俺を追放した勇者が、俺の私物である「全自動・局所洗浄スライム(殺菌レベル:滅びの呪文相当)」を伝説の防具と勘違いして装備した件について
「錬金術師のタロウ! お前はクビだ! 毎日毎日、研究室で役立たずのガラクタばかり作りおって!」
魔王討伐の旅の途中、勇者ゼクスは俺の胸ぐらを掴んで叫んだ。
俺はパーティーの資金をやりくりし、魔道具を作って裏からサポートしていたのだが、目立ちたがり屋のゼクスにとって俺は「地味で金食い虫の邪魔者」でしかなかったらしい。
「出ていくのは構わないが、せめて俺の私物は返してくれ。特にあの『厳重に封印された黄金の箱』だけは……!」
「ハッ! 誤魔化せると思うなよ! お前、パーティーの資金を横領して『伝説の神具』を隠し持っていたな! この箱から尋常じゃない魔力を感じるぞ!」
ゼクスは黄金の箱を抱え込み、下劣な笑みを浮かべた。
俺は顔面蒼白になった。
「馬鹿野郎、違う! それは俺が個人的な趣味で開発していた『全自動・局所洗浄スライム(プロトタイプ)』だ! 長旅で風呂に入れないのが不快すぎて、自動で股間を清潔にしてくれる魔道具を作ってたんだよ!」
「見え透いた嘘を! 貴様は俺がこの神具を装備し、さらに無敵になるのが恐ろしいのだろう! さっさと失せろ!」
何を言っても無駄だった。
俺はあきらめて、一つだけ忠告を残すことにした。
「……勝手にしろ。だが、もしそれを身につけるなら、絶対に『殺菌レベル』のダイヤルは回すなよ。まだデバッグが終わってないからな」
〜数週間後:魔王城・玉座の間〜
「ついに追い詰めたぞ魔王! くらえ、俺の聖剣の一撃を!」
「ふははは! 浅い、浅いぞ勇者よ! 我が暗黒魔術の前にひれ伏すがいい!」
魔王の放った漆黒の炎が、ゼクスを包み込む。
しかし、煙が晴れた後、ゼクスは無傷で立っていた。彼の股間部分だけが、神秘的な青い光を放っている。
「な、なんだその股間のオーラは!?」
「ふははは! 見よ魔王! これこそが俺の隠し玉、いかなる魔法も弾き返す『伝説の股間アーマー(仮)』だ!」
ゼクスは、あの日奪ったスライムをズボンの下に仕込んでいた。
スライムの持つ強力な魔法耐性が、奇跡的に魔王の炎を無効化していたのだ。
「す、素晴らしい……! 下半身が常にひんやりとしていて、しかも自動でマッサージまでしてくれる……! これさえあれば俺は無敵だ! いけ、伝説のアーマーよ! その真の力を解放しろ!!」
テンションが最高潮に達したゼクスは、俺が絶対に触るなと言った『殺菌レベル』のダイヤルを、勢いよく「MAX」まで回してしまった。
ピピッ。
『——音声コマンドを受理。これより、局所の完全なる浄化を開始します』
無機質なシステム音が玉座の間に響き渡った。
「え?」
次の瞬間、ゼクスの股間に仕込まれたスライムが、赤黒く変色した。
システムは、長旅で蒸れに蒸れ、汗と泥にまみれたゼクスの股間を「世界で最も浄化すべき汚物」と認識したのだ。
「ジュオンッ!!」
「……ギャアアアアアアアアア!!?」
魔王城が揺れるほどの絶叫。
スライムは「滅びの呪文」に相当する威力を持つ超・強酸性の殺菌ジェルへと変化し、ゼクスの股間にダイレクト・アタックを仕掛けた。
「あ、熱い! 痛い! 溶ける! 俺の! 俺の魔剣が根元から浄化されていくううう!! 外れ、外れない!? なんでこんなに密着度が高いんだあああ!!」
「ゆ、勇者……? お前、一体何と戦っているのだ……?」
あまりの光景に、魔王すらドン引きして玉座から後ずさりした。
「魔王! 頼む、俺を殺してくれ! 今すぐ俺の下半身ごと暗黒魔術で吹き飛ばしてくれええええ!! 殺菌が! 過剰な殺菌が俺の存在を消し去ろうとしているううう!!」
「い、嫌だ! 気持ち悪いから近寄るな!!」
伝説の勇者と恐るべき魔王の最終決戦は、股間から白煙を上げながら追いすがってくる勇者から、魔王が城中を逃げ回るという地獄の鬼ごっこへと変貌した。
一方その頃。
俺は隣国で「安心安全なスライム温水便座」を大ヒットさせ、巨万の富を築いていた。
「やっぱり、製品化する前にデバッグは必須だよな」
俺はふかふかのソファに座りながら、特上のワイングラスを傾けていた。
勇者ゼクスがその後どうなったかは知らないが、魔王軍が突如として「完全潔癖主義」を掲げて平和的な国家へ生まれ変わったというニュースが、世界中を駆け巡っていた。




