないでせうか……?」

 桜の樹の後ろからは歩が。

 日向ちゃんが「ゆーと先輩×早川さんキターーーーー!!」と、ガッツポーズしている。

 そして、どうでもいいけど歩。君はほんと、制服を着ないよね。今日も私服だね。

「ゆー君。私、ゆー君と結婚したいです」

「なにそのストレートな告白! 人生単位で僕の食費を――いや、マジでしたいんですね、わかります。わかりますから、お願いだから涙目にならないでください……」

 いつの間にか近くにいた蛍が、公然とプロポーズ。

 普段、僕のこな雪への求愛もこんな風に見えているんだろうか……。

……うん。少しだけ、自重しよう。

「残念だが諸君! ゆめんちゅ少年はこれより、私と付き合うのだっ!!」

 わいわいしていたメンバー全員が沈黙。

 この学園で最もやっかいな、黒髪真紅ドレスの姿が、そこにはあった。

「ふっふっふ……まさか忘れてはいまいな、ゆめんちゅ少年? ほれ、これだよ。こーれ」

 そう言って学園長が突き出したのは、一枚の写真と請求書。

 なんだこれ?

 天井が凹んだ派手な紅い車に、その修理費と思える請求書――って、これ、まさかっ!?

「……思い出したようだな。そう! これは、蛍少女の第一回目の屋上ダイブを食い止めた際に出来た、名誉の負傷だっ!」

「不名誉過ぎるわっ! ていうか、本当に『名誉の負傷』にしてくれるなら、どうにか学園経費で賄ってもらえませんかねえっ!」

 今、マジで金ないんで!

「そんなことはできないよ……この学園の経費は、君達の親御さん達が汗水垂らして必死に稼いでくれた、努力の結晶なのだからね……」

 学園長がキレイな顔でそう言っていたが……この人にとって、これほどまでに白々しい表情もない。

 たとえ陰でどれほど不当に経費を乱用していようとも、この場面では同じセリフを発するに違いないからだ。

「というわけで請求だ、ゆめんちゅ少年。残念だが、私はどこかの教頭みたく保険会社に土下座したり、諦めて泣き寝入りしたりするようなタマじゃないぞ?」

 ニヤッ、と悪どく笑う学園長。

 ……闇金のヤクザよりも恐ぇ。

「わかりました。わかりましたが……真面目な話、今は本当にお金がないのですが……」

 財布を差し出して学園長に証明すると……一つ嘆息して、可哀想な子を見るような目をされた。

「お前……今時、高校生の全財産が502円って……いや、五円チョコなら100枚買えるが」

 五円チョコじゃ、お腹はあまり膨れませんがね。

「仕方ない。ゆめんちゅ少年は、自宅のタンスに、ユキチさん二人分ほどへそくりしていたな。とりあえずはそれで、フランス料理を食べに行こう。残りは分割払いにしてやる。……暴利だけどな(ぼそっ)」

「なぜそれを!? あと、今こっそり暴利って言いましたよね!? 勘弁してください! マジであのへそくりが最後の生命線――」

「うるさい。お金は命よりも重いのだと、どこかの金持ちが言っていた」

「金持ち、てめぇっ!!」

 お金より大切なものだって、きっといっぱいある!

 ……食べ物とか!!

「そ、そうだ、日向ちゃん! ひょっとして、LWに新しい相談者が来たんじゃないのかな? かな?」

「あ、そうでした。すっかり忘れていましたよ~」

 一刻も早くこの場を離脱するために話を振ってみたのだが、どうやら本当に相談者が来ているらしい。

「というわけで、すいません、学園長! 学園長とのデートはまた今度! いやー……ザンネンダナー、ガクエンチョウト、デートデキナイナンテー」

「待つよろし」

 慣れない口笛なんぞを吹きつつその場を立ち去ろうとしたら、学園長に肩を掴まれてしまった。(なぜかエセ中国人風に)

「まぁ、LWとしての活動を命じたのは私だからな。見逃してやろう。……それはそうと、ゆめんちゅ少年。あれから、君の夢は変わったかな?」

「…………」

 ……そうなのだ。

 LWに所属するメンバーはそれぞれ、委員会に就いた際に、どうすれば夢の実現に近づけるか学園長から直々にアドバイスを……『密書』で貰ったのだが……僕へのアドバイスは『夢を変えろ』、と一言だけだった。

 なんだかんだで生徒のことを想っている学園長に……僕は本人の真似をしてニヤリと笑う。

 そして、拳を握り、自信満々に宣言した。



「僕の夢は……友達を100人作り、『友達ハーレム』を形成することだっ!!」



「それは……無理だと思いますが……」(←日向ちゃん)

「無理だな」(←こな雪)

「無理な気がするわね~……」(←灯)

「あきらめましょう、夢人先輩!」(←刀子ちゃん)

「あきらめて、女の子になりましょう!」(←由梨ちゃん)

「アニキ……(可哀想なものを見る目)」(←歩)

「ゆー君……が、がんばって!」(←蛍)

「非ィ現実的DA!」(←学園長)

 これは一体……どういうことなの……?

「う、うるさいっ! 作るったら創るんだいっ! いつかハーレムメンバー全員で富士山に登って、ぱっくんちょと、おにぎりを食べてやるんだからぁーーーーーーーーーっ!!」

 僕は泣きながら駆け出した。


 今はまだ見えない……二次色に輝く明日に向かって。




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