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そしてあなたと。

作者: 彪兎




その日は体育祭だった。

あたしは町田まちだ 日向ひなた

N中学校に通う2年生。


・・・多分、この学校であたしが一番、体育祭を楽しみにしていただろう。

その理由は、他人からしてみればくだらないかもしれない。

あたしは別に、特別体育が好きなワケじゃない。

成績の5段階評価で言えば、中間の『3』だ。

それに、全部の競技を楽しみにしているワケではないのだ。

楽しみにしている競技はただ一つ。




フォークダンス




・・・なのだ。



あたしには、好きな先輩がいる。

3年5組の、奥田おくだ 智宏ともひろ先輩。

今は引退してしまったが、元男子バスケットボール部主将。

180cm程の長身。

頭もよく、学年では必ずトップ10には入るという。

生徒会では書記を務めたりもしている。

好きになった切っ掛けは、バスケ部の応援をしに行った時だ。

仲のいい西江 みずき(にしえ みずき)という子の彼氏が男バスだった。

その子は結構上手いらしく、2年で唯一のベンチ入りをしたそうな。


「日向も一緒に行こうよっ!ね!」


「うーん。まぁいいよ。行ってあげる」


あたしは部活はめんどうだからといって入っていなかったので、丁度その日は暇だった。

あたしとみずきは体育館の2階に上がり、そこから見る事にした。


「あっ!始まるみたいだよ」


あたしはそう言われて、N中の試合をするコートを見た。

さすがに長身ばかりだった。


「ねー、ウチってどっちのユニフォームなの?」


「赤だよ」


言われて見てみる。

確かに中学校の名前が記されていた。


「あっ!翔くーん!」


みずきは彼氏に手をふる。

ホントだ。

2年あいつしかいない。

それを確かめた後、またコートに視線を戻す。


「ぁ」


あの人、一番おっきい。

ユニフォームに記された番号は『4』。

試合開始の笛が鳴り、ジャンプボールが始まる。

その『4』が飛ぶらしい。

審判がボールを高々と上げる。

そのボールを『4』が弾く。

すごい。

声を上げそうになった。

そしてそのボールを見方が取り、攻める方まで運ぶ。

そしてそれが高く投げられたかと思うと、さっきの『4』がキャッチし、シュート。

シュパッという、綺麗な音がした。


「・・・・・・・」


あたしは、唖然とした。

胸の奥が騒いだ。

隣のみずきは

「ナイッシュー!」

と声を出す。


かっこいい。


それからどんどんと得点を重ねていく。

32対11。

こっちが勝っていた。

第一クウォーターの残り10秒。

『4』にボールが渡った。

シュートを打つ。

それは、大きな弧を描いてゴールへと吸い込まれていく。

シュパッと、音が鳴った。

彼が投げた所の足元にあったライン。

そこは3ポイントラインと言って、入れば3点入るのだとか。

それを、彼は決めた。

歓声が上がる。

彼も笑顔で仲間と手を合わせていた。

35対11。

ドクンと、心臓が高鳴った。


すごい・・・。

めちゃくちゃかっこいい・・・。


あたしはその姿に、心を奪われてしまった。

結局その試合は101対58で圧勝。

最多得点はあの『4』だった。

それからも次々と勝ち進み、その大会を優勝した。

その後に、その人が奥田先輩だという事が分かった。

それからの試合は欠かさず見に行き、その度に好きになっていった。


今年は奥田先輩の活躍で、県大会まで勝ち進む事が出来たのだが、決勝戦で惜しくも敗退。

それを最後に、引退した。

もうあのかっこいい姿を見れないと思うと、あたしは悲しくてしょうがなかった。

でも、その引退の時。


「ねぇ君」


「はっ!はいっ!?」


突然、先輩に呼ばれた。


「君、ずっと試合見に来てくれてたよね」


「え。知って・・・」


「もちろん」


嬉しかった。

初めて喋れた事もそうだが、何よりあたしを知っててくれたという事実が嬉しかった。


「いつも2人で見に来てくれてて、ありがとう」


先輩は笑った。

試合に負けて、さっきまで涙を浮かべていた目で。


「君達のおかげで、ここまで頑張れた」


「そっそんな事!」


「ありがとう」


胸が、痛かった。

息がしにくかった。

それ程、ときめいていたのだ。


「あの・・・」


「ん?」


あたしは一息吸って、



「3年間、お疲れ様でした」



一言言った。


先輩はそれに一瞬驚いた顔を見せた。

それから、目を細めて笑い、


「こちらこそ、応援ありがとうございました」


と言った。

そう言われ、あたしと先輩は握手を交わした。

大きくて、あったかい手だった。


それからも、あたしは先輩が好きだった。


そして、今日までに至る。


「日向ー、次玉入れだってさー。行こ」


「ほーい」


この玉入れが終わり、紅白リレーが終わったら、フォークダンスだ。

先輩に触れれる、最後のチャンス。

そして同時に、告白のチャンスでもあった。

あたしは、この気持ちを伝える気でいた。




そしてやってきたフォークダンス。

曲が鳴り始める。

全校生徒が踊り出す。

そして何人が終わった頃。

ちらりと後ろを覗く。

すると、先輩が2人くらい後ろで踊っていた。

突然心臓が高鳴る。


もうすぐだ・・・。


1人ずれる。

先輩との距離が縮まる。


「すー・・・はー・・・」


あたしは小さく深呼吸した。



そして。



大きくて、あったかい手が触れた。

先輩だと、分かった。


「・・・先輩」


「久しぶり。日向ちゃんだよね?」


覚えててくれた。

それだけで失神しそうになる。


「あたし、先輩に言う事があるんです」


一つ息を吸い、言った。






「あたし、先輩が好きです」






先輩を見つめて、ハッキリと言った。


先輩の目は見開かれ、驚いた表情だと分かる。


「・・・返事は、今じゃなくていいんです」


先輩から視線を外して言った。


「受験が終わって・・・3月の31日に、返事を下さい」


先輩は、あたしを見つめていた。


「ダメなら、何もしなくていいです。・・・・・でも」


もう一度、先輩を見つめる。


「もしもOKなら・・・校門の桜並木の所で、待ってますから・・・」


「うん」


「そこに、来て下さい。何時でもいいです。あたし・・・ずっと待ってます」




それを告げたと同時に、先輩の手が離れた。


小さく、 


「分かった」


と、聞こえた気がした。




そして3月31日。



あたしは待った。


そのすぐ後。



大きな、一つの影が見えた。



あの大きな手をふりながら、走ってくるのが、とても嬉しかった。




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