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第一話 黄金の帰宅部



「ちくしょーっ! またフラれたーーーっ!!」

 放課後。

 一年生の少女から引かれ、ものすごい勢いで逃げられた後、僕はいつも通り生徒会準備室の机で突っ伏して泣いていた。

 ……この場合の『いつも通り』とは、生徒会準備室にいることではなく、机に突っ伏して泣いている状況のことだ。

「うぅ……なんでダメなんだよぉ……」

「そりゃあ、好きな人から『一生友達でいましょう』=『お前なんか眼中にないぜ!(恋愛対象的な意味で)』って言われたら、誰だってそんな反応だろう」

 隣の席でCDの音楽データをMP3プレーヤーに入れながら、〝こな雪〟こと、夏原こな雪が呆れ顔でツッコんだ。

 芸能人も嫉妬するほど整った顔立ち。その名の通り雪のように真っ白な、透き通った肌。

 どこからどう見ても、完璧な美少女である。

「時に、こな雪。どうしてお前は男子の制服を着ているんだ? 仮装パティーでもあるのか?」

「男が男の制服着て何がおかしいんだっ!」

「いや……美少女が男の制服っていうのは……」

「俺は男だってのっっ!!」

 そう。この僕の隣に座る、360度どこから見ても美少女なこな雪は、生物学上『男』に分類されている。

 世の中、謎だらけだよね。

「おいこら、なんか知らんが失礼なモノローグが流れている気配がしたぞ」

「気のせいだろう。はぁ~……そんなことより、どうして僕には友達ができないのかなぁ……」

「俺の性別はそんなにどうでもいいことなのか……」

 こな雪が若干遠い目をして窓の外を眺めていたが、そんなことは些細な問題だ。

 深刻なのは、僕に友達ができないという一点のみ。

「お疲れー! いやぁ~、今日もやっと放課後ね~」

「お疲れ様です~」

 僕がこの世で最も難解な謎に挑んでいると、準備室の扉が開き、二人の女の子が入室してきた。

 綺麗な長い髪をわしゃわしゃと適当にかき回しながら入ってきた女の子が隣道灯。

ニコニコ笑顔で入ってきた控えめな女の子は隣道日向ちゃんだ。

「おお~。灯、聞いてくれよぅ~。実はさぁ……」

「まーた友達告白が失敗したんでしょ?」

「なぜそれを!?」

 灯はエスパーか!?

「ゆーと先輩が友達のことで悩んでいるのはいつものことですからね……」

 謎のサイキック攻撃に驚愕していると、日向ちゃんが苦笑しながら追撃。

「うぅ……どうして僕には友達ができないんだろう……?」

「そりゃあ好きな人から(略)」

「略された!」

 いや、わかるけど!

 灯もこな雪と同じ内容を言いたかったっていうのは、すごくよくわかるけど!!

「……イケメンは死ね」

 性別に関して悩んでいたはずのこな雪がさらりと毒を吐く。

「うぅ……これだからリアルはイヤなんだよ……」

 傷心した僕は鞄から携帯ゲーム機を取り出し、オアシスに逃げ込むことにした。

 ソフトは『GRAND』。僕の聖書だ。

「ゆーと先輩もギャルゲーとかするんですね。意外です」

「……うん。僕としては、『ギャルゲー』という単語を認識している日向ちゃんの方が、本来、意外だと思うのですが……」

「ひなは完全インドア派ですからね! インドア文化なら任せてください!」

 えっへん、と可愛く胸を張る日向ちゃん。

 確かにインドア系の情報に精通している日向ちゃんだけど、女の子が公然と『ギャルゲー』発言するのはどうなんだろう……と、そんなことを思いつつ、姉である灯に視線を送ると……。

「……お願いだから、何も言わないで。さすがのあたしも、ひなのこういうところにはついて行けない……」

 妹至上主義のお姉ちゃんが顔を伏せて涙を流していた。

 姉が落ち込んで発言不能に陥ったので、日向ちゃんとの会話を再開する。

「うん。結構意外だって言われるけど、僕も健全たる男子高校生だからね! 時にはこういうゲームにも手を付けるさ!」

「……それでもリアル女子にモテるこいつを、俺は一生許さない」

「なんかRPGの主人公みたいな発言が聞こえましたが!?」

 背後からの呪詛攻撃に振り返ると、こな雪は知らん顔で音楽データ移行の作業を続けていた。

「それで、ゆーと先輩はどのキャラが好きなんですか?」

「もちろん、夏原洋平の一択だ!」

「あー……」

 僕が拳を握って断言すると、日向ちゃんは、なんか微妙に納得したような顔でフリーズしてしまった。

「夢人が美少女とイチャイチャするゲームでニヤついてる所なんて、想像できないでしょ」

「う、うん。確かにそうだね……。お姉ちゃんの言う通り、ゆーと先輩のそんな姿は想像できないかも……」

 苦笑する姉妹二人のやりとり。

「うぉい! GRANDをバカにするなよ!? 攻略してないからヒロイン達のことはわからないけど、主人公の大親友である夏原ルートはマジで神シナリオなんだぞ!? もう、涙、涙の感動展開! 僕はこの作品に男の友情を見たね! ギャルゲーにしておくのはもったいない! 『夏原アフター』を製作すべきだと、制作会社に100通アンケートを送ったさ! 『GRANDは友情』!!」

 力説する僕の前で苦笑を続ける姉妹二名と、なぜか怯えて体を震わせる美少女一名。

「そうさっ! 僕はこのゲームを攻略したときに悟ったんだ! ゲーム内の親友・夏原と奇跡的にも同じ苗字を有するこな雪は、僕と熱~い男の友情で結ばれる運命なのだと!!」

「怖ぇよっ! 理屈が全然理解できないのに、お前の中では完璧なる理論と法則に従ってる感バリバリなのが、もう、ある種のホラーだよっ!!」

 ついには席から立ち上がり、部屋の窓際へ――僕から離れる方向に後ずさりを始めるこな雪。

「なんでだよ……僕は、こんなにもお前のことを想っているというのに……! どうして僕の想いが通じないんだ!!」

 僕は床に倒れ付し、悔しさをぶつける。

 ……なぜか日向ちゃんが顔を赤らめ、非常に興奮した雰囲気で僕たちの様子を窺っていた。

「僕の何がダメだっていうんだ! 成績良好、運動神経も中々、性格は明るく、礼儀正しい好青年。……何が不満だって言うんだ!?」

「強いて言えば全部だよ!! リア充は爆発しろっ!!」

 ほんとこの世界は謎だらけだ。

 さすがにGRAND主人公である『赤崎』ほどとは言えないが、僕だってそこそこ主人公の素質があると思うし、そうなるための努力もしている。

それなのに何故、友達が出来ず、こな雪も僕を避けるんだろうか……?

「ひなは、ゆーと先輩を全力で応援しています!! ぜひとも夏原先輩と幸せになってください!!」

 もう傷だらけになってしまったガラスのマイハートを引きずる僕に、優しく声をかけてくれる日向ちゃん。

「ありがとう。そう言ってくれるのは日向ちゃんだけだよ……」

「……その真意に気づいてないのも、あんただけだと思うけどね」

 ?

灯が何か言っていたが、何のことかはよくわからない。

「なぁ、それはどういう――」

 意味なんだ? と尋ねようとしたところで、

「……あのー。『Little Wing 控え室』はこちらでよろしかったでしょうか……?」

 軽いノック音と共に、生徒会準備室……否、『Little Wing 控え室』の扉を、気弱そうな、フレームの無い眼鏡をかけた少年が開いた。



「「「「はぁ~~~…………」」」」

「す、すいません……」

 LW控え室へと訪問した相談者を前に、僕たち4人のテンションはだだ下がりだった。

 私立恋文学園。恋愛推進委員会。通称『Little Wing』。

 ……非常に残念なネーミングだが、それが僕たち4人組のチーム名だ。


 恋文学園は、良くも悪くも『ぶっ飛んだ』学園である。

 完全学生主義のこの学園は、なによりも『生徒の夢を叶えること』に力を入れている。

 夢を語る学生には、善悪問わず、その真剣度に応じて学園側が全力でサポートする。その一環が僕たち『LW』の仕事だ。

 ……なぜこんなことになっているのかと言えば、マリアナ海溝よりも深~い理由があるのだが……現状だけ説明すると、毎年『己の夢から最も遠い4人』が、この委員会に選出される。

 不名誉極まりなく、晒し刑もいい所なのだが、『他人の夢を叶える手助けをしながら、自らの夢を叶えるために勉強しろ』というのが学園長からのお達しらしい。

 委員会名が〝恋愛推進〟委員会なのは、単に学生の相談で恋愛絡みのものが多いからだ。


 というわけで。

 本日も僕たちの、不名誉を証明するための活動が始まった。

「えーっと、それではとりあえず……お名前をどうぞ」

 日向ちゃんに促されて席に着きつつ、少年が悩み相談を開始。

「は、はいっ。ぼ、ぼくの名前は早川歩と言いまして……っ」

「……なに焦ってんだ? 別にゆっくりでいいぞ?」

「は、はいっ!?」

 こな雪が気を利かせて声を掛けたが、少年……早川君は余計に緊張してしまったようだ。

 ふむ。これだけ取り乱すということは、また恋愛絡みの相談かな。

「ぶ、部活は帰宅部です。バイトは、してない、です」

 なんとかそれだけ言い切ると、早川君はそのまま俯いて黙り込んでしまった。

「いやいや、自己紹介それだけかよ! もっと趣味とか興味あることとか、好きな女の子とか……」

「す、好きなっ!?」

 特に意識もせずに発言したであろうこな雪に対して、思いっきり狼狽する。

「ああ……また恋愛絡みね……」

「そうみたいだな」

 恋愛相談に対してあまりノリ気になれない灯が面倒くさそうに呟く。

 少々失礼な態度かもしれないが、基本、自分が絡まない恋バナに対する反応なんて、こんなものだろう。

「――早川歩さん。恋文学園二年四組。成績は中の下。運動神経もそれほど芳しくなく、部活には無所属。趣味はこれといって無く、強いて言えば暇つぶしに行うネットサーフィンと散歩が趣味のようですね」

 こな雪が早川君と問答している後ろで、日向ちゃんが可愛いらしいピンク色の手帳を開きながら、こっそり僕に耳打ちしてくれる。

「……うん。非常にありがたい情報提供なんだけど、日向ちゃん。そのピンク色の手帳が非常に気になってならないのですが……。」

「うふ♪ 乙女の企業秘密です」

 にこーっと、可愛く小首を傾げながら微笑んでくれたが、『乙女』と『企業』という言葉はなんとなくミスマッチな気がするよ、日向ちゃん……。

「だーかーら! 面倒だから、さっさと好きな女の子の名前言えよ! そしたら俺らが作戦立てて、うまくいくように協力してやるからさぁ!!」

 自らの容姿も相まって『男らしくない男』が許せないこな雪のボルテージが上がっていく。

 ……いかんな。このままじゃ話が進まない。

 そう思った僕は、ふわりとこな雪の後ろに歩み寄り――

「そんなに怒ってばかりだと、可愛い顔が台無しだよ?」

 キラーン☆と歯を光らせるイケメンスマイルと共に、こな雪を後ろから抱きしめた。

「ゆーと先輩×夏原先輩キターーーーーーーーーーーーーー!!」

「死ねぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 なぜか歓喜の表情でガッツポーズをする日向ちゃんと、僕の腹部に痛烈な打撃を加えるこな雪の姿が、そこにはあった。

 カメラ目線が下からなのは、こな雪の素晴らしい一撃によって、僕が床に伏せる格好になってしまったためである。

「ふう……またつまらんものを殴ってしまったぜ……」

「……あんた、夏原と『男』の友情を育みたいとか言ったり、その割に夏原を美少女扱いしたり……結局、あんたにとって夏原の性別はどっちなの?」

 床でぴくぴく痙攣していた僕に、灯が冷ややかな視線と疑問を投げかける。

 フッ……愚問だな。

「こな雪の性別は『こな雪』さ! 男とか女とかじゃない! だから僕は、美少女なこな雪と男同士の友情を誓いたいんだ!!」

「さすがのあたしも、夢人のそういうところは引くわ……。そろそろ友達やめさせてもらおうかしら」

 ……この世で唯一、最後の友達を失うかもしれない大ピンチだった。

「そ、それだけはやめてくれ、灯! 灯にフラれてしまったら、僕は本当に一人も友達がいなくなってしまう!!」

「……ゆーと先輩なら、普通に彼女さんができると思いますが」

「違うんだ! 僕が欲しいのは、友達なんだ!! こな雪がよく僕のことを『リア充』って呼ぶけど、友達が一人も居ないリア充なんてあり得ないだろう!? そう! この世では彼女など必要なく、友達が多い人間こそをリア充と呼ぶんです! 偉い人にはそれが分からんのです!!」

「……だが、断る」

 これだけ熱弁を奮ってもこな雪の心は近づかず、灯の心も離れていってしまう。

 は、早くなんとかしないと……!

「そ、そうだ、早川君! お悩み相談の続きをしよう! そうしよう!!」

 強引に話を戻すと、背中から三者三様の視線を感じた。

しかし、今は全力でスルー。

「好きな女の子の名前を言うのは恥ずかしいと思うけど、それを知らなくちゃ僕達としても手が出せないからね」

「そ、そうです、よね……」

 ようやく決心してくれたようで、ぎゅっと目を瞑りながら、必死に告白してくれた。

「ぼ、ぼくは……城ヶ咲さんが好きなんです……!」



「城ヶ咲要さん。恋文学園二年七組。成績優秀、運動神経も良好。ご両親がいくつも会社を経営されており、家柄も抜群。平たく言うとお嬢様ですね。性格は、少々高飛車と思われる発言を除けばそれほど問題無く、ルックスが良いこともあり、男子からの告白は後を断たないのだとか……」

 これが、日向ちゃんから得た城ヶ咲さんのプロフィールだ。

 昨日は早川君から相談内容を聞いた後、いくらか質問&雑談をしてお開きになった。

 しかしまぁ……なんというか。

こういう言い方は失礼だとは思うが、いかんせん、戦力の差があり過ぎる。

 片やギャルゲーでヒロインも張れそうな万能お嬢様。

 片やギャルゲーで主人公も張れそうな特徴無し少年。

 ゲームでこの二人が結ばれることは当然であるわけだが、こと現実において、これほど絶望的なスペック差はない。

 ほんと、どうしたものか……。

「あら。早いわね。あたしも授業終わって真っ直ぐ来たつもりだったけど……」

 生徒会準備室の扉を開いて、灯が入ってきた。

「うぃー。なにせ、昨日からいるからね」

「昨日から!?」

「おっと。さすがに、ちゃんとシャワー浴びるために、一回は家に戻ったぞ?」

「いや、あたしが驚いたのはそこじゃないんだけど……。まぁ、あんたのことだから授業は全部ブッチしたとして、睡眠は? ちゃんと寝たの?」

「おう! バッチリ5分間寝たぜ!」

 ズビシッ。

 元気良く答えたら、頭の上に手刀が落とされた。

「……はぁ。前から言ってるけど、ちゃんと休まないとダメよ? 冷たい言い方かもしれないけど、所詮、他人事なんだから。一番大切な自分をないがしろにするのは間違ってると思うわ」

 そんなことを言いつつ、灯は鞄から〝他人のために〟常備している栄養剤を取り出してこちらに渡してくれる。

「灯だって僕に世話焼き過ぎだと思うけどなぁ。まあ、すごく助かってるんだけど。ありがとな」

「……え。う、うん。……友達なんだから当然よ」

「お疲レーション! さぁ、今日も元気に不名誉証明の活動を頑張りますかー!!」

 扉が開き、やけくそ気味なこな雪が。

続いて、苦笑している日向ちゃんが入ってきた。

「おう、こな雪。それだけ元気いいってことは、なにか作戦が浮かんだってことだな?」

「全然、全く、微塵も浮かんでねーよ。ていうか、どう考えても無理だろ。あの早川が二年のマドンナと付き合うなんて」

 否定こそしないまでも、日向ちゃんも同意見なのか、ひたすら苦笑を浮かべたままで発言を控えている。

「それで? ほぼ徹夜状態+授業をブッチしてまで考え続けた夢人は、なにか名案が浮かんだの?」

 灯に指摘されて三人の視線が僕に集まる。

 僕の手元には、昨日から考え、アイデアと作戦を書き込み続けたノートと、参考資料のファッション誌や雑誌などが乱雑に散らばっていた。

 フッ……ついに真打登場か。

「ああ。昨日からずっと考えていて、ついに答えに至ったぜ。簡単なことさ。早川君をモテる男子にレベルアップさせ、城ヶ咲さんと対等、いや、それ以上の格を持ったイケメンに成長させればいいだけのこと!」

 おおっ、と三人から歓声が上がる。

「だからこそ、みんなに聞きたい。これは、僕が一晩中考えても全く分からなかったことだ」

 その言葉を受けて三人が真剣な表情になり、僕の次の発言に耳を傾ける。

 僕は、一人ずつ目を合わせて間合いを計り……真剣な問いを投げかけた。


「……イケメンって、なんですか?」


「「「お前が言うな!!」」」

 三人から一斉にツッコまれた!

 日向ちゃんすら、まさかのタメ口だった!!

「いや、だってわかんねーよ! なんだよ、イケメンって!!」

 僕がorzみたいな体勢で拳を床に打ちつけながら叫ぶと、三人からそれぞれ痛烈な言葉が飛んでくる。

「ゆーと先輩がその言葉を言うと、嫌味以外の何にもなりません! ゆーと先輩ご自身が、この学園でイケメンと呼ばれているじゃないですか!」

「ていうか、イケメンは死ね」

「なに? 女の子にモテる自分を自慢したいわけ? あたし達から『それは夢人みたいな存在よ』とでも返して欲しいの?」

「ていうか、イケメンは死ね」

 こな雪の呪詛はともかく……そうだよね。そうなるよね。

「いや、確かに何度か女の子に告白されたこともあるけど……僕は別にイケメンを目指してるわけじゃないしさ……。そんな僕を指してイケメンだと言われても、僕としては早川君をどうしてあげればいいのかと……」

 自意識のあるイケメンならいいと思うんだけど、僕は別に自分をイケメンだと思っていないし、イケメンになるための努力をしてるわけでもないんだよね……。

 ……友達を作るための努力は全力でやっているけど。そして、結果は芳しくないけど。

 こな雪辺りにこんなことを言うと、また呪詛を投げつけられそうな気もするけど……それでも、自分をイケメンだと言われても何がなんだかさっぱりわからない、というのが、僕の正直なところだ。

「はぁ……ゆーと先輩がモテる理由って、その辺にもあるのかもしれませんね……。俗にイケメンと呼ばれる男性は、自覚的で高慢な部分が多いですから……」

 日向ちゃんがなにか分析していたが、それもよくわからない。

「……ま、ゆめんちゅの自慢話は置いといて、それくらいしか作戦は無さそうだし、それで行こうぜ。それでダメだったら、諦めてもらうしかねーだろ」

 投げやりなこな雪の発言をもって、僕たちの行動指針は決定された。

 っていうか、僕は自慢話をしたつもりはないんだけど……。

 そして、たまにはちゃんと僕の名前を呼んでほしい。

『ゆめんちゅ』っていう愛称も好きだけどさ……。



「ぼくをイケメンに、ですか?」

 LW控え室に早川君を呼び、作戦開始。

「そうだよ。やっぱり、女の子をなびかせるにはカッコいいに越したことはないだろう?」

「はあ……。ですが、僕は夢人さんみたいにイケメンではないんですが……」

 また来たよ、僕の謎イケメン説。

「イケメンは死ね。むしろ、ゆめんちゅが死ね」

「対象、僕だけ!?」

「はいはい! あんた達がじゃれ合ってたら話が進まないでしょ!」

 灯がいかにも面倒くさそうに場を仕切りなおす。

 常時いいやつなんだけど、恋愛関係の相談の時だけ不機嫌なんだよなぁ……。

「それじゃあ、早川。どんなイケメンになりたいか言ってみろよ」

「言ってみろと言われましても……」

 こな雪に問われ、「ん~……」と早川君は悩む素振りを見せた後、結局、自分じゃどういう風にすればいいか分からない、という結論を出した。

「……ま、そうだよな。普通、イケメンになるための方法が分かってれば、誰でも努力するわけだし」

「そうね。じゃ、やっぱり方針はあたし達で考えるしかなさそうね」

「なら、みんなで好きなタイプの話でもしようかー」

 話の流れ的にそうした方がいいと思って発言したのだが――

「ちょっ!?」

「なっ!?」

「……(ぽっ)」

 なぜか三者三様に驚愕(?)の表情を浮かべる。

「あれ……なにか変だった? みんなで自分の好みのタイプの話をして、それを踏まえて早川君をイケメンに近づけるという流れかと思ったんだけど……」

 三人が固まっているので若干不安になりつつ、おずおずと発言してみる。

 うん。やっぱり、別におかしなところなんてなさそうだけど……。

「い、いや、ちょっと待った! イケメンが話題なんだから、男サイドの好きな人はいらないだろ! 理想の女の子の情報なんて必要ねーし!」

「ちょっと夏原! 自分だけ逃げる気!?」

 こな零の提案を受けて灯が声を荒げる。

「うーん……でも、確かにそうかもなぁ……。よし。じゃあ、男サイドの話はなしで行こう。時間も無いしな。というわけで、 3 人 の好みを教えてくれ」

「おかしいよね!? この部屋には5人の人間がいて、内2人が女のハズなのに、好きな人を告白する人数が3人っておかしいよねぇ!?」

 美少女がなにか言ってる。

 こな雪……疲れているのかな……?

「観念しなさい……夏原。あんたも道連れよ」

 灯が覚悟を決めた目でこな雪の肩をぐわしっ、と掴む。

 あ、こな雪涙目だ。

「なんかお姉ちゃんと夏原先輩が揉めているので、ひなから言いますね。結論から言うと、ひなはゆーと先輩が好きです」

「「っ!?」」

 ずっと静かだった日向ちゃんがさらりと発言すると、それまで取っ組み合いをしていた灯とこな雪の動きがピタリと停止した。

「え、ちょ、待……日向……さん?」

「ひ、ひな……。い、いや、わかってたけど……」

 そして、二人で動揺を露に声を震わせつつ、日向ちゃんを見守る。

 対する日向ちゃんは真っ直ぐに僕を見ていた。

 …………。

「そうなんだー。ありがとう。それで、僕のどういう所がいいのかな?」

「そうですね。とりあえず定番ではありますが、ひなはゆーと先輩の優しいところが好きです。あと、変にカッコつけないところや、誰かのために一生懸命になれるところも好きです。ちょっと捻って『ありがとう』が口癖なところも好きです」

「ふーむ。なるほど。僕の中のイケメンのイメージって、割と外見にあったんだけど、日向ちゃんは内面に魅かれるんだね。貴重な情報ありがとう。でも、僕の口癖は『ありがとう』じゃないと思うけどね」

「今のひなとの会話中に2回も使っていますよ」

 おおぅ。言われてみれば。

 そっかー……あんまり意識してなかったけど、僕の口癖って『ありがとう』なんだ……。

 まぁ欧米人とか、ことあるごとに『Thank you』って言ってるし、別にそんな変でもないのかも――

「「って、いやいやいやいや!!」」

 自分自身の口癖を分析すると共に『早川君イケメン化計画!』と書かれたホワイトボードに日向ちゃんの意見を書いていると、灯とこな雪が同時に声を上げた。

「おかしいだろう!? なんだ今の反応! おいこら、ゆめんちゅ! テメーは今、この学園一の美貌を持つ女神に告白されたんだぞ!? なのになんだ、その薄い反応は!?」

「そうよ! 折角ひなが勇気を出して告白したのに、それをスルーって、あんたがそこまで冷血漢だとは思わなかったわ!!」

 ……なんだろう。

 なにか誤解してないか、この二人。

「いや、確かに日向ちゃんは僕を好きだと言ってくれたけど、それはタイプの話だろう? 別に僕に告白したわけじゃあないんじゃない?」

 と、確認の意味も含めて日向ちゃんに視線を送ると、

「あはは……。そうですね。ひなは、ゆーと先輩みたいな人がタイプだって言ったんです。だから別に、告白とかじゃないですよ」

 と、苦笑交じりに答えてくれた。

「…………」

「ひな……」

 二人は何か納得いかないみたいだったが、事実なんだから仕方ない。

「さて、んで? じゃあ、こな雪はどういう男がタイプなんだ?」

「あ、ああ。えっと、俺はな――って、俺は男だっつーの! 好きなタイプは当然、女の子だよっ!」

「ええー」

「なにその不満気な声!」

「「「「ええー」」」」

「早川までまさかの造反!? うぅ……わかったよ……」

 さすが早川君も恋文学園の生徒だ。

 ノるべき場面はわきまえている。

「あー……まあ、趣味が同じだと楽だよなー。遊ぶ時困らねーし。あと、冗談を言い合って笑えるのも重要なポイントかもしれないな。笑いのツボが違うやつだと盛り上がんねーじゃん。あとは……うーん……まあ、外見的な意見が出てないからあえて言うなら、一緒に歩いてて恥ずかしくない格好はしてほしいよな。別にオシャレじゃなくてもいいからさ――って、なに個人的にメモとってんだ、ゆめんちゅ!!」

 僕は神速の速さで、プライベート用のハンディサイズメモ帳(マミーマート購入。294円)を後ろに隠した。

「言っとくけど、今のは友達の好みだからな!? 決して俺は男が好きなわけじゃないんだからなっ!?」

「むしろ、それこそ本望!」

「そういえばそうだったーーー!!」

orzと床に突っ伏したので、こな雪のターンは終了。

 ふむふむ。なるほど。そこそこイケメンの様相が浮かび上がってきたじゃないか。

「それじゃあ、最後はお姉ちゃんですね」

 日向ちゃんがニコニコ笑顔で振り返ると、「うっ……」と灯がたじろいだ。

「おう。そういえば僕も、灯の好きな人は知らないな。盲点だった。友達の好きな人くらいは把握しておかなくちゃいけないよな~。ってことで、灯って誰が好きなの?」

「お、おかしいでしょ! なんであたしだけタイプじゃなくて、マジで好きな人の話になってるわけ!?」

 灯が顔を真っ赤にして叫ぶ。

 珍しいこともあるもんだ。いつも『男より漢らしい』と言われるほど(本人は不本意であるらしいが)さっぱりした性格なので、こんな『年頃の乙女』のような反応は、かなりのレアショットだぞ。

 こな雪が元気なら全力でからかいそうなもんだが、相変わらずこな雪は床に突っ伏している。

「んー? なんとなく、興味があるから?」

「そうですね。ひなも、お姉ちゃんの好きな人には興味があります」

 そう言う日向ちゃんは、いつものニコニコ笑顔を浮かべているが……背景には『ゴゴゴゴ……』という効果音が入りそうな雰囲気だ。

 な、なんか真剣……?

「う……。い、いないわよ、好きな人なんて……っ」

 目が泳ぎまくってる。

 どんだけ正直者なんだ、お前は……。

「まぁ、言いたくないなら――」

「駄目だ! 絶対にそんなことは許さねぇ!!」

 床でダウンしてたこな雪がガバッ、と起き上がって宣言する。

 どうやら面白そうな展開の空気を嗅ぎ取ったらしい。

「な、夏原~~~っ!!」

「へへーん! 自業自得さ! 俺だって嫌々ながらもちゃんと答えたんだから、灯にも答えてもらいましょうか~?」

 すげーニヤニヤしてる。

こんなに幸せそうなこな雪を見るのは久しぶりだ。

「う……や、優しい人が好きね」

「はい、だめー。灯は好きな人を言わなければなりません」

「なにそのルール!? 元々は早川のイケメン化計画のためでしょ!?」

「あれあれ~? クラス委員長ともあろうお人が、他人にだけ自分の希望を強要しちゃっていいのかな~?(ニヤニヤ)」

 このこな雪、絶好調である。

「わ、わかったわよ! 言えばいいんでしょ、言えば!!」

 やけくそ気味に宣言して、灯が深呼吸しだした。

 おお。マジで好きな人の名前を言うのか。ちょっと緊張してきたぞ。

「あ、あたしが好きなのは――」

 ごくり。

 その場にいる灯を除いた4人、誰もが固唾を呑んで見守る中――


「 あ た し が 好 き な の は 、 ひ な な の ぉ !! 」


「「「な、なんだってぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」」

 驚愕の事実が発覚した!

 まさかの百合宣言だった! しかも姉妹で!!

「お姉ちゃん……それはさすがに無理が――」

 日向ちゃんが何か言っていたが、僕達はそれどころじゃない!

「ま、まさか灯が百合趣味だったとは……。いや、確かに男には人気が無いし、逆に女の子、特に下級生女子からは異様に人気があると聞いていたが……」

「また俺のライバルが……(涙&小声)」

「ぼ、ぼくも隣道灯さんがそんな趣味だとは思いませんでした……」

「おおうっ!? 久々の発言だね、早川君! 思わず喋ってしまうほど、びっくりしたのかい!?」

「どうして俺ばっかりこんな目に……(泣)」

 室内中、大混乱だった。

 主に男子メンバー2人&こな雪が、だが。

「う……うがーーーっ!! あたしが妹を溺愛していて、百合ん百合んで、ひな超ラヴなのは、今はいいでしょーーー!? そんなことより会議よ、会議ーーーーーっ!!」

 灯がホワイトボードをバンバン叩いたことによって、僕たちは強制的に現実に戻された。

「で、結局、早川をどうやってイケメンにするの!?」

 ……だけど、なんか、みんな最早、話し合うテンションじゃなかった。

 漫画やアニメの中でしかお目にかかれないようなリアル百合趣味少女を前にして、誰がまともに委員会活動をできようか。

「 ど う や る の ? 」

「「「さあ! 会議を続けるぞ!」」」

 にごぉ……と、閻魔のような笑顔を浮かべる灯を見て、みんな一斉に姿勢を正す。

「ひながまとめます。今回の会議から得られた情報によると、ここにいるメンバーのタイプは内面を重視する傾向にあると……言えなくなってしまいましたが、おそらく、内面も重要です」

 日向ちゃんがチラチラと自らの姉を見ながら説明する。

 照れているのか、灯は部屋の隅で体育座りをして、膝に顔を押し付けてしまった。

……灯の周囲に暗~い空気が充満しているような幻覚が見えたけど、きっと気のせいだ。

「うん。ありがとう、日向ちゃん。ってことで、イケメンとは性格が重要であるらしいぞ、早川君!」

「はあ……。まぁ、なんと言いますか……こういう言い方は失礼かもしれませんが、それは普通に想像できますよね……?」

「「「「…………」」」」

「そりゃ、外見がカッコよくて、性格もいい男がイケメンとして持て囃されるのでしょうけど、それを具体的にどうすればいいかを考える会議だったのでは……? 『優しい性格がいい』と分かったところで、具体的にどうすればいいのか、難しいですよ……ね……?」

 …………。

 …………。

 ……………………。

「……オーケー。みんな落ち着け。冷静になろう」

「「「ゆめんちゅ~~~!!」」」

「ごごご、ごめんなさい! ごめんなさい!! こな雪、痛い! 蹴らないでぇ! だって、みんなの意見を参考に頑張ればいいと……ごめんって、灯!! だから間接キメるのはやめ……ちょっ、まっ、日向ちゃん! そこは……!! アッーーーーーーーーーー!!」

 三人からボコボコにされる僕。

 うぅ……もうお婿に行けない……。しくしく……。

「だーーーっ!! もう面倒くせぇ! 男なんて結局外見のいいヤツがモテるんだよっ!! だから髪型をイケメンちっくなのにして、眼鏡はずして、体鍛えりゃそれでいいだろっ!」

「そうよね! イケメンと言われる最大の所以はやっぱり容姿よね! それでファッションにも力を入れて!」

「あと、早川さんはもう少し自信を持った方がいいとひなは思います! 『何事も形から』と言うように、嘘でも自信満々の態度をとっていれば、やがてそれが本物になることだってあると思いますですよ!」

 集団いじめに遭い、むせび泣く僕を置いて、どんどん会議が進行していく。

 しくしく……僕だって、がんばったんだよ……?

「よーし! そいじゃあ、まだ放課後の時間もあるし、早川をイケメンに改造しに行くぞーっ!!」

「「おーーー!!」」

 こな雪の号令と姉妹の気合の声を最後に、準備室が静かになった。

 マジで放置プレイなんだ、僕……。


「うぉお……すげぇ! これはリアル『劇的ビフォー・アフター』じゃないか!?」

二時間後、準備室で一人寂しく後片付けと掃除をしていた僕は、帰ってきた早川君を見て驚いた。

 まず、眼鏡を外してコンタクトに。

髪の毛も元々サラサラだった質感を生かして、自然に流れるようにカットされている。毛束がカッコいい感じになっているのは、なにか整髪料を使っているのかな?

 そして、洋服もオシャレだ。制服姿しか見たことがないから、普段の私服がどんなのかは知らないけど……大人っぽいグレーのテーラードジャケットに光沢のある黒いデニムがよく似合っている。

「ふふん。あたし達が力を合わせればこんなもんよ」

「お姉ちゃん、男の人のファッションにも詳しいもんね~」

 なるほど。確かに灯はよくファッション誌を読んでいるだけあって、センスがいい。女の子が選ぶんだから、女の子ウケは間違いないだろう。

 髪型は日向ちゃんプロデュースかな? 日向ちゃん自身、よく髪型を変えてるし。

「俺が行ってる眼科でコンタクトもすんなり購入できたしな」

「なんだと!? こな雪は眼鏡っ娘だったのか!?」

「食いつくとこが違ぇ!! あと俺、日中は基本的にコンタクトだから!」

 うぅ……非常に残念だ……。

 ……ともかく。

「似合うね、その格好。カッコいいなぁ、早川君」

「夢人さんに言われると照れちゃいますよ……」

 大変身を遂げた早川君が、唯一ビフォアーと変わらない照れた笑みを浮かべる。

「よし。じゃあ、最後の仕上げだ。早川君。誰か、イケメンを思い浮かべて」

「はい。夢人さんでいいですか?」

 そこでも僕なんだ……と苦笑しつつ、僕から見れば自分より何倍もカッコいい早川君の肩にポン、と手を置いた。

「目を瞑って、早川君。そう。そして、イメージするんだ。僕よりもずっとカッコいい、早川君自身の姿を」

「夢人さんよりも、ですか……」

「そう。僕なんて全然大したことない。芸能人にだって負けないくらい、カッコいい早川君。その早川君は、どんな姿勢でどんな風に歩き、どこを見ているのかな?」

「…………」

 口には出さないけど、ちゃんと想像してくれているのか、早川君の背筋がぐっと伸びた。

「そう。君はもう、以前の早川君じゃない。カッコよくて、自信に満ち溢れていて、なんでもできる……城ヶ咲さんにはもったいないくらいのイケメンだ!」

「ぼくが……城ヶ咲さんと釣り合う……それ以上の、イケメン……」

「はい、目を開けて」

 ぱん、と早川君の前で手を打つと、ゆっくりと早川君が目を開いた。

 その時にはもう、おどおどした雰囲気が消え、目はしっかりと前を見据えていた。

「城ヶ咲さんは弓道部だったっけ? そろそろ部活の着替えが終わって、帰る頃なんじゃないかなぁ?」

 わざとらしく独り言を言うと、早川君が吹き出して笑う。

「ええ、そうですね。ありがとうございます、夢人さん。今なら、何だってできそうな気がします」

 そう言ってもう一度笑顔を見せた後、早川君は颯爽とLW準備室を飛び出していく。

 その挙動すら、もう立派にイケメンだった。

「お……おいおい、ゆめんちゅ! お前、催眠術なんて使えるのか!?」

 早川君が退室して早々、こな雪が声を上げる。

 灯と日向ちゃんも同じようにびっくりしていた。

「いやいや、そんなことできるわけないじゃん。マンガじゃあるまいし……。僕は辛いリアルを必死に生きる、ただの一般人ですよ?」

「でも、早川はあんたの言葉を聞いて、すごい自信で飛び出して行ったけど……」

「日向ちゃんも言ってたじゃないか。『嘘でも自信満々に振舞え』って。だから、あれはハッタリさ」

「いえ、ハッタリにしてはオーラがあったといいますか……」

 どうやら、三人とも疑問が解消しないらしい。

 本当に、種も仕掛けも〝ある〟んだけどね……。

「その場の勢いと雰囲気さ。ほら、結婚式でつまんない顔してる人って少ないだろう? 逆にお葬式で笑っている人も。その応用みたいなもの。

今、早川君は自分自身もびっくりしていたハズだよ。己の変身っぷりにね。だから、その気持ちを……悪く言えば利用させてもらって、『ここまで変われたんだから、この先も大丈夫』と思わせたわけ。だからまぁ、みんなの力があってこそできた最後の仕上げだよ。本当にありがとう」

僕の説明を聞き終えても、三人とも「ほへ~」と、わかったんだかわかっていないんだか、分からない表情をしていた。



 ――後日談。

 ここでお話が終わればすごく綺麗なんだろうけど、現実とは得てして冷たく、残酷なものだ。……マンガや、僕の好きな『GRAND』なんかのゲームと違って。

 結論から言えば、早川君はフラれてしまった。

 ま、そりゃあそうだよね。

 いくら眼鏡を外し、髪を切り、オシャレな洋服を着たところで、好きな子とうまく行くかどうかとは関係ない。それはそれは、見事なフラれっぷりだったらしい。

 LWメンバー3人の落胆もすごいものだったのだが……僕としては、そんなに意気消沈する気にはなれなかった。


「はぁ~……あれだけやってダメなのかよ……。正直、男の俺から見ても結構なイケメンになったと思っていたんだがなぁ……」

「ですよね……。ひなも絶対にうまく行くと思っていたのですが……」

「あたし達なりに全力を尽くしたつもりなんだけど……って、夢人、あんた何してんの?」

「ん~?」

 僕は、必死にガシガシ書いていたノートから顔を上げる。

「いや、次はどういう作戦で行けば早川君が城ヶ咲さんを振り向かせることができるかなー、とだな……。やっぱり、もっと仲良くなっておく必要があるよな。いくらイケメンからの告白だと言ったって、初対面でいきなりオーケーする女の子なんて普通はいないと思うし……」

 いや、芸能人とかならあるのかもしれないけど。

それだって、その女の子が事前にその芸能人を知っていたわけだから、やっぱりお互いにお互いを知り合うことが大切で――

「……ん? どうかした?」

 授業では絶対に習わない難しい問題に頭を悩ませていると、3人がぽかーん、と僕を見ていた。

 な、なんだ?

この、一人だけ空気を読めてなくて、孤立しているような雰囲気……。

「あのぉ~……ゆーと先輩は、まだ早川さんと城ヶ咲さんをつき合わせることを諦めていらっしゃらないのでしょうか……?」

 おずおずといった感じで、日向ちゃんが3人を代表して僕に聞いてくる。

 え、なんで?

もうみんなは、諦めちゃったの?

「いやいや! 早川はフラれたって聞いただろ、お前!」

 こな雪が面倒そうに言ってくる。

「いや、それは本人からも聞いたけど……だからって別に、諦める必要、なくない?」

「……はい?」

 灯が頭痛を抑えるように、こめかみに手をやりながら聞き返す。

 むむ。なんか、めっちゃアウェーだぞ。

「そりゃ今回はダメだったけど……もっとカッコよくなって、また告白すればよくない?

 ひょっとしたら頑張ってる内に相手の気が変わって、向こうからお誘いが来るかもしれないしさー」

「「「…………」」」

 沈黙。

 ……なにこれ。

 僕としては、至極当然のことを言っているつもりなんだけど……なんなの、この空気。

ダメなの?

「……ぷっ。あはははははははははははははははははは!! バカだ! バカがいるぞ!!」

 数秒の沈黙後、こな雪が我慢できなくなったという調子で爆笑し始めた。

 見れば、灯と日向ちゃんも笑っている。

「な、なんだよー! 別に、いいじゃないかよー! 同じ人への告白は一度しかできないなんて決まりは無いし、さらに頑張って何度でも挑戦すればいいじゃん!!」

 僕の発言を聞いて、みんながさらに笑い出す。

 うぅ……僕はそんなに変なことを言っているのでしょうか……。

「ふふふ……そうですね。ゆーと先輩の言う通りです。それじゃあ、さらに早川さんをイケメンにする方法を考えましょうか」

「そうね。きっと今以上にカッコよくなったら、さすがの城ヶ咲さんも落ちるでしょ」

「だなー。しゃーねー、やるかー」

 おっ。結局なんだかんだで協力してくれるみたいだ。

「ありがとー。マジで助かるよー。僕だけだとなんにもできないからさー……」

 よよよ、と泣き真似をする僕の背中を三人が叩き、笑いながら会議を始めてくれた。



 そして、今回のオチ。

「ありがとうございます、夢人さん。そうですよね。一回ダメだったからって、諦める必要はないですよね」

「そうだよ! 早川君、マジで超カッコよくなったんだからさ! あと一歩で、城ヶ咲さんもきっと落ちるよ!!」

「そう信じます。(笑)」

「……そうそう。話は変わって、早川君。僕から、折り入ってお願いがあるんだけど……」

「なんですか? 夢人さんからのお願いだったら何でも聞きますよ?」

「マジっスか!? 早川の兄貴、マジ、パねぇっス!」

「どうしていきなりパシリ口調になったのかはわかりませんが……なんでしょう?」

「友達に……なりたいんだ……」

「……友達? ですか?」

「そう、友達……っ!(ドキドキ)」

「それは無理です」

「ええっ!?」

「友達ってことは『対等』ってことですよね? それは無理ですよ。どう考えても夢人先輩の方が格上です。(苦笑)」

「な、なに言ってんスか、早川の兄貴! 自分なんてマジで三下のパシリっスよ!?」

「そうですねー……ぼくと夢人先輩の差はそれ以上あると思いますが……じゃあ、ぼくをパシリとして使ってください」

「どうしてこうなった!」

「よろしくお願いします、夢人のアニキ」

「うわーーーん! 僕は絶対、舎弟はとらねぇーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「ああ! 夢人のアニキ、どちらへ!? アニキーーー!!」


 安西先生……友達が、欲しいです……。



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