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第三話 純白な想い



「僕のターン!」

 僕は、力いっぱい手札のカードを切る!

「全力で行くぜ……! 必殺・『ずっと夢人さんのターン』!!

 まずは10のスリーカード!! これにより、カードを重ねる効果が発動!!

 僕はさらに、手札から7のカード二枚と8のカード一枚を召喚!

 この時、7のカードの効果により、僕の手札にある、愛あるカード二枚を灯と日向ちゃんに一枚ずつパス!!

 さらに、8のカードの効果により、この場のカードは全て流れ、再びフリーの状態から僕がカードを出すことができる!!

 僕は2のカード二枚と、ジョーカーを召喚!!

 このスリーカードに打ち勝てる役は、この世界には存在しない!

 最後に、華麗なるスペードのAを召喚して……1上がりーっ!!」

「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!!」

 こな雪が絶叫するが、もう遅い。

 この王の力には、誰も太刀打ちできないのだよ……。

「それじゃあ、あたしの番ね。さっき夢人がくれた2のカードにあたしの2を加えて2のペア。……誰も出せないわよね? よかった~。残り5だったのよ~」

 次の番だった灯がさっくり上がる。

「うぅ……すまん、日向さん!! 勝負の世界は冷酷なんだ! 今度こそ! 今度こそ俺は日向さんを下し、せめて『貧民』の座に――」

「夏原先輩……女の子を容赦なく攻撃するんですね……」

「うぅ!?」

「女の子に優しくない男性は嫌われますよ? はい、ジョーカー」

「なんで日向さんが持ってんの!?」

「ゆーと先輩とお姉ちゃんが上がって、それでもまだ出ていないカードの内、夏原先輩が持っていないものはひなが持っているに決まっているじゃないですか」

「えぅ!? そ、そうだけどさぁ! ジョーカーなんて一番強いカードがあったら、当然最初の交換の時に――」

「お姉ちゃんは優しいので、ひなに返してくれました。『これでまた、夏原を大貧民にするように』、と」

「灯、てめえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええ!!!!!」

「さあ、夏原先輩。ひなの手札はあと二枚。実はペアです。これを防がないと負けますよ?

 ……大丈夫です。古今東西、果ては地元のローカルルールまで、全てを内容したこの大富豪では、『スペ3』と言って、スペードの3で単体のジョーカーに打ち勝てるルールがあるのです」

「そ、そうだった! スペードの3……スペードの3……な、なんでないんだ!?」

「……さっきひなが言ったじゃないですか。『ゆーと先輩とお姉ちゃんが上がって、それでもまだ出ていないカードの内、夏原先輩が持っていないものはひなが持っている』、と」

 そう言って日向ちゃんは……ゆっくりと手札をこな雪に向ける。

 そこにあるカードはハートの3と――スペードの、3。

「ま、まさか……!?」

 バッと、こな雪が僕を振り返るがもう遅い。

 7のカードの効果はもう、発動してしまった後なんだから。

「そうです……お姉ちゃんと同じく、大変優しいゆーと先輩が、先程ひなに渡してくれたのです。『もう一人のボク! これでこな雪を――!!』という願いを込めて……」

「ゆめんちゅ、てめぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええ!!!!!」

 ……だって、またこな雪と、イチャイチャカード交換したかったんだもん。

「終わりです……夏原先輩……。やはり、レディーに対して紳士的になれない男性には、生きる価値が無いのだと、ひなは思います」

「ま、待ってくれ、日向さん!! 話し合おう! 冷静に!!」

「えいっ」

 日向ちゃんが可愛い掛け声と共に、3のペアを場に出す。

 これによって日向ちゃんの手札はゼロ。勝利決定。

「イワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーク!!」

 こうしてまた、こな雪が大貧民となる運命が決定した。

「うぅ……ぐすっ……。足痛いよぅ~~~……」

 半べそをかきながらカードを切るこな雪。

 全てのルールを内容しているだけあって、今やっている大富豪は格付けにもシビアだ。

 大富豪は手すりまで付いているふかふかのイス。

 富豪はふかふかでこそないものの、いくらか素材の良い教師用のイス。

 貧民は教室でいつも座る普通のイス。

 そして大貧民は……床に正座である。

『いや、それはこな雪のキレイな脚が傷つく!!』と全力で主張した大富豪(僕)の意向により、今回は座布団を敷いているが……正座は採用したままなので、5戦連続大貧民のこな雪が大層辛いであろうことは、想像に難くない。

「ちくしょぅ……絶対おかしいよ……。なんだよ、この大富豪……。どう考えたって大富豪に就いた奴が有利になるように仕組まれているじゃないかよ……」

「いや、それが本来の大富豪のルールだしさ」

 いろいろルールを採用しているせいで、その側面がかなり強化されている気もするけど。

 少なくとも僕は、一度大貧民まで落ちたら、再び上がってこられる自信がない。

 そんなこんなで次戦に備えカードを準備していると――

「すいませーん! 相談があるんですけど――……。……。…………なんですか、その新しいプレイ!? おそらく、羞恥系の類であろうことは予想できるのですがっ!!」

 女の子としてもかなり小柄で、八重歯が印象的な女生徒が、目をキラッキラさせて入ってきた。

 その女生徒が見た光景を客観的に描写するなら、イスに座った僕達三人が、一人床に正座して半泣きになっているこな雪を見下ろしているという……なんともアレな状況である。


「まず先に言わせて貰うけど……アレはただ大富豪してただけだから! 全然やましいような遊びじゃないからねっ!?」

 やけに興奮して悦ぶ女生徒を宥めるところから、今回の相談は始まった。

「いえ! 大丈夫です! わたし、遊部由梨はエロエロですからっ!!」

 グッ、と親指を立てる女生徒、もとい、由梨ちゃん。

 ダメだこいつ……早くなんとかしないと……。

「とりあえあず、お茶でも出してあげてくれる、ひな? お茶請けは……うーん……クッキーでいい? ちょっと切らしてて――」

 相談者をもてなすためにテキパキ動く灯。

 その灯を……なんかポーっとした目で見つめる由梨ちゃん。

 ……なんだろう。

理由はわからないけど、今回もすごく面倒なことになりそうな気がするんだ……。

「……好きです」

「は?」

 なんかいきなり告白された!

 い、いやでも、こういうお誘いに対する答えはちゃんと用意してある。

「ご、ごめん。今僕は、誰とも付き合う気が――」

「勘違いしないでください。気持ち悪いですね」

「…………」

 精一杯、真摯な対応をしようとした僕を遮って、いきなり由梨ちゃんが毒を吐く。

 ええー。なにこれぇ?

「好きです、灯先輩……」

「あたしぃっ!?」

 クッキーを運んでいた灯が、あまりの事態に思わずお盆を取り落とす。

「おおっとぉ!」

 落ちる寸前でなんとかキャッチ。

 ……危ない。食べ物を粗末に扱う所だった。

「……ぷ。っくく。くくくく……」

「夏原ぁ! あんたなに笑ってんのよっ!! 声押し殺してたってわかるんだからね!!」

「ぶべらっ!?」

 灯が投げた予備のお盆がこな雪の顔面を打つ!

 ああ! 僕の嫁の美少女顔になんてことを!!

「ステキ……」

 その様子すら、キラキラした眼差しで見つめる由梨ちゃん。

 ああ……今回もこの学園特有のアレな人なんですね、わかります……。

「と、とりあえず、相談を聞きましょう。そう。それがいいわよ、きっと!」

 ぎこちない挙動で灯が会話を進める。

 どうやら、さっきの発言はなかったことにするらしい。

「こ、こほん。それじゃあ、由梨ちゃん? えーっと。相談内容をどーぞ」

「えー……はい。今はもう灯先輩のことしか考えれません……。ねぇ! 灯先輩!! 今度一緒にお風呂行きましょう!! 灯先輩のこと、わたしが洗ってあげますからっ!!」

「い、いや、あの……ええ?」

「ていうか、結婚してください。ちょー好きです。もう、灯先輩が愛おし過ぎて、男なんか目に入りません! わたし、嫁ぎますからっ!!」

 席から下り、ビシッと三つ指をついて深々と頭を下げる由梨ちゃん。

 女の子が女の子の家に嫁ぐって、今の日本でできるのかな……?

「……。……。あー……。……その。と、友達って関係じゃ、ダメ、かな……?」

 あ。

 なんか非常に聞き馴染みのあるフレーズが聞こえる。

「はい! ぜひ友達からスタートして欲しいですぅ~~~!!」

 やったぁ! とバンザイして立ち上がり、くるくる踊りだす由梨ちゃん。

 ……うん。ほんと、非常に馴染みのある光景だ。

「いや、その……! ……ごめん。友達以上の関係になる可能性は……ない、と思うわ」

 なんかめちゃくちゃ辛そうに返事をする灯。

 わかる!

 わかるよ、その気持ち!!

 こちらとしては、普通に友達になりたいんだよねっ!!(号泣)

「うぅ……。それは……やっぱり……」

 自分の告白が拒絶されたことを悟った由梨ちゃんが、横目で日向ちゃんを見る。

「……ひっ」

 ……僕からは死角になって由梨ちゃんの表情は見えなかったけど……日向ちゃんの悲鳴を聞いて、見えなくてほんとよかったと思いました。

「う……そ、そうよ! あたしはひな一筋なんだからっ!! いくら百合でも、女の子なら誰でもいいってわけじゃないのよっ!!」

 灯が顔を真っ赤にし、大声で断言する!

 なんて男らしいんだ、灯!!

 自分の特殊性癖をそこまで堂々と宣言できる漢は、そうはいないぞ!

 ……いや、灯は女の子なんだけどっ!!

「さすが灯先輩! 百合の鏡ですっ!!」

 手を胸の前で組み、恋する女の子オーラ全開の由梨ちゃん。

「そこで、LWの皆さんに相談なのですが……どうやったらわたし、灯先輩と両想いになれるでしょうか?」

「「「「…………」」」」

 無言だった。

 今期LWメンバー、全員無言だった。

 だが、みんなの心中は、同じ叫びで溢れていたと思う。

 それはつまり、「ええー!? そういう相談って、アリなのぉー!?」という感じだ。


「遊部由梨さん……。一年生で、入学時からかなり有名な……その、女の子好きらしいですねー……。好みのタイプとしては、男性のように頼り甲斐があって、面倒見のいい、優しい女の子のようです……」

とりあえず「お互いにもっと知り合うべきだ!」という強引な説得によって、一時的に由梨ちゃんを灯に任せ、その後ろで残りのメンバーが体勢を立て直す。

いつものように日向ちゃんが可愛らしいピンク色の手帳を捲りながら、僕たちに情報提供をしてくれた。

「ありがとう、日向ちゃん。助かるよ」

 助かるけど……どうしよう、これから……。

「うわー。ガッチガチだなー。やっぱりほら、全女子生徒のためにも、灯が付き合ってやった方がいいんじゃねーのか? ……ぷくく」

 こな雪が復活したらしい。

 相変わらず、天敵である灯が攻められる展開が気持ちよくて仕方ないようだ。

「いや、しかしだな、こな雪。灯は日向ちゃんが好きなんだから、それを無理矢理付き合わせるっていうのも……」

「いや、その方が俺もライバル減って助かるっていうか……(ぼそぼそ)」

「……あの時はネタかと思いましたが、お二人とも本当にお姉ちゃんが百合趣味だと思っていらっしゃるんですね……」

 うーむ。どうしたものか……。

 向こうの様子を窺ってみる。

「ですよね! ですよね!! やっぱり百合は『お姉さま』と『妹系後輩キャラ』という組み合わせがシンプル・イズ・ベストと言いますか、やはり王道こそ最強で――」

「う、うん。そうよね……(ちらっ)」

 灯が僕にアイコンタクトを送ってきた。

『た・す・け・て』、と。

 ……事前に取り決め等はしていないのに、灯の思いが手に取るようにわかる。

「……灯が限界っぽい。名案が浮かばない以上、やっぱり直接話し合うしかなさそうだ。それで、いいかな?」

「そうですね……」

「だなー。ただ、どう話し合うかは謎だが……」

 確かに、話し合う余地がなさそうな気もするが、ここでこうしていても仕方ない。

三人一緒に、決死の覚悟で戦線復帰する!

「よーし。そこまでだ、由梨ちゃん。そろそろ相談に戻ろうか」

「汚らわしい男は、この純白な結界に入らないでください」

「男の扱いひど過ぎない!?」

 さっきまで灯とは普通に話してなかったっけ!?

「特に夏原先輩、あなたはダメです。そんな女のような格好をして、男も女も両方手に入れようとする邪な人間は、絶対に近寄らないでください!!」

「辛いけど反論できねぇ!!」

 こな雪(火曜日につき祝福の女子制服ver)が、がっくりと床に膝をつく。

 おおぅ。こな雪が避けられる展開も珍しい。

「あ。そういう意味では、ゆめんちゅ先輩はアリでした。夏原先輩という『男』に猛烈アタックしている点で、わたしたちとの利害関係は一致しています。良き理解者になれそうです」

 うん……なんだろう。

 認められているのに、この虚しい感じ……。

「あ、ありがとう……。えーっと、それで……相談なんだけど……」

「はい! 灯先輩と付き合いたいです!」

 ……ですよねー。

 元気よく両手をバンザイしながら笑顔で宣言する由梨ちゃん。

 ……一応、灯に視線を送ってみる。

「こ、好意は素直に嬉しいけど……無理よ! 女の子と付き合うなんて……(ぼそぼそ)」

 後半は声が小さくなって聞こえなかったけど、やっぱり灯は、由梨ちゃんの想いを受け止められないようだ。

「……由梨ちゃん。どうやら灯は、君の想いに応えられないみたいなんだけど……」

「はい。だから、なんとかしてください」

 ……うん。そうだよね。そうなるよね。

「っく。くく……なあ、灯ぃ~。せっかくなんだから、付き合ってやれよ~」

 こな雪が顔を痙攣させながら灯に進言。

 どう見ても笑顔です。本当にありがとうございました。

「……夏原。あんたがそういう態度とるんなら、こっちにも考えがあるわよ……?」

 にごぉ……と、灯が閻魔のような笑顔で、目を光らせる。

「な、なんだよ……?」

「……いい? 夏原。もしこの相談であたしが付き合うことになったら……次に相談するのは、夢人よ!!!!!」

「「な、なんだってぇぇぇぇええええええええええええええええええええええええ!!?」」

 こな雪と同時に、僕も絶叫する!

 そうか! そんな手が――

「……由梨ちゃん。悪いが、今期のLWはとても力不足なんだ。本当に申し訳ないが、今回の相談は諦めてくれ!(キリッ)」

 こな雪が、美少女顔を無駄に引き締めて由梨ちゃんの懐柔に入った!

 すげぇ! さっきまでと180度意見を変えやがった!!

「ええー。この委員会は、夢を追う生徒を全力でサポートするんじゃないんですか~?」

「叶わないから……手が届かないからこそ、輝く夢もあるっ!!」

 このこな雪、必死である。

 うぅ……そんなに僕と友情を育むのが嫌なのかな……?

「あ、あの~……。そもそも、遊部さんはお姉ちゃんと付き合うことになったとして、具体的に何がしたいのでしょうか……?」

 今まで発言を控えていた日向ちゃんが、おずおずと手を上げながら質問する。

 そっか。そういえば、そこを聞いていなかったな。

 まさか不順異性交遊……否、不順『同性』交友的なものを要求するわけはないだろうし、ある程度のことなら少し灯が付き合うだけで――

「 一 緒 に お 風 呂 入 り た い で す 」

 ……いかん。灯の貞操がピンチだ。

「……ふう。仕方ありません。こうなったら、ひなが頑張るです」

 そう言いつつ、日向ちゃんはさっきまで僕達が遊んでいたトランプを手に取った。

「お姉ちゃんの恋人は現状、ひなです。だから、ひなを倒してから進んでください」

「ちょっと、ひな!」

 灯が焦って腰を上げるが、日向ちゃんは落ち着いた様子だ。

「先日は、ゆーと先輩ばかりに負担をかけてしまいましたからね。たまにはひなも働きます。……大丈夫ですよ。記憶力には自信があるので、神経衰弱なら負けません」

 むん、と可愛らしく胸を張って、日向ちゃんがカードを切る。

「というわけで、いかがですか? 遊部さん。ひなを倒せたら、なんでも言うことを一つ聞いてあげるです。その代わり、ひなが勝ったら、お姉ちゃんは諦めてください」

「でも、隣道さんを倒したからといって、灯先輩が付き合ってくれるわけじゃあ……」

 由梨ちゃんが戸惑う。

 確かに、由梨ちゃんが勝ってもあまりメリットは――

「……ひなは、お姉ちゃんと一緒にお風呂に入ったことがあります」

「ッ!?」

「その時、お姉ちゃんのお背中を流してあげたのですが、お姉ちゃんって、とってもお肌すべすべなんですよ~?」

「ひ、ひなっ! いつの話してるのよっ!! 最後に一緒にお風呂入ったのは、小学生の頃でしょう!?」

 真っ赤になり、大声を上げる灯。

対照的に、由梨ちゃんは俯いて黙ってしまった。

 ……ちなみに、こな雪はなぜか、ティッシュで鼻を押さえている。

「――倒します」

 こ、怖い……。

 顔を上げた由梨ちゃんの瞳が、暗く輝いている。

「では、勝負は神経衰弱です。ひなから行きますね」

 話しながらカードを並べていた日向ちゃんが、手近のカード二枚をめくる。スペードの3と、ハートの3。

「これはツイていました~」

 ニコニコ笑顔で早速一組目ゲット。

 だけど……今のペアは確か……。

 思うところがあって日向ちゃんを見つめていると、僕の方を向いて、悪戯っぽく舌を出して笑った。

「当たったので、続けてひなが行きますね。これと……これ。わ~! 偶然にも、また揃っちゃいました~」

 ……やっぱり、そうか。

 さっきのペアは大富豪の最後、日向ちゃんが持っていたものだし、今の2のペアは灯が最終局面で出したもの。

 どうやら日向ちゃん、ちょっぴりイタズラしているようだ。

「次もひなですね~。これと~……これ! あ~……さすがに外れちゃいましたか~」

 そう言って笑う日向ちゃんは、どこか余裕がある。

 あえて相手にターンを回しただけで、仕掛けはまだまだあるみたいだなぁ……。

「それでは……わたしの番ですね」

 由梨ちゃんが暗い瞳でカードを見据えているけど、この勝負はもう見えた。

 どう考えても、事前に準備をしている日向ちゃんが有利だ。

 ほんと、頼りになる後輩だなぁ~……なんて、思っていると。

「クラブの5と、ダイヤの5です。続けます」

 ……。

「スペードのQとクラブのQです。またわたしです」

 …………。

「Aのペア。次行きます」

 ………………。

「6が二枚。また当たりました」

 ……………………。

 いやいやいやいや!

「ちょ、ちょっと待って! なにこれ! ねえ、どうなってるの!?」

 僕が慌てて声を上げるが、誰も何も言わない。

 仕掛けをした日向ちゃんすら、ちょっと冷や汗をかいているようだ。

「……見えます。わたしには。カードの絵柄が――」

 由梨ちゃんが暗い瞳のまま、続けてKのペアを当てる。

こ、これはもう、日向ちゃんと同じく、何かしているとしか……!

「……愛の力です。灯先輩とわたしの、奇跡です!」

 僕達4人が思っていることを察したのか、由梨ちゃんが声を上げる。

 ……うん。仮にそうであったとしても、その暗い目で言われてもなぁ……。

「な、なあ、灯。由梨ちゃんが何かしているように見えるか……?」

「み、見えない、わね……。カードをめくる前にも、どれをめくるか悩んでるみたいだし……。あれが演技だとは思えないわ……」

 ま、マジか……。

 刀子ちゃんと同じく、またチート能力者なの……?

「あと、三枚ですね」

 そうこうしている内に、由梨ちゃんがほとんど全てのカードを連続でとったまま、最終局面に突入した。

 ここまでのターン数、日向ちゃん一回、由梨ちゃん一回(継続中)。

 ……なにこの超ハイレベルな神経衰弱。

 衰弱する神経の種類が違うと思うのですが……。

「まだ……勝負はわからないです。この神経衰弱では、ジョーカーを引いた場合、お互いが今までとったカードを交換するルールがあります。だから……」

「――最後に残っているのは、ダイヤのQとハートのQ。それをわたしが、とれないとでも?」

 ……百合パワーですか? わかりません!

「これと……これぇっ!」

 そうして、めくった二枚は、先刻の宣言通りQのペアだった。

「フッ……貴女は、灯先輩に相応しくありません」

「……悔しいですが、ひなの負けです。なので、ひなに何でも命令して、今日はお引取りを――」

 おお!? さすが日向ちゃん!

 負けても事態が収束するように考えていたのか!

「断る。倍プッシュだ」

「どこのア○ギさん!?」

 由梨ちゃん、キャラ変わってない!?

「いいんですか、灯先輩? わたし、隣道さんをおいしく頂いちゃいますよ? ……もちろん、お風呂的な意味で」

「ひ、ひな……!」

 ええー。なにこの超展開ー。

「ま、待て待て! 日向さんに手を出すなんて、俺が絶対許さねぇ!」

 後ろから、ティッシュを投げ捨てつつ、こな雪が前に出た。

「今度は俺が相手だ!」

「いいでしょう……。わたしが勝ったら、夏原先輩にも命令を聞いてもらいます」

「いいぜ。その代わり、もし俺が勝ったら――」

「ええ。隣道さんと一緒に、お風呂に入る権利を差し上げます」

「日向さんと!? ぶべらっ!?」

 灯が投げたお盆が、再びこな雪の顔面を打つ!

 もうやめてぇ! こな雪のライフはゼロよーっ!!

「あの……ひなは一体、どちらを応援すればいいのでしょうか……?」

「ひ、日向さん! 俺がそんな命令するわけないだろう! 俺を応援してくれ!!」

 そう言うこな雪は、なぜか顔に悲しみを滲ませていました。

「それでは、勝負はどうしますか?」

「おう。シンプルにババ抜きでどうだ?」

 ……ん?

「おい、こな雪。ババ抜きって……相手はカードが透けて見えるんだぞ?」

「だからババ抜きなんじゃねーか。神経衰弱だと連続してプレイされるけど、ババ抜きならターンが交代制だろ?」

 う、ん……? そう、なの、か……?

 何か勘違いをしているような……。

「じゃあ、始めましょうか」

 なんとなく疑問が解消されないまま、由梨ちゃんがカードを切り、自分とこな雪に配る。

 そして、手札オープン&整理。

 こな雪が8枚、由梨ちゃんが9枚になった。

 一見こな雪が有利っぽいけど……。

「じゃあ、手札の少ない俺から引くな。よっと……お。当たりだ。まぁ、二人しかいないんだから当然だけどな~」

 笑いつつ、手札を由梨ちゃんに差し出す。

 由梨ちゃんが引き、当然できたペアを捨てる。

これで残りはこな雪が6枚、由梨ちゃんが7枚。

「よっと……ほい、9のペア。どうぞ」

「…………」

 由梨ちゃんもペアを捨て、残り4枚と5枚。

 なんだ、ほんとに楽勝じゃん――なんて、僕が思った矢先。

「げっ。ババ引いちまった……」

「!!?」

 その時、夢人さんの頭に、電流、走る!

「……ふ。ふふふ……やってしまいましたね、夏原先輩……」

 暗い瞳で由梨ちゃんが笑い、ババじゃないカードを引いて、できたペアを捨てる。

 これで残りはこな雪が4枚、由梨ちゃんが3枚。だけど――

「……。……あ。あああっ!?」

 こな雪も気づいたらしい。

 こうなってしまっては、もう、先ほどの神経衰弱と同じことだということに!!

「残念でしたね、夏原先輩……。そう。夏原先輩が勝つには、最初の段階でわたしにババが行き、そのまま一度も引かずに勝負を終えるしかなかったのです……」

 暗い瞳で手札を差し出す由梨ちゃんから、こな雪が震える手でカードを引く。

 当然、できたペアを捨てる。

 次は由梨ちゃんの番だが……こちらも、まるで〝当然〟のように、ババ以外のカードを引いてペアを捨てた。

 残りの手札は――こな雪が2枚、由梨ちゃんが……1枚。

「さあ、どうぞ? 遠慮なく引いてください、夏原先輩。大丈夫ですよ。ちゃんとペアはできます。ババじゃないですよ?」

 嫌いなこな雪をいじめるのが余程楽しいのか、由梨ちゃんがサディスティックな笑みを浮かべながらカードを差し出した。

 ……あの。前半の明るい由梨ちゃんはどこへ……?

「すまねぇ……日向さん……! 無念だ……!!」

 こな雪が泣きながら最後のカードを引き、勝敗が決した。

「……てっきり、それは普通に予想できているのだと、ひなは思っていましたが……」

「そうよね。あたしもてっきり、夏原に何か秘策があるんだと思っていたけど……まさか、本当に手ぶらのバカだったなんて……」

 隣道姉妹が可哀想なものを見る目でこな雪を見つめる。

 やめてあげてぇ! もうこな雪のライフはマイナスよっ!!

「お、おーし! それじゃあ、そろそろ真打登場、かな?」

 色んな意味で涙を流し続けるこな雪を見ていられず、腕まくりをしながら僕が席に着く。

「いいでしょう。もしゆめんちゅ先輩が勝ったら、隣道さんとお風呂に入る権利と、夏原先輩を市中引き回しにする権利を差し上げます」

「……(ぽっ)」

「ちょっと待て! 俺の命令、ひど過ぎない!?」

 こな雪が絶望的な表情で床から起き上がる。

 ……大丈夫だよ。心配するなって。

「もし僕が勝っても、日向ちゃんとお風呂の権利は灯に譲るよ。その代わり僕は、こな雪とお風呂に入る!」

「な、なんだってぇーっ!!」

「……さすがです、ゆめんちゅ先輩。それでこそ同志!」

「待て待て! これじゃあ俺、どっちにしろ死刑じゃねーかっ!!」

 もぅ、こな雪ったら、照れちゃってぇ~。

「勝負は、どうしますか?」

「夢人。わかってるとは思うけど、慎重に選びなさいよ? 間違っても夏原みたいなバカは勘弁してよね……。次はあたしなんだから……」

 チクチクとこな雪を攻撃しつつ、灯が助言。

 そうだな……。確かに、カードが透けて見えるアドバンテージは封じないと。

「……よし。勝負方法は、ポーカーにしよう。3回勝負でどう?」

「……いいですよ」

 ポーカーなら運勝負だし、たとえ僕の手札が分かったところで大きなアドバンテージにはならないだろう。

 勝負も3回にしたし、これで何か不測の事態が起きても対処できる。

「そんな作戦で大丈夫か?」

「大丈夫だ、問題ない。(ドヤッ)」

 ……なにか、死亡フラグが立った気がする。

さておき、灯にディーラーを頼んでゲームスタート。

 ポーカーにも色々なスタイル・ルールが存在するけど、今回は手札を5枚もらって、好きな枚数のカードを一度だけ交換できるようにした。

 最初の手札は……。

「くっ……」

 まずい。バラバラだ。

 ひどすぎる。どう考えても、勝てる見通しがない。

 かくなる上は――

「灯、4枚チェンジだ」

 僕は手札のAだけ残して、残りを全て交換する賭けに出た。

 交換した結果は……たまたま一緒に来た2が2枚で、ワンペア。

「わたしは1枚でいいです」

 なん……だと……。

「「オープン」」

 僕 → ワンペア。

 由梨ちゃん → ツーペア。

「うぐっ……次だ、次!」

 二戦目。

 配られたカードは……。

「…………」

 よし。今度は行ける。

 Kが2枚に10が2枚で既にツーペア。

「灯、1枚チェンジ頼む」

 来たカードは3。

 だけど、これでツーペアだ!

「わたしは、ノーチェンジで」

 な……に……。

「「オープン!」」

 僕 → ツーペア。

 由梨ちゃん → フルハウス。

「ば、バカな……。由梨ちゃん、ひょっとして運まで急上昇中……?」

「灯先輩の、愛の力ですっ!」

 ちらりと灯に視線を送ると、首を横に振っていた。

 どうやら、マジで公平にカードを配ったのに負けたらしい。

単純に運が無かったか……。

「それじゃあ、今回もわたしの勝ちですね」

「おっと。勝負は3回だっただろう?」

「? そうですけど……。もう2回勝っていますし」

「ルールだよ。さ、もう1回」

 不思議な顔をする由梨ちゃんを席に戻し、もう一度勝負。

 ……卑怯だけど、奥の手だ!

 頼む! いいカードよ、来てくれ!!

 配られたカードは――

「……由梨ちゃん、レイズだ」

「レイズ?」

「そう。ポーカーにはね、カードが配られた後、賭け金を上乗せできるルールがあるんだ。僕は、先ほどの勝利2回分ほど、賭け金をレイズする!!」

 ……完全に屁理屈だった。

 だけど、ここは無理矢理にでも押し通らさせてもらう!

「勝利2回分……つまり、この3回目の勝負でわたし達の勝敗が決まるということですか」

「そう。もっとも、もし由梨ちゃんが勝てたら、それなりの報酬を差し出すさ。そうだな……たとえば、僕への命令は一回じゃなくて、これからずっとでもいい」

「……つまり、ゆめんちゅ先輩に全ての男子生徒を落としてもらうことも可能だと?」

「僕に何を命令する気なの!?」

 驚異の要求にちょっとだけ動揺したけど……要は、負けなければいいのだ。

 今回の僕の手札はかなりいいし、まさか3回連続で由梨ちゃんが勝つこともないだろう。

「う、うん。まぁ、どんな命令をするのかはさておき、命令に永続効果をつけるという条件でどうだろう?」

「一つ確認しておきますが、このゲームで一番強い役は、ロイヤルストレートフラッシュですよね?」

「うん? そうだよ。ファイブカードとどっちを強くするかでルールが分かれるらしいけど、今回はメジャーなルールで行こう」

「……わかりました。受けます」

「ありがとう。そして……ごめんね」

「いいですよ。……それにしても、ゆめんちゅ先輩。Qが3枚なんてすごいです。さすが、女の子にモテますね」

「っ!!?」

 手札を読まれた!

 だけど……一つだけ読み違えている。

「……ごめんね」

 僕はそう言って手札を見えるようにする。

 僕の手札には、Qが3枚と――ジョーカーがあった。

「初手からフォーカードなんて、めちゃくちゃツイてたよ。いやぁ……僕、運に恵まれることが滅多にないんだけどね~」

 ちょっとズルかったかな、と反省しながら苦笑いしてみたけど……由梨ちゃんは全然動じてなかった。

「いえ……ゆめんちゅ先輩はやはり、運に恵まれることが少ないんだと思います」

 そう言って由梨ちゃんも、手札を僕に見せる。

 そのカードは――

「ハートのA、K、Jに10だと!?」

 危ない!

 あと一歩でロイヤルストレートフラッシュだった!!

「本当に、可哀想です。フォーカードなんて滅多に出来ない役で負けるなんて……」

 ハッとして、自分の手札を見る。

 僕の手札にあるQは……スペード、クラブ、ダイヤ……。

 ま、まさか……!

「他の女の子は、ゆめんちゅ先輩に譲ってあげます。でも、灯先輩だけはダメです」

 そういう由梨ちゃんは、灯と灯の持つカードの山を見ていた。

 そうなの!?

あの一番上のカードがハートのQなの!?

「ま、待った! 僕はまだ、ノーチェンジを宣言してない!」

「……そういえば、そうでしたね」

 僕は手札のクラブの3を捨て、1枚チェンジ。

 来たカードは――

「……なんだ。違うじゃないか……」

 ほっとして胸を撫で下ろす。

「そうですね。灯先輩を射止めるのは、わたしです」

「っ!?」

 なっ、まさか――!?

「運命のドロー!」

 由梨ちゃんの背景に、落雷の幻影が見えた(気がした)。

「嘘ぉーっ!?」

 引いたカードは……ハートのQ。

 ……僕の負けだった。

 フォーカードが、まさかのロイヤルストレートフラッシュに負けてしまった。

「お前……どんだけ運がないんだよ……」

 こな雪が呆れたものを見る視線を送ってくる。

 うぅ……だけど、これはどうしようもないっていうか……。

「すまん、灯……。今後、僕は運に頼らずに生きることにする……」

「ああ、もう! ほんっと、うちの男共は使えないわねっ!!」

 髪の毛をわしゃわしゃしていた灯にバトンタッチ。

 そうして、LW全メンバーの運命は、灯に委ねられた。

「嬉しいです……灯先輩……。やっと、わたしを受け入れる気になってくださったんですね……」

「好意は嬉しいけど……ごめん、それは無理よ。だから、あたしが勝ってみんなの負けをチャラにしてもらうわ」

 そう言いつつ、手際よくカードを切る灯。

「すいませんです、お姉ちゃん……」

「頼む、灯! 俺はまだ死にたくねーーーーーっ!!」

「僕も全校男子と恋人になるのは嫌だぁぁあああ!!!」

「うるっっっさい!! 静かにしなさい!」

 灯の大声に、ピタッと静まる僕&こな雪。

 うぅ……灯さん、かなりご機嫌斜めみたいです……。

「勝負方法は『スピード』よ。これならもう、そのインチキ能力も運も最小限の効果しかないでしょう!」


『スピード』とは文字通り、速くカードを出していくゲームだ。

 トランプを赤と黒に分け、それを裏側にして山札にし、二人のプレイヤーが持つ。

 そこから手元に4枚のカードをオープンして、さらに1枚のカードを同時に中央へ出して、ゲームスタート。

 お互いが1枚ずつ出した2枚のカードの上に、オープンしている4枚のカードを昇順に重ねていく。Kまで出たら次はA。違う色(相手)のカードに重ねてもOK。

 4枚のカードから1枚でも場に出せたら、手元の不足分は山札からオープンすることができる。

 そうやってお互いにカードを出し続け、出せなくなったところでまた山札から同時にカードを場にめくる。

 これを繰り返して、先に全てのカードを出しつくした方が勝利だ。


「おお! 確かにスピードなら、裏からカードが分かってもほぼ関係ないな!」

「体力バカの灯が断然有利――ぶべらっ!?」

 ……もう、こな雪の顔は真っ赤だった。

「じゃあ、行くわよ?」

「……はい。絶対、灯先輩とお風呂に入ります」

「……いっせーのーでっ!」

 お互いに山札を1枚めくる!

 次の瞬間、灯の手が消えた!!

「――っ!?」

 さすがの由梨ちゃんも、驚いている。

「灯もチート能力者だったの……? 速すぎる……」

「いえ、単純にこのゲームに慣れてるだけかと……。お姉ちゃん、昔から『スピード』だけは負けなしなんですよー」

 速い。速すぎる。

 由梨ちゃんが1枚出す間に、灯は3枚ぐらい出している気がする。

 由梨ちゃんが2枚目を出そうとした時、重ねるはずだったカードの上には灯の新しいカードが乗っているため、『ずっと灯のターン』状態だ。

 そんな灯の手が、突然止まった。

「……?」

「ほら、9が出せるわよ?」

 不思議そうな顔をする由梨ちゃんに、灯が助言。

 なにその余裕……と思ったら、どうやら灯が出せるカードはないらしい。

「う……は、はい!」

「――しっ!!」

 由梨ちゃんの手元には、ダイヤの9の他に同じくダイヤの10のカードもあったけど……そのカードに手を伸ばす頃には、灯のクラブの10が乗っている。

「……! !? !?」

 なにこの圧倒的スピード。

 勝負が勝負になってない……。

「もうお互いに出せないわね」

 灯がそう言う頃、由梨ちゃんはまだ山札に結構な枚数が残っているのに対して、灯は手元にオープンした2枚だけになっていた。

 山札がなくなってお互いに出せなくなった場合、同時に出すカードはオープンした中から好きなものを選べることになっている。

「…………」

 灯の手元にある2枚がクラブのKとスペードのA……『連番』であることに気づき、涙目になる由梨ちゃん。

「……いっせーのーでっ!」

 灯が非情の声を上げて一気にカードを出し、勝負の幕が下りた。

 ゲーム名の通り、スピード解決だった。

「あたしを好きになってくれた人の前だもん。カッコつけさせてね」

そう言って笑う灯を、由梨ちゃんが瞳を潤ませながら見上げた。



 ――後日談。

 色々あったことを水に流す意味も含めて、LWメンバー+由梨ちゃんの5人で近くの温泉に行った。

 その計画が決まった当初、僕と由梨ちゃんのテンションの上がりようは凄まじかったのだが……。

「ひな。例の命令権を使うわ。悪いけど、その娘がわたしに不順『同性』交友しないように見張ってね」

 という灯の発言で由梨ちゃんが涙目。

「な、なんで俺だけ個室なんだよっ! 俺は男だって――ちょ、だーかーらー!!」

 みたいな感じで管理人さんにこな雪が連行され、僕が涙目になった。

 ちなみにこな雪への命令権は「フルーツ牛乳奢って」。

 僕への命令権は「お、お風呂上りに、か、肩揉んで!」という形で行使された。



 そして、今回のオチ。

「~~~で、灯先輩ったら結局、お背中を流させてくださったんですよ~! 本当に優しくて、惚れ直しちゃいました!! それに、噂通り灯先輩ったら超美白で……っ! おおっと、ヨダレが……っ!!」

「……うん、とりあえず、幸せそうで何よりだ。ところでさ、由梨ちゃん。折り入ってご相談が……」

「はいっ! なんですか?」

「友達に……なりたいんだ……」

「友達に? いいですよっ♪」

「キターーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「ただし、条件があります! ゆめんちゅ先輩……女の子になりませんか?」

「……え」

「わたし、夢があるんです! 灯先輩と結婚してイチャラブな毎日を送るのが一番の夢なんですが……ゆくゆくは、この世界中の人間を、全て『女の子』にしようと思っています!!

 知っていますか!? 現代の医療技術では、男性を女性にすることが可能なんですよ!?」

「…………(嫌な汗)」

「さあ! ぜひ、ゆめんちゅ先輩も純白な世界へ!!」

「友情! 努力! 勝利!!(逃亡)」


 ……男の子にだって、いい所はたくさんあると思う。マジで。




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